第16話 行いの結果

 それから暫くの時が過ぎた。

 その間は順風満帆、派遣業は一気に需要があがり、子供達も大忙しだ。

 てっきりライバル企業もできると思ったが、派遣業は少女の独占になっている。

 おかげで儲けもとんでもないことになってきている。しかし、子供達にあまり多く持たせるのも良くない。


 なので、その儲けを使ってみんなで食べ歩きや、様々なイベントを行い、経済の循環を早めることにした。

 最近の平民街は少女が来た時とは違い、随分明るくなってきた。あちこちで笑い声も聞こえる。


 奴隷市場については貴族の需要もあり閉鎖することはできない。むしろ、違法に奴隷落ちされる人達の受け皿として稼動させることにした。

 元々、奴隷は傷つけないというルールがあるのだが、まあ、守る貴族は居ない。

 そんな貴族に買っていかれる奴は最悪だ。


 なので、そんなことしている奴らにはレイズにちょっと奴隷を仮死状態にしてもらって返品してもらうことにしている。

 あとちゃんと枕元に立たせて脅しも掛ける。

 おかげで無茶なことする貴族はオレの市場から奴隷を買うことはなくなった。

 むろん手があいてる奴隷は派遣業に勤しんでもらっている。


 あまり一人だけウハウハしていると他の貴族のやっかみも入るのだが、そこは実家の侍女さんがなんとかしてくれているらしい。

 ご迷惑おかけしています。


 ただ、大幅に変わったことが一つ、


「ほら、あんまり走ると怪我しますよ」

「大丈夫だって!俺こないだアレスの迷宮突破したんだ。そんなヘマしねえよ!」

「かあちゃん、俺あっちの焼き串食いたい」

「おかあさん、私この団子がいい」


 そう、なんか子供達が母親呼ばわりしてくるようになった。

 最初は捨てられたばかりの子がオレのことをおかあさんと呼んだのが始まりで、次々と子供達がそう呼んで来るようになった。

 やはり親が恋しいのだろう。

 だからと言って、


「はい聖母様、今日はいつもの執事さんはいらっしゃらないのですか?」


 聖母はないだろう。

 街の人達はついこないだまでは気狂い娘だの、狂気姫などと言っていたのに、いつの間にかオレの呼び名が聖母に変わっていた。


(ねえ、私、ものすっごーく、複雑なんだけどぉー)

「奇遇だな、オレもだ」


 辺りには笑い声が響いている、人々の顔には笑顔が溢れている、だからオレは―――油断していたのかもしれない。

 突然一台の馬車が猛スピードで突っ込んで来た。


(危ないっ!)


 その馬車の目の前には一人の子供が!オレは思わず子供を突き飛ばし…


「おいっ!その娘は傷つけるなと言っただろう!」

「申し訳ありません!急に飛び込んで来て」

「まあいい、すぐにこっちへ連れ込め」


 少女は子供の代わりにおもいっきり馬に撥ねられる。

 痛みで動けなくなった少女を馬車から出てきた男が担いで連れ込む。

 少女を連れ込んだ馬車はまたも猛スピードで駆けて行った。


(ねえ、大丈夫!ねえってば!)

「ぐ…あんま大丈夫じゃないかも…」

(はぁ、そんな口利けるくらいなら大丈夫よね)


 いやほんとヤバイ、これどっか折れてるぞ。


「いいザマだな小娘。ワシを虚仮にした報いじゃ」


 そこにはいつぞやの奴隷市場の持ち主が。


「なにが気狂い娘だ、なにが魔法の実験だ!キサマ、一人も殺しておらんだろう!」


 真っ赤な顔で怒鳴ってくる。

 ああ、バレタか、まあ、バレルか。しかし、手を出してくるの早いな。いや、オレが油断しすぎか。

 なんかまともな思考ができない。


「お前が買い取って以降、現れておらんそうだな?」


 なにがだよ?


「ゾンビじゃ!あそこはゾンビが出るはずだったんじゃ!」

「くっ、そんなとこ売りつけようと…?」

「はっ、どうせそれもキサマの仕業だったんだろう!なんせキサマが買い付けて以降、一回も出たことがないのだからな」


 まあ、そのとおりな訳だが。

 しまったな、今日は子供達の1パーティが迷宮にアタックするってんでそっちに執事つけちまった。

 実家の侍女さんに話が行っても、相手がコイツならどうすることもできないだろう。


 夜まで持つかな?ああ、そういや回復魔法あるんだっけか…


「おっと、そうはさせんぞ。おい」


 一人の男がオレの首に何かを巻く。


「奴隷化および魔封じの首輪だ。これからお前はワシの所有物となるのだ!」


 そいつはゾッとしねえな。フェイリースの体をこんな脂ぎったおっさんに触らせてなるものか。

 少女が扇をスッと伯爵へ向ける。とたん伯爵は慌てて後ずさる。

 しかし、少女の魔法は発動しない。

 なんか魔力が首輪に吸い込まれてる居るようだ。


「くっ、驚かせおって」


 少女の扇を無理やり奪い取った貴族は、その扇で少女の顔を何度も殴打してくる。


「ハァっ、ハァ…ちっ、やりすぎたか、その顔では萎えてしまうわ。おい帰ったら教会のを呼べ」

「は、ハッ」

「フッ、館に戻るまで十分苦しむがいい、その後はちゃーんと治してやるぞぉ。たっぷり楽しむためになぁ」


 いやらしそうな顔でそう言ってくる。まずいな…教会の奴らを呼ばれるとゴースト執事じゃ敵わないかもしれない。

 いざと言うときは死んだフリでも…いや、こいつ死体でも嬉々としてやりそうだ。

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