キス

「ねぇ、キスしましょう」

「ここがどこだかわかって言ってます?木乃香このか先輩」

いくら人が居ない学校の図書館だとしても学校なのだ。

流石に学校でキスをするのは…

噂なんてどこでどう捻じ曲がるかわからないのだ。なら少しでも噂になるようなことを避けたいと言うのにこの先輩は。

「それならいつキスしてくれるのかしら。まだ手しか繋いでもらってないんだけど」

「えっと…その、キスはもう少したってから…」

「そう言ってもう一月よ?少しは勇気を出したら?」

そう。既にことやりとりも一月前から続いているのだ。

『キスをしましょう』

初めて言われた時は衝撃的だった。

なぜならようやく手を繋ぐことが出来た直後に言われたのだから。

ドキドキしていた心臓が爆発するんじゃないかというくらいまで跳ね上がったのを今でも忘れることができない。

またドキドキしてるとチャイムの音が静かな図書館に鳴り響く。

「あら、そろそろ帰らないと行けない時間ね。希乃きの、帰りましょう」

「ちょ、待ってくださいよ。木乃香先輩!」

慌てて荷物をまとめて木乃香先輩のあとについていく。


結局、今回も希乃はキスをしてくれなかった。

別に私からキスをしに行ってもいいのだけれどそれではダメなのだ。

付き合って初めてのキスはやっぱり彼からしてもらいたい。

「希乃、とりあえず手を繋いで帰りましょ」

そう言って手を差し出すと少し躊躇いながらも手を繋いでくれる。

(手を繋ぐのもまだこんな状態じゃキスはもっと先かな?)

「木乃香先輩って周りの目をあんまり気にしませんよね」

「だって気にする必要なんてないじゃ無い。好きな人と手を繋いで何が悪いのよ」

「僕は気にしてるんですけど…先輩」

「どうして?」

「だって、先輩って結構人気なんですよ?そんな先輩と付き合ってるのがバレたら…」

たしかに私はどうやら学内で結構人気があるらしく何度も告白されたこともある。

だが…

「それがなによ、もっと胸を張ればいいのよ。この私に恋させたのは俺だぞって」

「え〜」

なんて希乃と話をしているこの瞬間が私は一番好きなのだ。

しかしそれもあっという間に終わってしまう。

「では、先輩。また明日」

そう言って離れていく希乃の手。

「うん、じゃまた。明日ね」

そう言ってお互いの帰路に着いた。

それから同じような日々が続いたある日。

いつもの地点に来てもなかなか手を離さない希乃。

その手は少しだけ震えてるように感じた。

「希乃?どうしたの」

「えっと…その、先輩。ぜひとも目を…閉じていただけると…う、嬉しいなぁなんて」

なんとも変な日本語を話す。

でもなんとなく伝わった。でもあえてここは知らないフリをしよう。

「目を?」

「(コクコク)」

無言で頷く。

言われた通り目を閉じる私。

「う、動かないでくださいね?」

「はいはい」

そうしてどれくらいの時間が過ぎたのだろう。

長く感じたが実際は10秒ほどかもしれない。

私の唇に柔らかいものがほんの一瞬だけ触れる。

目を開けると…顔を真っ赤にした希乃と目が合う。

「ー!!そ、それじゃまた明日!!!」

あまりに恥ずかしかったのかそのまま走り去ってしまった。

私は唇に残る微かな感触を確かめながらその場に立ち尽くすしかなかった。


僕は顔が熱くなってるのを感じながら走った。

(キスしちゃった、木乃香先輩の唇柔らかかった。すごくいい匂いした!!)

先程からずっと心の中はこのことしか考えていない。

今にも破裂しそうな心臓。

「キス、しちゃったんだ…」

唇に残る感触、ほのかに香る甘いような匂い。

それらを思い出すだけでドキドキしてしまう。

この後、希乃は帰ってからもベットでしばらく悶えることになるのであった。

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