culamusolders(クラムソルジャーズ)

@zyubakurei_siro

プロローグ

―僕はふと思った。異世界に行ってみたい、と―


ゴポッ、ブクブクッ。

薄暗い研究室。研究者達の抗論する声と、タブレット資料を持って行き交う足音。しかしこの空間が静かだと言えるのは、時折聞こえる泡の音がしっかりと聞こえるからだ。


―希望と不安の入り交じる日常を見ながら過ごすのは、もう飽きた―


ゴポッ、ブクブクッ。

白衣の足元を通る、大小様々なコード。密集したコードは、やがて太さを増し研究室の中心部に集まる。そしてそこにあるのは、床から天井まである大きな円柱型の水槽。透き通るきれいな液体を青のLEDの光が照らす。中にクラゲやマンボウがいれば美しいのだが、そうではない。その大きな水槽には見合わない、小さな黒い影が1つ。異様な光景。


―夢だの未来だの言ってるけど、行き着く先はみんな同じ。死。後には何も残らない―


ゴポッ、ブクブクッ、ブクブクブクッ。

黒い耳と黒い尻尾を生やした影は、水槽の中で眠っている。サイズの合った呼吸器を当て、ただひたすら泡を吐きつずけている。異様な光景。


―ほらね、生きてる意味なんて何も無い。なのに人は何十年も生きつずける―


ゴポッ、ブクブクッ。ゴポッ、ブクブクブクブクッ。

「おっ、おい! 活性化が始まったぞ!」研究者の持っていたタブレットの中の、何かの数値の赤い線が、右上に向かって急上昇する。出る泡の量が増える。指示が飛び交う。足音が増え、速まる。


―だから僕は異世界に行きたい。何も考えず、わかりやすい「敵」を倒す世界―


ヴーンヴーンヴーンヴーンヴーン

研究室にある幾つものモニターに赤く「warning」の文字。研究者の手の中で、赤い線を上辺まで達っしさせたグラフが「ピーー」と鳴る。その音をかき消すように、鳴り響くサイレン。


―そしてその世界で、滅びゆく現実世界を、何も考えず眺めてみたい―


ゴポッ、ブクブクッ。

赤い警報の中、青く光るLEDに照らされた黒い影は、ゆっくりとまぶたを開く。きれいな白い泡の音が、はっきり聞こえる。静かだからではない、あまりに異様だったからだ。危険な生物が鮮やかであるように、その影は、とても美しかったのだ。そして、研究者は言った「完成した、Dゲートが…」


―しばらくして、僕、有栖ありす 永斗えいとの夢は叶うことになる―

〜これは、僕が見つける新たな夢を、叶えるための物語〜

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