第3X話 閑話

 ハンター組合ギルドのとある一室において、専用の照明がテーブルの端に設置され、その灯りに照らされる形で椅子に座っている人物と、そのテーブルを挟んでは直立している人物とが対峙する格好になっていた。


 テーブルの上には事務的な書類が積まれている中、そのテーブル向かいに立った人物から一つの書類が手渡されていたが、その手渡された書類を軽く流し目で見ていた人物から先に言葉が発せられた。



「イリアス…事を焦る奴があるか…」



 そう言葉を発しながら書類をテーブルの上へと置き、両腕を組んでは目の前にいる獣の顔した人物へと睨む様な視線を向けていた。



「も、申し訳ありません…ですが、単騎でガーランを仕留める事ができるとなれば……」


「それが焦りすぎだと言っているのだ。お前は最後の・・・報告書を見ていなかったのか?」


「い、いえ、当初のは目を通しはしましたが…」



 その言葉を聞いたテオーネといえば、軽く横へと首を振りながらテーブルの引き出しから一つの書面を取り出してイリアスへと手渡す。

 その手渡された書面を受け取ったイリアスといえば、その記載されている文面に目を通しはじめ、そして驚く



「こ、これは・・・」


「昨晩上がってきた報告書だが、お前は見るべき場所を見ていないな」



 手渡された報告書、そこにはイリアスが見た報告書に追記された後があり、その追記された内容というものが、持ち込まれた素材やその現場に関しての報告であった。


 ガーランの討伐。船団なりを組んでは網を張り、無数の銛で致命傷を与える方式が良く執られる方法であるが、この追記されている報告書には、その素材の破損状況から言えば「あまりにも綺麗」であるという内容であった。

 なにしろ、先の方法で討伐された場合、大抵は穴だらけの状況になるために、内臓などの素材になる部分も大きく損傷している物が多くなってしまう。

 では、「綺麗な状態」という代物になるためにはどうやったらできるのか。



 ハンター組合ギルドに組するものならばすぐに答えは返ってくるだろう。



 ひとつは単純明快な答えである、"圧倒的な力量の差をもって一撃で仕留める"という方法、そして、もう一つは”上策をもって仕留める”方法である。


 前者でいうところの力量差による物という内容だが、ガーランという存在が生息しているのは海という陸上とは異なる場所であり、その海の魔物に対してその様な力量を持ち得ている人物など、一部の種や特殊な技術を持ち得る者たちしか行えないと言われている。

 現に、一般的なハンターであっても一握りの人物が自身の魔術などを駆使し、策を講じる事によって、ようやくその状態で仕留めるという方法が行えるかどうかである。

 つまりは、ほとんどは後者の方法が多いと呼べる方法であるのだが、それでも人員としても少数が必要になってくる。



「この内容が正しいのならば……」



 言葉を詰まらせるイリアスに対し、テオーネは遮るかの様に言葉を続ける。



「その内容を確認するために、彼女を午前中の間は観察してみたが、私の存在に気づいていた節があるぞ?いや、気づいているが気づかないフリといった所か」


「副所長の隠形術を、ですか…?」


「ああ、そうだ。確実に認識はしていたようだったな、それだけで第四層位では低すぎる人材だぞ?」


「確かに、第四層位程度では、副所長の隠形術は見破れません…ね…」


「それとだ、監視していた内容とその報告書からみれば、彼女は海人種の可能性が高い」


「まさか、そんな事は…‥」



 イリアスにとっても、その種族の名を耳にするのは珍しい物でもないのだが、本人としてもその存在を実際に見たことがあるのは、若かりし頃の記憶でしかなかった。

 そのころの記憶をたどった内容からすれば、髪色も違えばその呼吸器ともいえる特徴的な装飾ともいえる部位もなく、また、その大きさからも自身の過去の知見から否定が入っていしまう程に違いすぎていた。

