第六話 資金調達


 ――アタル視点――


 今回の茶番も上手くいったぞ!

 

 以前からアデルさんは僕の世界である地球に興味があり、根掘り葉掘り聞いてきた。

 そして宇宙の概念を話してみたら、宇宙を観測する事でどうやら見つけたみたい。

 この《リューンハルト》は、地球から約一千光年離れている場所にあったようだ。

 魔術すげぇぇ!!


 さらに魔力を使って宇宙を観測したところ、空間の通路みたいなのを見つけたみたい。

 試しに《アバター》という魔力で生成した分身を飛ばしてみたら、一千光年なんて距離もその空間の通路を使えば短い距離だったんだって。

 魔力万能過ぎでしょ。いや、アデルさんがある意味ぶっ壊れなんだろうね。


 とりあえず、茶番で使った魔術は、一見相手を消滅させる魔術に見えるけど、ただの空間移動魔術である《深淵を移動する者》でした。


 僕達は空間を出ると同時に透明化し、忠犬ハチ公像の隣に降り立った。そして風景に同化するようにゆっくりと透明化を解除した。


 やってきましたよ、渋谷!!

 天気は快晴、太陽はまだ真上じゃないなぁ。

 ビルに付いている電子時計を見てみると、午前十時だ。

 向こうでは確か大体朝七時に茶番が始まって、地球までの移動は三十分程だったよなぁ。

 となると、約一時間半の時差があるって事かな?


 しっかしまぁ、四年前位にここに来た事あるけど、本当久しぶり、ハチ公!


 隣にいるアデルさんを見てみると、口をあんぐり開いたままで辺りをきょろきょろ見ている。

 挙動不振だなぁ。


「アデルさん、大丈夫?」


「うわぁ、すっごい人がいる! うっわぁぁ! なんだろう、色々音がするし絵が流れているし、賑やかにも程がある!!」


 アデルさん、渋谷に圧倒されてるなぁ。

 そりゃそうだ、《リューンハルト》は二つの大陸を合わせても人口は一億も満たない。

 一番人口が多い首都であっても、渋谷みたいな人混みは形成されないし。


「アタルさんアタルさん、あのでっかい建物の中に大きな人が踊っていますよ! どうやって中に入ってるんですか!?」


 ハチ公像の向かい側のビルの外観に設置されている、電子掲示板に二年前にブームだったアーティストが躍りながら歌っていた。

 曲のCMが流れている事にびっくりしているようだ。

 このアーティスト、メインボーカル二人を囲むように十人近くダンサーがいる男性グループなんだけど、正直色んな派生のグループがあるから誰が誰だかわかんないんだよね。

 そういや、幼馴染みの由加里ちゃんが彼らの事好きだったなぁ。そんな彼女に色々渋谷を連れ回されたから、何となく場所はわかるんだよね。


 えっ、何でいじめられっ子が幼馴染みに連れ回されてるかって?


 ん~、多分幼馴染みだったから、じゃないの?


 ……由加里ちゃん、元気かなぁ。


「アデルさん、とりあえずこの地球ではこんなのがたくさんあるよ。あとで詳しく話すから、こんなもんがあると思って!」


「だってだって、この世界魔術ないんですよね? 何でこんな風になってるか気になって仕方ないですよ!!」


「だぁぁっ! この異世界学者脳め! 一旦落ち着いて!!」


 なんやかんやアデルさんを宥めていると、無数の視線を感じた。

 アデルさんも感じ取ったみたいで、周囲を見渡してみると皆が僕達を物珍しそうに見ている。

 耳を澄ましてみると、日本語でこんな風に囁かれていた。


『二人とも格好いいけど、何のコスプレしてるのかな?』


『あの金髪、頭から角が生えてるけど何処で売ってるんだろ?』


『ここアキバじゃないんですけど(笑)』


『マントがイケてるな! 俺も店探して買ってこよう!』


 おぅ?

 僕達の格好に関して話してる?

 しかし、日本語懐かしいなぁ~。

 

 ……じゃなくて、僕は自分とアデルさんの格好を見てみた。


 あっ、こりゃ確かにコスプレだわ。


 僕はクソ愚王から強制的に贈られた白銀の鎧を付けたままだし、アデルさんは魔族の角を生やしたままで漆黒のマントを羽織った状態。

 こんなコテコテなファンタジーよろしくな格好じゃ、好奇の視線を集めちゃうわ。


「アタルさん、何で私達はこんなに注目されているのですか? 敵意ではないようですが……」


 アデルさんは日本語は理解できないし喋れないから、リューンハルト語と呼ばれるあの世界の共通言語を使っている。

 僕も二年もいれば覚えちゃったから、バイリンガル気分なんだよね。


「この世界で、僕達の格好をしている人は通常はいないから、今変人扱いされてるよ、僕ら!」


「へ、変人!? いやいや、私は正装ですよ!?」


「この国ではおかしい格好なの! 日本を楽しみたいなら、身なりを直さないと!」


 とりあえず、僕達はアデルさんの魔術で透明になる。

 僕は鎧を、アデルさんはマントを脱いでメタモルフォーゼの魔術で角を隠して人間になる。

 そしてまたゆっくりと透明化を解除した。


 うん、幾分かマシになったけど、やっぱり時代錯誤な格好だよなぁ。


 さてと、まずは資金を早急にゲットしないと!

