第27話 受けてみるは・・・

「アーネストさん、少しよろしいですか?」


 シーが持ってきていた昼食と呼ぶにはあまりにも多い量である品物を、現場の作業員たちと分けて何とか勝利した後、一息をついていた時に助手の方から話があると声がかかった。


「ええ、大丈夫です」

「ありがとうございます」

「それで、話とは?」

「まず、就業契約に関してで、月契約という事で進めますがよろしいでしょうか?」



 月契約という事は、派遣社員的な内容という事でよいのだろうか?年単位の契約という恰好は?という形で聞いてみると、季節的、天候的な問題もあったりする為、この業界は月単位で行うのが通例であるという事だった。



「わかりました。では、契約の方よろしくお願いします」

「では、これを」



 まるで、元から準備していましたというぐらいにその書面を懐から取り出されては手渡され、その中身を確認してみると契約書といえる代物であった。

 これを職安組合ギルドへと持って行っていけば、当座の給金と交換してもらえ、尚且つ契約月の最後に残りが支払われるという形になっているとの事であった。



「契約書に関しては本人が持参して頂かなければ、処理が行えない形になっていたと思います。……そうですね、今日の午後一番にでも手続きを済ませてきてください。あと、それと……」

「他にも、何かありましたか?」



 さらに話を切り出そうとしていた助手の人だったが、その際、あまり話したくないように、すこし顔をしかめながら



「昨日の素材の件なのですが…」

「素材?」

「ええ、ガーランからとれた素材の件です」

「ああ、あれですか」


 そういえば、この腰にぶら下げている剣の元となっていたガーランとかいう魔物、それぞれが素材になるモノらしく、食用になる部分以外は売却という形で進めていたはずであった。


「今朝、手続きを行う形でハンター組合ギルドの方へ話を持って行ったのですが……その組合ギルドの方で少し問題が起きまして…」

「何かあったのですか?」


 何か言いたく無さげな、そんな表情をしながらも


「"本人が来てほしい"と。そうでなければ"買い取り処理は滞りかねない"とも。手続き云々に関しての委任状がなかったのをいいことに…、本当に困った対応をしてきますよ」


 あまりに向こう勝手の主張なのだが、一応筋は通っていると愚痴をまみえてこぼす程であった。


「こちらとしては、伝手つてを使っての換金方法が無い訳でも無いのですが、あまりお勧めされた方法でもないのと、……あと、実を言うと、できれば行ってもらえれば、こちらも助かるのですが‥‥いろいろとあるかもしれません」


「何か、あるんですかね」


「ええ、たぶんですが、"ガーランを仕留めれる事が出来る人材"というのを確保したい、またはどういう人物かと見極めたい。と、そういう思惑だろうとは思います。なにしろ、海の魔物を少数、いうなれば偶然であるにしても、単騎で狩ったという実績だけでも、希少な人材になると思いますしね」



 話を聞いてみると、ハンター組合ギルドは魔物討伐などを行っている、よく物語などにありそうな冒険者組合ギルドといっても過言でもない組織らしいのだが、その依頼のほとんどが陸上の魔物ばかりがほとんどであり、海に関しては組合ギルドという組織よりも、船などの設備の問題上、国軍や私兵などの団体が動いて対処するのが多いとの事、他にあるとすれば人員と資金を持っている大手クラン単位といったところである。

 たまに、個人で討伐が行える人材というのが現れたりするらしいのだが、それはとても希少な存在という事でもあるらしい。



 そもそも、そういう海生魔物を個人で討伐できる実力を持っている人材のほとんどが、海に関する業種、海軍やら海洋私兵、はては港湾警邏などについていたりするという実態がある。


 また、ハンター組合ギルドは、その狩りを得意とする対象が陸生魔物がほとんどであり、海生魔物討伐に対応できる人材が乏しいハンター組合ギルドであっても、相手が魔物であるならば討伐依頼はハンター組合ギルドに回ってくる事になり、討伐対象が魔物でああるが故に受理をしなくてはならない立場でもある。


 そのため、海生魔物に対応できる人材や組織が乏しいハンター組合ギルドとしては、そういった対応ができる業種との繋がりをもたせておき、そういう依頼を受理したときは、対応処理が行える能力をもつ人材や組織に、多少なりともの融通をしてもらう方が都合がよくもあり、もちろん、その逆の内容が来たら今度はハンター組合ギルドが融通するという方法が、お互いにとって良いものであるという暗黙の了解というのが存在しているという事らしい。



「それは解りましたけれど、あちらにいって勧誘とかされることは…」


「それは低いかと思います。お互いの畑が畑ですし、今までの事もありますから、荒らされる事も嫌がります。それに、今後の信用にもつながりますから。ただ、個人としての人材登録的な事はあるかもしれませんし、たまにある指名や強制は無いでしょうが、協力をお願い・・・される事があるかもしれまんが‥‥」



 お願いという形ではあるが、何かしらの要請が来るかもしれないという話であったが、一応はこちら側、港湾工事の人員という事でそこまで強制される事が出来ないという状況にはなると。


 あれ?これ月契約を先に結ばないと不味い気が…‥



「なので、午後からは先に職安組合ギルドで契約書類を提出していただいてから、ハンター組合ギルドへ向かってもらえれば。その後は、そのまま直帰されても構いませんので」


「解りました。そうさせていただきます」


「では、よろしくお願いします」



 そう告げた助手の人は、何か含みのありそうな、ちょっとおかしな笑顔を向けられたかと思えば、そのまま事務所の方へと消えていった。


 ただ、そのタイミングで午後の時間を鳴らす鐘が鳴り響き、同じ釜の飯を食った同僚から「ありゃ投げたな」「面倒事の時はいつもああだよな」「だな、変な笑い方するもんな」「嬢ちゃん、頑張れ」という野次の様な励ましの様な言葉を通りすがりに頂戴していった。


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