第33話 紹介されるは・・・

 部屋に戻ってから、危険物体Sシーから注射器銃シリンジガンを取り上げておく。

 何しろ、先ほど言わなかった動向の内容を推察すれば、確実に獲物を狩る目とでもいう視線が完全にロックオンしている状態であり、昨晩の事と合わせて鑑みれば、これは何かしらの被害が出る前に対処しておくべきだろうと判断したからである。


 その時に「嫌です!」と抵抗される羽目にはなったが、メンテナンスは無しにするぞ?と言ってみたとたん「それはもっと嫌です…」と主張し、ならばどちらか選べと伝えたとたん、スゴスゴとその得物を提出はしてくれた。


 とりあえず、今のところシーを戦闘面で運用する気はサラサラないし、基本的な能力部分でいえば、一般的な成人生物ナマモノに対して身体能力で劣っている事はない・・・はずである。

 たとえ悪漢に襲われたとしても、徒手空拳というか力任せに何とかもできるはずであるのだが、それでもこの種族特性からいえば、過剰防衛になってしまう事になってしまうのが目に見えている。

 やはり、過剰すらもオーバーしてしまう防衛力になってしまう要因は排除しておくべきである。



 その後は普通にといえる朝食タイムだったのだが、給仕係Sシーが勤務する食堂にていただくのが、もう構い過ぎるなと釘をさしていくしかないと諦めモードなのだが、それでも甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくる行為に対し、再び垂直方向に衝撃を与える事数回という、いい加減学習しろといいたくもなってくる始末である。


 せめて衝撃を与えるたびに、恍惚な表情を出すのは辞めてほしい


 そんな朝食後の時間から、職場へと向かおうと宿を後にし、街中を歩いていると、



『アーネスト様、お時間の程よろしいでしょうか?』



 と、ヒョウさんから連絡が入ってくる。



『何?ヒョウさん?』


『はい、アーネスト様を尾行していたモノの一つが、昨晩、アーネスト様が施設に戻られた際に移動を開始した為、その後を追跡してみたのですが…』



 そういやすっかり忘れていたが、そういう存在があったけかと、索敵MAP表示を視覚情報として表示させてみると、確かにそれらしき存在が二つ減って一つになっていた。



『それで?』


『いま、エリアMAP表示にその施設のマーカーを付与しました。ご参照ください』



 と、エリアMAP表示を重ねる様に開け、その場所を見てみると……郊外?というか街から離れた場所のかなり土地が広い屋敷のような場所が記されていた。



『えーっと、ここは?』


『申し訳ありません。その建屋がどういった物かは情報が得られていません。ですが、索敵装置の様なモノがその建屋周辺に張り巡らされている事は確認しており、何かしらの重要度の高い施設かと思われます』



 索敵装置の様なものねぇ・・・この街にそういう類を設置して警備してそうな雰囲気はなさそうなんだが、これはあれかね、街の離れともいえる場所でもあるから、何かしらのお偉い様とかそういう類の区画とかかね…



『その建屋の周囲には何かあった?』


『周辺には商店と思しき建屋に、飲食店ともいえるモノが存在してはいました』


『商店に飲食店?』


『はい。飲食を伴う商店と露店が多数設置されているのを確認しています』



 想定をした予想と食い違った内容によって、ますます解らない状況になりつつあった。

 こちらが通っている場所も、露店といえるモノが存在している。が、よくよく見てみたら飲食店というというか、食料品店というのが正しい。

 いうなれば食料市場というものなのだろう。果実や野菜と思われるモノに、鮮魚に肉といったモノがずらりと並び始めていた。


 飲食街としては、街の中央からはズレている気はしないでもないが、まぁそういった区画が別になっている場合もあるというのは大体わかったが…



『その建屋から交代要員とかが出てきたことは?』


『今朝からはその様な行為が見られることはありません。残る二人に関しては、昨日アーネスト様がお会いになられた方と、現在も継続している存在がいますが、いかがいたしましょうか?』



 離れてしまって、交代要員やらが現れないというのなら、とりあえずは無視しても大丈夫だとは思うが、状況の詳細がつかみ切れていない現状だと、どう動けばいいのかがさっぱりわからない。ので、



