受信料徴収員 ★★★★ ★★

 気が付くと武は荒涼とした風景の中に立っていた。


 夢か?


 昨晩、自室のベットに潜り込んだ記憶はある。これはテレビ画面に映ったあの風景を見たせいだろうか?それとも気分がすぐれないまま眠ったせいか?

 

 鉛色の雲に覆われた空、倒れた灰色の草に覆われた凸凹の大地、所々に背の低い奇妙にねじまがった枝を伸ばした気が散見される。


 見渡す限り「文明」と呼べるモノの残滓は見当たらなかった。


 今まで、見て来た夢とは全く違うと感じながらも、過去を振り返れば「夢で良かった」と目覚めてホッとする悪夢で目覚めた経験は何度かある。

 ただ、ここまでリアルなのは本当に初めてだ、覚醒が近いのか?体調の悪さのせいか?


 こんな夢を見るような体調ではでは今日は会社を休むしかないな、、、、


 そんな事を考えつつ武は荒涼とした大地を進むことにした。足に感じる感触は本物そっくりだ、つまり疲労が足に来ている、裸足のためいくらも進まないうちに、痛みに根をあげ腰を下ろした。

 いま、寝ながら何処かに足をぶつけているか、何か尖ったものが足に当たっているのだろう。

 

 昔、「腹が膨らんで破裂する」と苦しんでもがいた夢は、目覚めると隣で寝ていた弟の足が自分の腹に乗っていたのが原因だった。

 だから痛覚などを刺激する夢は、身体にそれなりの事が起きているという意味だ。

「苦しい」「痛い」と感じているからといってすぐに覚醒しない事を武は知っている。


 「金縛り」


 良く、意識はあるのに身体が動かないと言う話を聞くが、実際は意識も身体もまだ起きてはいないのだと推測する。


 武は試しに後ろに思いっきり倒れ込んでみた。


 「!!!!」


 身体をぶつけた痛みにうめき声が上がる。しばらく倒れ込んでのたうち回ったのち、声が絞りでる。


 「、、、、な、なんだ、、、これ」


 頭を押さえて、地面を見るとそこには草に埋もれた石、いや「石碑」の様なものが付きだしているのが見える。これに頭をぶつけたらしい。打ち付けた部分を反射的におさえた、掌を見ると血がついていた。


 「体調不良」や「金縛り」といった事態ではない。


 何故?


 混乱と体の痛み、把握できない事態への恐怖から冷や汗と震えが全身を襲う。


 「!!」


 遠吠えが荒野に響いた。武が痛む首を巡らすとそこにはいつの間に居たのか?「毛のない犬」の様な醜い獣が、落ちくぼんだ眼窩から赤く光る眼光を光らせこちらを見ていた。

 大きく避けた口からだらりと舌を垂らした「獣」はゆっくりと、」だが確実にこちらに歩みを進めてくる。

 武は腰を抜かしたまま転がるように向きを変え、草地を這うように進みながらもなんとか立ち上がった。そして己の背後を振り返る。


 「!!」


 獣が増えている、そして


 「は、蓮田、、、さん?」


 そこには身体をローブの様にすっぽり覆う「黄色」の上着まとった人物が居た。この距離から顔を判別するのは難しいが、そのシルエット、髑髏の眼窩に見える大きなサングラス。

 あの時、ドアを開けた時に戸外に立っていた「異形」そのモノがそこにいた。


 何処とも知らぬ地で「知り合い」に会った、そんな喜びは武には無かった。

 「黄衣」が「獣」と共に歩みを進めた瞬間、武は声にならない叫びをあげ、駆け出した。


 武は必死には走った、とにかく「黄衣」から逃れようと、闇雲に。

 血走った眼球は涙を流しながらは何処かに「救い」を探しさまよい、身体は喘ぎ、鼻からは鼻水、口元は酸素を求めて涎と舌が飛び出していた。


 世界は鉛色から闇に移り変わっていた。


 だがついに限界を迎え、武は膝をつき崩れ降りた、、、、、、、


 逃げ続けたかった。

 だが身体が動いてくれなかった、酸素を求め口元は喘ぎ、身体を支える事が出来ず倒れ込んだ。


 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


 何とか息を整え、身体を引きづり起こした。


 「!!」


 武は驚愕した、そこはまた、見覚えのある場所だった。


 「黒い湖」


 黒い宇宙に星が瞬く夜空がそのまま地上に注がれて広がったようだった。暗闇に在って、その水面から立ち上るナニか湖の存在を闇に際立たせた。


 武は思わず後ずさったが、振り返ると「黄衣」がそこまで迫っていた。

 「迫りくる恐怖」と「得体の知れない恐怖」。武は自暴自棄で後者を選んだ、少しでも先延ばしにしたかった。


 武は必死に「黒い湖」を泳いだ!


 途中振り返ると「黄衣」と「獣」は湖のほとりで留まっていた。


 武はこれ以上ないと言うほどの「安堵」を得た。が、


 「?」


 何かが周りに浮かびあがって来た。


 「〇%▽?◆※!」


 湖の底から、いや気が付けば自身の周りすべてに「蛸」の様なナニかが蠢ている。

 その一匹と武は目が合った武の悲鳴はもはや人のそれではなかった。


 武はパニックのあまり湖に沈みおぼれた。


 嗚呼、自分はこのまま溺れ死ぬんだ


 武はその「理解しやす」い終わりに「安堵」すら覚えていた。死に方としても「普通」だし、悪夢ならそこで目が覚めたとしても笑って受け入れることが出来るだろう。


 だが、、、、、


 沈み始めた武は背中から何かに包み込まれる、身体がすさまじい勢いで水中から再び湖面へ浮かび上がる。

 死にたいと願った武だが、身体は苦しみから逃れるために水を吐き出し空気を求めた。

 

 武は絶え絶えとしながらも顔を上げ、首を巡らして湖から自分を押し上げた「ソレ」を目の当たりにした。

 

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