 その為に僕は金の皿とか金目の物を持ってきたんだし、アデルさんもそれなりの物を持ってきている。

 それらを質屋に入れる計画を事前に立てていたんだ。


「よし、アデルさん。早速予定通りお金を調達しよう!」


「わかりました! 質屋楽しみですね」


 目を輝かせているけど、そんないいところじゃないと思うんだよなぁ。

 

 質屋でこれらを売るわけだけど、未成年である僕じゃ取り扱ってくれないんだよね。

 だから異世界に召喚された時に持っていた健康保険証を、ちょっとアデルさんの魔術で偽装して十九歳にしてもらいました。

 皆は真似しちゃだめだぞ?


 それじゃ、質屋に行きますか!









 ――質屋大黒柱屋店員、風祭 綾子(四十二歳 既婚)視点――

 

 私は風祭 綾子。

 この店で働いて十年経つベテランです。

 数多くの買い取りをした経験から、私は目利きには相当自信があります。

 どんな物でも正当に評価し、そしてお客様にお金を渡す。

 それが私の自信となって、長く勤務出来ている次第です。


 しかし、今日はまだお客様の来店がありません。

 といっても今は午前十時、開店したばかりですから、早々来るものではないのですが。


 と思っていたら、早速お客様がご来店されました。

 そんなにお金に切羽詰まっているのでしょうか?

 私がお客様の姿を確認すると、若い日本人男性ともう一人は中性的で性別がなかなか判断できない外国人の方です。

 日本人男性は身長は170から175センチメートル位でしょうか。

 渋谷では珍しく短すぎず長すぎずな長さの黒髪なのですが、艶があってセットされていない髪が好青年らしさを際立たせています。

 顔立ちも優しそうで整っており、私のような中年でも優しく接してくれそうな印象です。

 でも意外に半袖から覗ける腕は引き締まっており、何か運動されているようです。

 ……中世時代の格好をしていますが。


 対する中性的な外国人の方は、風が吹いたらふわっとなびきそうな位柔らかそうな金髪のショートカットの方です。

 しかも日本人男性より身長が高くてスラっとしており、モデルさん並みいスタイルいいです。男性か女性か区別つきませんけど。

 その赤い瞳……赤い瞳!? えっ、カラコンですよね? 赤い瞳の人間なんているわけないですから。

 でも、何かとても自然な感じで似合っております。ルビーのような赤なので、引き込まれてしまいます。

 さらに顔が小さくて、女性のような笑顔なので、本当に性別の区別が付かないです。

 ……この方も何処かのファンタジー作品で見る、エルフの私服のような格好をしていますが。


「店員さん、すみません。買い取ってほしいんですけど」


 日本人男性が爽やかな笑顔を浮かべて私に話しかけました。

 ちょっとドキッとしてしまいました。さぞかしモテるのでしょうね。


「かしこまりました。それでは品物を拝見してもよろしいでしょうか?」


「わかりました」


 日本人男性は手に持っていた大きめの布の袋をカウンターに置きます。

 ドサッという重みがある音と、丈夫な木製のカウンターがちょっと軋みます。

 さてさて、何が出てくるのでしょうか?


「んじゃぁ、これをお願いします」


「はい、では拝見しま……す!?」


 私は絶句しました。

 何故なら、金の皿十枚と、赤青黄色の三色の宝石が装飾されている金のネックレスが三つも出てきたのですから!

 ベテランである私なら一瞬でわかりました、純正の金である事が!


「と、とりあえず、本人確認書類をご提示願えますか?」


 本人確認書類とは、所謂運転免許証や保険証などの身分証明書です。

 しかし最近は気難しいお客様が増え、身分証明書という単語でお怒りになる方もいらっしゃいます。

 ですので、昨今では本人確認書類と遠巻きに言わせていただいております。


 日本人男性は財布から健康保険証を出して、私に渡してくれました。

 生年月日は…………うん、最近十九歳なので問題ないですね。

 十八歳以上なら問題なく取引は出来ます。

 私は傍にあるコピー機で保険証をコピーしました。


 男性に保険証をお返しし、裏に持っていって鑑定しようと袋を持ち上げようとしました。

 が、重い!!

 えっ、軽々と片手で持っていましたが、そんなレベルじゃない!!

