初デート

落ち着かないように何度も携帯を見る少年がいた。

たった10分の間に20回くらい見てる。

そしてため息を一つ。

「あー、もうすぐ約束の時間だ…」

そう呟いて僕は深呼吸をする。

「大丈夫、変なところなんてないはず。」

改めて確認をする。

寝癖はしっかりと直して髪はセットしたし顔も洗った。

そうして頭のてっぺんから足先まで確認して顔を一度たたく。

「何してるの?顔なんか叩いて」

「うわぁぁ!?」

いきなり声を掛けられて驚いて大声を出してしまう。

「おはよ、瑞樹」

「お、おはよう。詩織」

挨拶をされたので反射で挨拶を返す。

慌てて声を出していたのでもしかしたら声が裏返っていたかもなんて思ったがもう手遅れだ。

「それで、どこに連れてってくれるのかな~。瑞樹」

そういって僕の彼女、詩織が歩き出す。

僕も駆け足で彼女の横に並ぶ。

「ん~、ゲームセンターとか?」

そういうと詩織が不満そうな顔をする。

「ゲームセンターって…。ほかに思いつかないの?」

「ゲームセンターはゲームセンターでもせっかくだからラウンド2だよ?あそこならボーリングもできるし」

そういうと詩織は納得したのか笑顔になり

「それじゃ、さっそく行きましょ」

と言って歩いていく。

それを再び小走りで追いかける。

僕は詩織の背中を見ながら思った。

デートだから手ぐらい繋がないと、と。


あれから瑞樹が一度も手を繋ぐことなくラウンド2に着いた。

何度かチャンスを作ったのに…

「ねぇねぇ、クレーンゲーム見てこうよ!」

当の本人は真っ先にクレーンゲームコーナーへ走っていく。

私も瑞樹のあとを追ってクレーンゲームコーナーに入っていく。

「これ、可愛い!!でも500円じゃ取れないな…。こっちは…可愛いけど大きすぎるし…」

完全に自分の世界に入っている。

私はそんな瑞樹を放っておいて自動販売機コーナーへ向かうことにした。

「うへ~、おいしそうなジュースないじゃん」

気になってるジュースがあったのだが残念ながら売り切れ。

仕方なくスポーツドリンクを買うことに。

手に取り蓋を開け一口。

おいしいと特別思うことなく飲む。

すると向こうから瑞樹が戻ってきた。

「ごめん、ちょっとあっちで可愛いもの見つけたからつい取ろうとして遅くなった」

「別に~、可愛い可愛い彼女を放っておいてクレーンゲームに夢中だったことに怒ってなんかいませんよ~」

ホントに怒ってはいないが少しむすっとした口調で言うと瑞樹が本当に申し訳なさそうに謝ってくる。

このままでもいいのだが流石に瑞樹がかわいそうなので一つ提案をしてこの件を終わらせることにした。

「それじゃ、プリクラ一緒に撮ろ?」


それから詩織とプリクラを取りボーリングをしたりシューティングゲームをしたりしているうちに夕方になった。

「もうこんな時間か、あっという間だったね」

詩織が何か言っているが僕には聞こえなかった。というより詩織の言葉に反応できるほど余裕がなかった。

(結局まだ手を繋げてない…。もう最後なのに)

そう、結局瑞樹はまだ手を握れていないのである。

何度かチャンスはあったのだがどうしてもあと一歩踏み出す勇気が出ないのだ。

「ねぇ、聞いてる?瑞樹ってば?」

返事をしない僕が心配になったのか顔を覗き込んでくる詩織。

僕はどきっとしながらもなんとか返事を返す。

「どうする?もうこんな時間だし今日は帰る?」

「えっと…最後に行きたいところがあるんだけどいいかな?」

「いいけど、あんまり遅くならないようにしてね?」

詩織の了承を得たので僕はデートの最後を飾るため町を一望できる展望台を目指すことにした。

展望台に行くため長い坂道を詩織と一緒に上る。

半分まで登ったところで詩織が立ち止まる。

「いった~、やっぱり慣れない靴で坂道は上るものじゃないね」

「大丈夫?足ひねったとか?」

心配してそう聞くが詩織は顔を横に振る。

「そうじゃなくて、かかとが…」

そこまで言われて気が付いた。

流石にばんそうこうなんて持っていない。

あと少しで展望台に着くのに。

あれこれ考えるよりも先に僕の身体は詩織の前でかがんでいた。

「ほら、乗って?」

僕は何を言っているんだ!?

つまりおんぶしてあげると言ってるわけ?

無理無理、手すら繋げてないんだよ!!

なんて思っていると体が重くなる。詩織が僕に身体を預けてきたのだ。

さらに追い打ちを掛けるように一言。

「それじゃ、お言葉に甘えて…」


本当はあんまり痛くない。

けどこのままじゃきっと瑞樹は手を繋いで来ない。そう思って私は痛がってみた。

それで手を繋ぎに来たら飛びついてやろうと思っていたのだが…

瑞樹は予想外の行動に出た。

「ほら、乗って?」

最初は何を言っているのかわからなかった。

でも私の前で背中を向けてしゃがんでいるのだ答えは一つしかない。

私は驚いたがすぐに瑞樹の背中に乗る。

「それじゃ、お言葉に甘えて…」

瑞樹の背中は大きくてしっかりしていた。

普段はおとなしい男の子なのにこのときばかりは頼もしくてしっかりとした男に見えた。

そのまま山頂に着くと瑞樹は近くのベンチに私を下ろしてくれ、瑞樹も私の隣に座る。

「もっと早く言ってくれたらばんそうこうの一つくらいコンビニで買ってくるんだけど…」

そういうと瑞樹はうつむいてしまう。

「いいよ、私が不慣れな靴で来たのが悪いんだし。」

それに別に痛くないからとは言えなかった。

「そ、それよりどうしてここに来たの?」

私がそう聞くと瑞樹はポケットからイルカが二匹付いたキーホルダーを一つ取り出した。

それは先ほどのクレーンゲームの景品だった。

「ホントなら二つ取ってペアルックにしたかったんだけど一つしか取れなくて。」

そういって瑞樹は私に手渡してくる。

私はそれを受け取ってイルカの一匹を取り外し瑞樹に手渡す。

「これでペアルックってことに。」

片方はキーホルダー用のひもがないのでペアルックといえるか微妙な気がするがそこは気分の問題だと思いながらも口にする。

「ありがとう、詩織。」

満面の笑みで瑞樹がお礼を言ってくる。

流石に恥ずかしくなって少しだけ顔を逸らしながら言う。

「そろそろ帰ろっか、瑞樹またおんぶお願いね」

すると瑞樹が顔を真っ赤にしながらも私の前でしゃがむ。

そこにおもっきり飛び乗る。

手を繋ぐはずがおんぶになっちゃったけどこれでもいいよね、瑞樹。

初デートでおんぶなんて、かっこよかったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る