 そのため、否定する言葉しか出せなかったのだが



「観察していて分かった事を挙げるならば"潜水時間が約20分以上"。イリアス、心当たりは何になる?」


「それは……」



 テオーネから放たれたその観察結果の内容。

 その内容からいえば、"常人"では決して行えない内容のものであり、自身の知識からいえば心当たりはない事もなかったが、他の方法もあるだろうと答えてみる。



「もしかしたら、道具を使用して…」


「ないな。それらしい物をつけていた形跡、いや準備動作すらも無かったからな」



 テオーネからの返答は否定であった。

 内容の仔細を聞けば、羽織っている物を外したかと思えば、そのまま海中へと飛び込んだという事であった。

 しいて身に着けていた物とするならば、籠手とグリーブ程度であり、あとは肌に密着しているともいえるありきたりな服というスタイルだったという。



「それにだ、はぐらかされてはいたが、出身地が東方諸国よりもさらに遠いとも言っていた。さらに遠いとなると?」


「諸島連合……ですか」



 答えをあげた本人すらも知識でしか知らない事ではあるが、その答えとなる場所といえば、東方のさらに極東とも呼べる場所に存在する諸島群。

 その連なる諸島群が形成する国家、通称"諸島連合"という存在があるという。

 その島々の中には、大陸とは異なり、他種族の坩堝ともよばれており、その種々様々な文化や考え方がそれぞれに存在しているという話であった。

 なおかつ、その諸島連合の大きな特徴としていうならば"海人達の国家"と呼べるほどにその人口割合が高いのが特徴でもあった。



「先の潜水時間の状況も、もしかしたら何かしらの魔術式を使っているという可能性があるだろうが、それよりも、あの素材と状況から言えば、海人と言われた方が納得できる」


「水の加護、それも海の慈愛とよばれる特性のおかげで、地上のそれと同等、下手をいえばそれ以上に動けるという、アレですか?」


「ああ、それだな。そうでなければ、綺麗に仕留めることなど到底できるものでもなかろう」



 水中、いやこの場合は海中であるが、特定の種族においては、陸上において行える動作がそのまま水中で行えるといわれ、そして、それ以上の"力"を持った行為も可能であるという事から、"海の恩寵を受けている種族"として称えられてもいた。

 逆に、その称えられている神秘性からこそ、何かしらの"神聖さ"を持っている物とされ、その種族を狙う輩もいるのも事実でもあった。



「で、でしたら尚の事、我々組合ギルドに参加してもらい、保護監視をしなければまずいのでは……?」


「まぁ、あの大きさだ、他にも巨人族と牛人族との混血という線もあるかもしれん。まぁ、ああいう奴等の事だ、下手に動いてしまいことを構えるなら、確実性が確認できるまでは手を出してこないはずだ」


「この街にも、物騒な奴らが入り込んでいるという情報が入っていまからね」



 入国に関して一応の検査は行われるのだが、それにも限界がある。

 それらの網を避けるかの様に、そういった輩が入り込ませる事を生業としている業者すらある始末である。かといって、それらを取り締まるにも限度がある。公権が気づかない部分も多様に存在している為でもあった。



「まぁ、流れてきた有用な人材である事には間違いない。それに本人が秘匿する何かがあるのだろう。大系のガーランを仕留めれる腕と……」


「大系‥‥?]


「はぁ…お前はつくづく報告書を見ない奴だな‥‥それとも気づかなかったのか?腰の剣、あれは戦士の証ガーランのつるぎだ」


「あの長さのガーランの剣となると、その意味となれば……」



 あきれたという内容も含んだため息がテオーネから放たれる。

 そのため息に反して、イリアスは記憶をたどるかの様に目を伏せた後、見開いてはその意味を口にしようとしていた。



「ようやく理解したか馬鹿者。そういう訳で、あの得物のことを理解している奴・・・・・・・は、そうそうに手を出さんだろう」


「そう…ですね、ですが"もしも"という事も」


「お前の言いたい事は分かっている。その点に関しては手は打ってある。"古い知人"に指名依頼で話を通しておいた」


「"古い知人"と言えば…"彼"ですか?あの第十層位の…?」


「ああ。あいつなら他のハンター達にも顔が効くだろう?それに、街の者とも知己といえる間柄だ。下手な事にはならんだろう。それに、古い知人あいつからは"丁度切っ掛けが欲しかった"と言っていたしな」


「そう…なら良いんですが…」


「とりあえず、今後は気に留める程度でよいだろう。進展…というべきかどうか、何事かが起きたのならば此方も動く、そんな所でいいだろう、でだ、夕刻の騒動の件だが………」



 背もたれにギシリと持たれかかり、大きなため息をついたかと思えば、テオーネはイリアスから手渡されていた書面を見開きながら、その内容に関しての事についての話へと変わっていた。

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