『なら、残ってる方と、再び近づいてきたのを対象としてくれればいい』


『了解しました』



 ここら辺が無難かな?という案で行ってみる。

 最悪、逃げに徹すれば何とかなるだろうし、これ以上面倒事に加わる気もない。金銭に関してもそれなりに手に入れている為、あとはこれを基軸に生活していればいいかと、深く物事を考えずに歩いていたら、いつのまにか職場へと到着していた。


 職場にたどり着いたはいいのだが、最初に視界に入ったのは外套を身に着けている数人の人物と、親方と助手の人が何やら会話をしていた



「ん?嬢ちゃん、早いな」

「アーネストさん、おはようございます」


「おはようございます」


「ちょうどいい、嬢ちゃん。今日からこいつらに付き合え」

「はい?」



 朝の挨拶からすぐにこういわれたのだが、何がどういう事なのかがさっぱりわからないために疑問符的な返答しか出てこなかった。



「親方…それではアーネストさんに通じませんよ…」

「そうか?」


「はぁ・・・。あ、アーネストさん、本日は仕事の方よりも、こちらの方々と共に行動を共にしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」



 目頭を指でつまむ恰好から、ため息まじりから始まる助手からの説明は、この外套を羽織っている人たちと共に行動を共にしてほしいという内容だった。



「ええっと・・・」


「ああ、こちらの方々は、ハンター組合ギルドの方から来ていただいた人たちで、海生魔物の状況調査という形で港湾の方へとお越し頂いてもらっています」



 そう言われて紹介された面々の中で、一際特徴的な様相をしているモノがいた。

 なにせ、そのうちの一人が、その見た目というか、その顔の特徴といえば、どうみても海洋哺乳類の類。ぶっちゃければシャチそのもの。あの黒い皮膚に白い模様がついているというレベルがまっさきに目についている。

 その視線に気づいたのか、海洋哺乳類の生物ナマモノから言葉が発せられた。



「初めまして。ハンターズ組合ギルドから来ました、オッドといいます。こちらはパーティを組んでいる…」


「メッセでぇす」

「ファンテと申します」

「あっ、アーネスト…です」



 一緒に紹介されたのは、一つは人型といっても、独特な耳の特徴を持つ雌の生物ナマモノで、あとは普通という恰好であり、ファンテと言われた人は、褐色の肌をしている普通の人型の雄の生物ナマモノであった。

 しかし、その二人よりもやはり先ほどの人物の方がすごく印象が強い。

 がっしりとした背格好もしているのだが、それでもやはりその特徴的な部位に目が行ってしまう。



「では、アーネストさん、今日からしばらくは彼らと共に行動していただけますか?」


「えっ?しばらく?」


「はい」



 不意に助手の方からそういう言葉が投げかけられ、その意識をこちら側に戻してみたが、仕事はどうなるのか?という疑問が出てくる。



「え?では、海底調査の続きの方は・・・」


「昨日、嬢ちゃんが出してくれた情報でとうぶんは大丈夫だ。正直に言えば、今日から何をやらせようかと思案していたところだったからな。丁度良かった」



 親方はガハハという感じの笑いをしてはいるが、本当にそういう内容を考えていたんだろうなと。



「一応、港湾に関しての魔物が現れたという事案に関してで、その場所と状況に関してという事でこちらにも協力要請を受けておりまして、しかもアーネストさん直々のご指名であり、ご協力いただけるはずだと、話もされていたんです」



 昨日の今日で早速なのかと思いつつも、確かに協力はすると言った記憶がある手前、拒否もできる訳でもなく、また上司となる親方からそう指示されれば、絶対的に拒否するわけにもいかない訳で……



「とりあえず、嬢ちゃんが一時はなれたとしても、工期的にも何か問題が起きるわけでもねぇ、再び魔物が現れた方が厄介だからな。しばらく付き合ってやってくれや」

「申し訳ありませんが、そういう事ですので、よろしくお願いします」


「あ、あの・・・」




 そういわれ、事務所となる建屋に入っていく二人をただただ見送るしかなかった。


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