第30話 世間話をしてみよう?


「ここからは仕事の話は行いません、私個人としてのお話です」


「は、はぁ……」



 そう言いながらも、その存在希薄な人物の表情からは、それなりにに認識できる範囲で何かしらこちらの様子を読み取ろうとしている雰囲気を出しており、何というか、ある意味ようやく存在が定着したんじゃないか?という感じと、刑事ドラマとかでよくある取調室ってこういう空気なのかなと、なぜかそんな事を連想している自分がいた。



「アーネストさん・・・あぁ、"さん"付けで構いませんか?」


「え、えぇ、それは別にかまいませんが…」


「では、アーネストさんで。アーネストさんは、いつ頃この"ハーヴェンス”へ?」


「二日前・・・ですね」


「二日前・・・ちょうど定期船が来ていた日ですね。それに乗って?」


「まぁ、そんな感じでしょうか・・・」



 実際は"違います。"といいたいところだったが、素直に伝えるという事が何かしらまずそうな、そんな犯人的な役者気分が出てきてしまったので、アドリブ的に内容を濁す形になっていた。

 なにしろ、この部屋の雰囲気に加え、存在希薄からは"探っています"的な雰囲気があり……正直に答える必要性もないかな?と、空気を読む格好で濁す形で答える恰好にしていた。


 それよりも今初めて知った街の名前。

 そういえば、最初の時にそんな説明あった様な無かったような…、あの時は機械の身体という事ばかりで、自身の身体を調べていた記憶しかない・・・。



「そうなると、その肌の特徴からいえば、出身は東方の連合でしょうか?」


「(たぶん)そこよりさらに遠いかと」


「ほぅ…そこより遠いとなると…なるほど、結構な長旅だったのでしょうね」



 嘘は言ってない。言っていないが正しくもないですし長旅なんてしてないです。

 自分の部屋に入ってゲーム起動してログインしたらこうなってました。なんて、そんな事を言ってもわかる訳無いよな…と、心の中でボケとツッコミを入れてしまう。



「やはり、この大陸において働き口を求めて?」


「え、えぇ、まぁ、そうですね。働かないと生活がままなりませんし……」


「そうでしょうね。我々の組合ギルド処でも、稼ぎの良い魔物を求めてという方々も大勢おられますし……昨今の公共事業に関しても活発化してきましたからね」


「そう何ですか?」


「一昨年前からは外壁や砦の補修や増強に街道の整備、アーネストさんが行われている港湾関連と、それらに対しての砕石業が繁盛してそうですね。まぁ、そのおかげで我々の組合ギルドにも護衛依頼が良く来るので、よく聞きく話になってますね」


「そういえば、そういう求人が多かったですね」



 記憶をたどれば、鉱山などの人夫募集とか結構あった。

 ほかにも運搬業務も確かに募集要項がかなりあったのを記憶から思い出すが、そんな裏話的な内容があった事なんて知るわけもないし…ま、給金さえ手に入って、活動エネルギーを確保できればどうでも良い事だな。



「あとは、変わったところで伝説や伝承に出てくる財宝を求めて、一攫千金を狙ってという方々もいますしね」


「財宝……?」


「えぇ、よくある勇者伝説に出てくる物ですよ。子供の頃のおとぎ話によく聞かされる勇者が魔王を倒して世界を平和にする。という勇者伝説です。そのおとぎ話の一つに出てくる勇者が残した遺産という代物ですね」


「――そんなものが……あるんですか」



 すいません。その勇者云々、まともに自分かかわってましたがハブられました的なツッコミを言いたくなってくる。だが、ここはぐっと抑えておくべきだろうな。

 それにしても勇者の話って伝説というかおとぎ話になってるのか。そういえば勇者にしか扱えない装備が有るとか言ってたし、何かそれらみたいな事があるのだろうかね。



「ええ、もう数百年とか数千年前と伝われていて、今でもおとぎ話にもなっているという物です。現品がどこかに存在するという事ですけれど、今となってはわからない伝承になってしまったお話ですよ。やはり、アーネストさんもそういったお話に興味がおありで?」


「いえ、まったく」


「そう…ですか」



 此方としては、面倒事の匂いがプンプンしているし、そもそもそういう場所から追い出された訳ですし、今はこの機械の身体を堪能…もとい維持するのが大前提なので関心なんてサラサラ作る気は、毛頭一切これっぽっちもない。



「まぁ、昨今、魔物たちの活動が活発になってきているので、お恥ずかしながら此方としても対応に苦慮している始末ですが、我々の|組合<ギルド>に登録しているハンターたちにとっては、稼ぎ時だとここぞとばかり盛んに活動していますね」


