Going ago/Coming ago 01

林檎は芽を出し、日輪の光を浴びて育つ。

子供は産声を出し、親の愛を受けて育つ。


「林檎道楽記付録、北斗心得」より。

第2章3項。



忌み子。

少女はそんな存在であった。


なんてことはない。

少女を産まれ落とすと共にその生涯を終えた母。

残された夫は愛よりも憎しみを優先してしまったというだけのこと。


少女は離れに追いやられていた。

齢15にして未だ誰かに嫁ぐわけでもない。

只飼い殺しにされていた。

しかし、暮らすには糧を得ねばならない。

援助はない。


されど、少女は民に愛されていた。

老婆に物事を習い。

城下村の若衆に畑仕事を教えられ。

村の婦人には特に家事を学んだ。


いつしか村全体の娘のように扱われるようになった。

母のように、明るく元気な子に育った。


しかし、父親になれなかった夫は、無関心であった。

いや、努めて無関心であろうとした。


親の愛を村の民からもらった。

しかし、少女は決して満たされているわけではなかった。


ある冬の日、少女は少年を連れ帰った。

齢にして10を超えたか超えないか。

いつ凍え死んでもおかしくはない。

少女は懸命に介抱した。


その甲斐あってか、じき少年は回復し、目を覚ました。

少年は命を救われた恩から少女の家臣となった。


そうして幾日。

城では年を越すにあたり宴が催されることになった。


その時、城の主は娘を招くことになり。

ついにその少年のことを知った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る