生まれて初めてビニール傘を買った

うまれーてーはーじめーてー♪ びにがーさかったーのー♪


と、くっそくだらない替え歌が浮かんで口ずさんでみたけど、ネズミに消されてしまうだろうか。こんな歌のせいで。


つい先日、23歳にして生まれて初めてビニール傘を買った。


私は幼い頃から結構物持ちがよく、幼稚園卒園時の記念品の傘は同級生が次々壊していく中、使うのが恥ずかしいと思うまで使い続け、とうとう壊さなかったくらいだった。


かと思えば色々なところに傘を忘れる。如実になってきたのは電車通学になった高校くらいからで、電車に忘れたり、ホームに忘れたり、外出先に忘れたり。傘って都合のいい女のように振り回されるなあなどと考える。しかし振り回したのは私だ。


先日は同僚と近くの食堂に昼食を食べに行ったらひどい雨が降った。職場を出たときは雨なんて降っていなかったので二人とも傘は持っていなかった。止むまで待とうかとも思ったけれど、バケツをひっくり返したような雨は止みそうになく、この中を帰るのは滝業と同じでしょ、ということで、傘を買った。


ビニール傘は壊れやすい、明らかな消耗品というイメージを持っていた。そして安っぽいとも思っていて、使ったら安っぽい人間に見えやしないかと思って買わないでいた。しかし街行く人の誰一人として私に関心を持たないのだから、そんな考えこそ安っぽい。

あとは単純に気分の問題。可愛い傘を使うと気分が上がる。何だかんだ言って、私は案外乙女なのかもしれない。


65cmのビニール傘を購入。540円也。


外に出て早速開いてみると、その手ごたえは腕がつられて動いてしまう強さ。なるほど、これがビニール傘か、と思ったけれど、よくよく考えてみると、傘じゃなくて腕力がなさすぎるだけかもしれない。


しかしさしてみると、ビニール傘も悪くない、むしろ素敵だ、と思った。


音とわずかな振動でしか感じ取れなかった雨粒の一つ一つが、ビニールだとはっきり見えて、丸くとどまっていたり流れていったりがよくわかって、面白かった。未知のものに触れた子供のような気分。夜だと光を反射して綺麗なのだろうか。


ビニール傘に感動した私は、職場に置いておこうと思い、次の日持って行こうとした。


しかし、途中で立ち寄ったコンビニの傘立てに忘れた。


帰る頃には傘立てはなくなっていた。

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