「確かに、稼ぎ時にはなりそうですね」


「その分、事故や怪我なども多くなっていたり、荒くれ者も訪れたりの揉め事が多くなったりで、こちらとしても余計に問題事が増えてしまってきてホトホト困っているところも……その対応に苦慮していますよ」


「お、おつかれさまです・・・」



 なんというか、中間管理職とでもいう心労が絶えなさそうな、そんな愚痴を聞かされていたりするが、その魔物の活動が活発化している原因なっているというのは、魔王が復活してあちらこちらに影響を与えているという風な説明を思い出した。



「そういえば、勇者のおとぎ話があるのなら、そのおとぎ話に出てくる様な…。例えば魔王みたいな存在がいる……とか?」


「おや?やはり勇者伝説には興味がおありですか?」


「いえいえ、そういう昔話的なものがあるなら、そういう話の元になった存在がいるのかもしれないかなと」


「あれはあくまでもおとぎ話ですよ。伝承という事でそういう事があったかもしれない。というのはよく聞く話でしょうし、それに、原因としては地脈といえる存在が周期的にズレてしまい、そのズレがひずみを生じて魔物たちが活発化するというのがわかっています」


「そう……何ですか?」


「ええ、その地脈の安定状態からズレた時には、そういう現象が発生していたりすると、今までの歴史と研究者達がそう発表していますからね。ここ数年の間は、確かにその傾向が多くなる周期になるだろうという見解も発表されていましたし、その情報があったからこそ、この街にハンターたちも集まってきていますからね」



 その説明を聞いて、自分が聞いていた内容、魔王が出現した為に魔物たちが活動的になっている風な内容だったと…あれ?違ったっけ?あまり真面目には聞いていなかったから、何か内容と異なってるかも?と思ったりはしたが、とかく現場的にいえば魔物が活性化してしまうという点は同じだし、自分にさえ火の粉が降りかからなければ、さして問題じゃないだろうし。



「そうそう、勇者話での一つですが、このハーヴェンスにもそういうおとぎ話…というよりも、建国話とでもいうのでしょうか、そういうのがありますよ」


「というと?」


「ほかの大陸から来られたアーネストさんならご存じ無いとは思いますが、この地に勇者たちが"何か"を封印したため、それを守護する守護役をこの地に残したと。その守護役の名が僧正ビショップハーヴェンスと伝われています」


「は、はぁ・・・」


「まぁ、他にも逸話としては今の世にも続いているセダムス教から異端とされ、破門された僧正ビショップハーヴェンス一派が、そのセダムス教が主となる大陸の西側から海上を陸沿いに伝って逃げてきて、大陸東端ともいえるこの地に町となる祖を築き発展した。という内容の物も伝わってはいますが、どちらが正しいのかは今となっては分かりません」


「伝承とかは、得てしてそういうモノなのでしょうね」


「ええ、そういうモノだったりするかもしれませんね」



 まぁ、おとぎ話とかも結局は創作物が多かったり、怖い系の言い伝えも子供にいう事を利かすための方便だったりするし、あながち破門された一派とかの方が信憑性はあるんじゃないかね。



 コンコンコン


 扉をたたく音に対し世間話をしていた相手から「どうぞ」という回答が投げかけられると、「失礼します」という言葉とともに、あの受付の生物ナマモノの人が現れた。


「査定の方が終わりましたのでこちらにお持ちしました」


「そうか……ん?イリアスの奴はどうした?」


「はい。先ほど、ハンター同士による騒動が街の通りで起きたとの事で、そちらに向かわれました」


「またか・・・」



 そうぼやいた本人は、額に手を合てて大きなため息をついていたが、すぐにその表情を取り繕い。



「アーネストさん、すまないが私も状況を確認しに行くので、あとは彼女に聞いてもらってくれないか?」


「あっ、はい。それは構いませんが…」


「本当にすまなかった。まぁ、ゆっくり確認していってもかまわないから。では、失礼する」



 そう告げると、すぐさま席を立ったと思えば足早に退室していった。

 部屋に残された二人と、その間にあるテーブルに置かれた報酬らしき金銭の袋、そして、こちらに視線をむけたかと思えば



「こちらが報奨金となります。ご確認のほどよろしくお願いします」

「は、はい・・・」



 完全に事務的な感情でこちらの挙動を見据えてくる犬頭の受付嬢と、冷たい空間だけが残されていた。

 そんな冷たく静かに過ぎ去っていく空間の中、金貨と銀貨の混じった中身を一つづつ確認していく音だけが響いていくだけだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る