 私は何とか両手を使って前屈みで抱えるのがやっとでしたが、何とか事務所に運べました。

 日本人男性が凄く気遣ってくれたのが、おばさんの心に暖かさをくれました。


 私は何とか査定台に袋を置いて店長を呼びました。


「どうしたんだい風祭さん、そんな大きな声を出して」


「これ、私だけでは判断出来ないのもありますから、手伝ってください!」


「風祭さんでも査定難しいやつなのかい? どれどれ?」


 このお店の店長である田中さんは、この道三十年の大ベテランのおじいさんです。

 今回彼の力を借りようとした理由は、金のネックレスでした。

 あの宝石、一目見て何故かこの世の物じゃないような気がしたのです。そんな訳ないのに。


 店長はまず品物の内容に驚きましたが、すぐに査定に取り掛かりました。


「この金の皿、カラット等の刻印は見当たらないが、恐らく22カラットはあるだろうね……」


「純度91%ですか」


「しかも一つ辺りの重さが2kgだよ。相当な金の量を使った贅沢品だよ。だが、一番の問題は……」


「ネックレス、ですよね?」


「うん。これらの宝石だが、ルビーやサファイアに見えるが特徴が違う。いや、宝石の中に炎のような煌めきがある宝石なんて、この世に存在しない」


「何か細工をされているのでしょうか?」


「こんな細工、できやしない! 出来るとするなら、それはオーパーツだよ!!」


 私も拝見しましたが、確かに宝石の中に炎みたいな光が揺らめいていました。

 それが宝石の魅力を引き立たせていて、吸い込まれる位に魅力的でした。


「これは……本来なら買い取らないのが無難だが、柏木さんに売れば買取値を上回る金額で買ってくれるだろうね」


「珍しい貴金属が大好きな、柏木様ですか?」


 当店は意外と珍しいものが入る店で、常連客である柏木様は特に貴金属が大好きなのです。

 そういった曰く付きであろうが、大枚をはたいてでも購入されていく奇特なお客様です。


「よし、買い取ろう! 本日の金のレートは?」


「4429円です!」


 店長は電卓で計算して、まず金の皿の一枚辺りの値段を出した。


「8858000円……10枚で約9千万近くとは。今支払いできないぞ」


 当店の金庫では、規定として3千万以上のお金を管理しないで、足りなくなったら随時銀行から引き落とす形を取っています。

 それを軽く上回っています。


「このネックレスも、一つ100万はくだらないだろうな……。お客様になんて言おう」


「素直に謝って待ってもらって、銀行から引き落として来ましょう!」


「そうだな……。風祭さん、お客様に説明してもらえるかな?」


「わ、わかりました」


 勤続十年、こんな支払えない経験なんてありませんでした。

 でも仕方がない!

 私も接客のプロなので、何とか乗り気ってみせましょう。


 私はカウンターに戻って、日本人男性にまず額を伝えました。


「は、え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 驚いていました。

 そこまでの額になるとは思っていなかったようです。

 隣の外国人も寄り添って心配しています。

 ……この外国人、やっぱり女性なのでしょうか?

 しかも何語かわからない言葉で話しております。

 多分日本人男性が説明したようで、一緒に大声で驚いておりました。

 そりゃ驚きますね。


「今当店の金庫には支払える金額が御座いませんので、少々お時間をいただけないでしょうか?」


「い、いやいや。そんなお金持ち歩けないですよ?」


「では、いかがなさいますか?」


「ん~、とりあえず30万を現金で頂いて、残りはこの口座に振り込んでもらう事は可能ですか?」


 カウンターの裏で待機している店長にアイコンタクトを取ると、親指を立てて返答しました。

 本来ならそんなサービスはやっていませんが、額が額なので異例の処置なのでしょう。


「かしこまりました。今回は特別にやらせていただきます」


「ありがとうございます、店員さん!」


 すごくはにかんだ笑顔が眩しいです。

 私も若かったら、きっと惚れていたでしょう。


 私は店の金庫から用意した30万円を日本人男性に渡し、用紙に口座番号や名前などを記載していただきました。

 立花 アタル様、彼は将来大物になりそうですね。


 そんな事を思いながら、退店する彼等の背中を見送りました。


「またのご利用、お待ちしております!」






 ――アタル視点――


 異世界の物を売ったら、大金持ちになりました。

 まぁ多分何度も日本で色々遊ぶんだろうし、別にいっか!


「しかし、相当な金額になって驚きましたぞ!」


「っていうかアデルさん、あのネックレスって《アーティファクト》じゃん! 魔術ない世界に魔術的遺産を売っても大丈夫なの?」


「ご安心を。あれは《タリスマン》といって、魔力を高める効果程度の物です。魔力がない人間が着けたところで、大した効果はありません」


「ん~、ならいいんだけど。まぁ持ち主の自己責任でいっか」


 お金を手に入れた僕達は、早歩きでとある場所へ向かう。

 そこは表参道!

 渋谷駅から歩いて大体二十分位(僕らの身体能力なら十分位かな?)にある、ナウなヤングにバカウケな洋服を取り扱っている店が多い場所だ。

 そこで二人で洋服を買う事にした。

 早くこんなTPOガン無視な服とおさらばして、久々の渋谷を満喫するぞ!

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