第2話-6

 ヨコハマナンバー1、それがアイドル時代の鬼月ルナの肩書きであり、それゆえに彼女は若くして対バンパイア用の生贄的存在である予備兵にされてしまったのである。

 元戦略級予備兵でありながら任官拒否をした彼女は、たった14歳で最前線の戦術級予備兵に降格され、ゾンビ蠢く地獄の戦場で生き抜いてきたのだ。

 そんな元アイドルヨコハマナンバー1が、渋谷迎撃戦の英雄として前線でうわさになっていたのである。同世代の紫音にとっても、又聞きではあったが、胸躍らされる英雄談であった。

「いや、その英雄話も、本当のところは色々と複雑な話なんだそうなの・・・・」

 何かを言いかけて、話を切り出した彼女は少し肩を落として紫音に言った。

「まあ、生徒会長は世間知らずだから、ちょっと口を出さずに聞いててね」

「す、すみません・・・」

 ここは、ルナの英雄談義を悠長に話している場合ではないとあらためて思い出す。

「で、みんなは知っての通り、鬼月ルナはアキトの元予備兵だった訳だけど、数日前ルナに聞いたところ、アキト君は前線を離れてワンガン兵学校に入学するらしいのよ」

 彼女が話し終えると、その場の全員が首を傾げた。

「はぁ?」

「マジぃ!」

「何でぇ?」

「どいうことよ?」

 まわりが意味不明といった声をあげたところで、隊長と副隊長が同時にうなずいた。

「そうか!」

「いや、でも、どうやって彼を動かすんだ? まさか生徒会長命令とかですか?」

 副隊長が少し引きつった笑みを浮かべて柏木中隊長に聞いた。

「さすがに、そんなアホな命令は洒落にならないし。下手すれば、あたしらが魔女の餌食にされかねないわ」

 副隊長もその言葉に大きくうんうんとうなずいた。

「で、あなたは何か作戦があるんでしょう?」

 その柏木隊長の問い掛けに、紫音の隣に立った彼女は事も無げに言った。

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