第8話 それより僕と踊りませんか


GM:さてと、話を戻しましょうかね。『積み重ねの試練』は、あっちゃ……ゲイルとターセンのプレイヤーによるリアル能力で突破いたしました。案内役の人造生命ホムンクルスも大満足です。

トテッキ:いい絵といい歌を満喫したので、あなたがたをすりつぶしませんわ!

GM:元よりすりつぶしません。

ターセン:ねえGM、試練はクリアしたとして、部屋あさってもいい? 何か目星めぼしい、お宝とかない?

GM:抜け目がないですね。残念ながらここに転がる芸術用品には概ね価値はないと、あなたの鑑識眼は判断しました。しかしそれと同時に、気になる一角を見つけます。壊れた家具や剥がれた石壁などの瓦礫が集まった場所があり、この下に……何かがあるかもしれません。

ターセン:おー、調べよう調べよう。これって何判定?

GM:筋肉判定ですね。


 冒険者一行の目が、ガチムチ鎧のスタンド4の方を向く。

 なお実際のプレイ風景では俺たちが見ているのはせいかなので、筋肉的には最も頼りなさそうだ。

 だがしかし、せいかはルールブックをぱたんと閉じて応える。


「難易度はいくつでしょうか、部長さん。いえ、GMとお呼びするべきなのでしたっけ?」

「筋肉判定の難易度は10です。剣さんのPCであるスタンド4は、筋肉基本値が6ありますので、つまり」

「皆までご説明していただかなくても結構です。この基本値にサイコロふたつの数字を足して、難易度を超えればいいわけですよね。六面体サイコロの平均値は3.5。つまりふたつ振れば期待値は7となるわけですから、難易度10の筋肉判定にはスタンド4は非常に成功しやすいと言えます」


 すげえ。さすがせいかだ。こいつとたまにゲームをしたことがあるけど、こういうふうに理論派で、すぐにルールを飲み込むんだよな。

 TRPGは初めてのはずなのに、ルールブックを少し読んだだけで基本を理解してる。

 「頭良さそう」「さすがメガネ」の賞賛を受けつつせいかが振ったサイコロふたつの目は、1と2。足して3。能力値と足したら9。


GM:……失敗ですね……。

スタンド4:……お役に立てず、皆さんすみませんでした。

ゲイル:スタンド4が頭を下げてる……!

ハンドレ:気にしなくていいからね? そういうこともあるから、運だからこういうのは。

ゲイル:そ、そうだよせいか。俺も最初サイコロ振った時、同じ目だったしさ?


 せいかは「あっちゃんは黙ってて」と言い、黙々とルールブック読みに戻った。

 なんかどうも、スタンド4のあの枠は、ゲーム中別のことをしている枠なのかもしれない。例:寝てる。本を読んでる。

 その後、せいかが失敗した筋肉判定の代わりに、全員で瓦礫を打ち崩すことになって、攻撃スキルが飛び交う形に。

 砂と化した瓦礫の下から、竜の鱗を入手。「高く売れるー♪」とターセンが大喜びで持って行った。

 ただし全員のスキルポイントがごっそり減った。回復の変な草とかをいっぱい食べる。まずい。


GM:続けて隣の試練に向かいます?

ターセン:もち、行くよ。左の部屋は『同調の試練』だよね? とっとと進もうー!

GM:はい。お隣に皆さんが出向いて扉を開けると、こちらの一室は研究室のようになっておりまして、研究道具や魔道書、羊皮紙の束などが散乱しています。トテッキ、出番です。

トテッキ:おほほほ! わたくしがあなた達をすりつぶす番ですわ!

GM:すりつぶしません。さてこの部屋で出来ることとしては、研究書類の調査。これは知恵の能力値による判定ですね。

ハンドレ:頭がいいのは、僕とゲイルだ。手分けして読もうか?

ゲイル:腕しかないのに頭は良いハンドレ……。

ターセン:あれ? 試練はどったのGM?

GM:もちろんあります。ターセンとスタンド4、残ったお二人のうちどちらか一名がちょっとした賭けに参加して、GMとサイコロの振り合いをしてください。どちらがやりますか?


 速攻で呼子先輩が、細長い指先をしゅびっと上げた。こういう張りあう感じ、好きそうだもんな……。

 せいかは本から目を離して一瞬ちらっとこちらを見て、すぐにルールの熟読に戻った。


GM:ゲイルとハンドレが行っている知恵の判定は、書類の読み込みに時間がかかるので、一旦後回しにします。その間に、ターセンが試練に挑戦しているということで。

ターセン:よっし。あたしに任せてよ、みんな!

GM:さてターセン、この試練にはあなた以外に、賭けにベットするための仲間PCが必要なんですよ。誰を選びますか? 資料調査中のふたりでもいいですよ。

ハンドレ:ターセン殿! この右腕、命に代えましても!

ターセン:んー……。それよりは暇そうなスタンド4にするか……? いいや、風コンボのパートナーかつ、あたしの想い人でもある、ゲイルを選ぼうかね。

ゲイル:おっ、想い人って。

ターセン:いいじゃない、ロールプレイは楽しまないとねー? それともゲイルは、あちらのガチムチのほうがお好みかしら。


 色っぽい笑みを浮かべながら脚を絡めてくる呼子先輩。せいかはルールブックに目を落としたままだ。


GM:ではゲイルは、トテッキに捕まえられ、強制的にダンスパートナーにされます。

ゲイル:え?


 案内役NPCだったお嬢様人造生命ホムンクルスが、ゲイルの腕をがっしりとつかんで引きずっていく。

 妙に感触がリアルなのは、俺の妄想がたくましすぎるだけじゃないよこれ。

 今の言葉を聞いて、「なるほどリアル感を出そう」ってすぐさまトントロ先輩がこっちに来て、俺を抱き寄せたからだ!


GM:これより、GMとターセンがサイコロをふたつ振り続けます。同じ目が出たら同調が完璧になったとして、この試練はクリアです。しかし、同じ目が出ない場合は、トテッキとゲイルが延々踊り続け、ゲイルの生命力が一方的に減っていきます。

ゲイル:待って、いろいろ待って! トテッキの顔も近いしトントロ先輩の顔も近い!

トテッキ:ごきげんうるわしゅう、ギャックス・ゲイル。

ターセン:アハハハ! 面白いことになってきたね?

ゲイル:状況だけ見れば面白いですけども!! 当事者としては! 何これ!!


 研究部屋に転がる魔法のサイコロに向きあい、同じ目を出そうと何度も振り合う、くノ一のターセン。その背後でトテッキと踊っているゲイル。

 かたや教室の俺、普通の高校生の龍洞赤見りゅうどう あかみはというと、銀髪オッドアイのイケメンに掴まれて社交ダンスを踊らされている。

 くっ……! 近くで見ると本当にキラキラしてる……! トントロ先輩のイケメン力は、ラメダイスだけの効果じゃないな……!


「あっちゃん、この写真待ち受けにしてもいいかな」

「お前ルールブック読んでただろうせいかぁ! 撮るな!!」

「緊張しないで龍洞くん、僕にもっと体を預けていいんだよ?」

「先輩、顔!! これ、さっき会ったばっかりの人との距離じゃない!」

「龍洞くんって……思ってたよりまつげが長いん」

「やめてって! そういうの!!」

「あっちゃん楽しそう……! わたしここに残ってよかった」

「よくねえし!」


 喧騒の中で呼子先輩と部長のサイコロの振り合いは密かに白熱し、なかなか同じ目が出なくてゲイルの生命力はすげえ減った。

 プレイヤーである俺の生命力も減った。ダンスとイケメンと幼なじみのせいで。すげえ。減った。


「いやあ、良い汗かいたよ。こうしてプレイヤーが生の体験ができるっていうのも、TRPGの醍醐味なのさ、龍洞くん?」

「これ……違う、たぶん違う! これはTRPGの醍醐味に含めたらいけないやつだと思うんすよね、先輩ども??」

「ウウン、ダイゴミダヨー」

「ダイゴミダイゴミー」

「白々しい!」

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