第7話 ~メイドとして~

 次の日。

 なんだか体が揺れている。

 朝早くから誰かに起こされているような気がする。

「朱火さん!起きてください!」

 うるさいな。今日は土曜日だぞ。

 もう少しくらい寝かせろよ。

「蟲に取り付かれている人がいます!」

「なんだと……」

 寝起きでうまく声が出せないが驚いた。

「こんな朝から……迷惑な話だ」

「全くです。朝の五時からなんて」

 ビリニュスの言葉を聞き、時計を見てみると五時二十分だった。

「でも仕方ありません。仕事ですから」

「金は?」

「出ません」

 あっさり答えられてしまった。

 とんでもない仕事を流れ的に引き受けた事に後悔した。

「場所はここから一番近い神社です」

「それってここから歩いて十五分はするぞ。よくわかったな」

「僕はこの街全体なら蟲を感じる事ができます」

 そうなのか。

「さあ行きますよ! 終わったら帰ってきてまた寝ましょう!」

「お前はあまり眠そうじゃないな」

「まあ、朝早くからなんて事はたまにありますから」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「お願いします神様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!」

 ビリニュスに案内されながら行くと中規模の神社の前で誰かが賽銭箱の前で跪いて大声を上げていた。コイツだな。

 朝早くから出歩いても見つからず、すぐに戦えるようににメイド姿で出かけた。

 何をお願いしているのか気になったので、近付いてみた。

 どうせ見えやしないんだし。

 跪いている人物は灰色のズボンに黄色の長袖のパーカー、白いスニーカーを履いていた。体格とさっきの声からして男だろう。

「朱火さん! 今近づいたら……」

「ん?」


「おおおおおおお! 我が願いを聞き入れてくれたああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ん、見えてる?

「本物のメイドさんに会いたいと懇願した結果、すぐに受け入れてくれるとは! ボロくさい神社だとずっと思っていたけど噂は本当だったかあああああぁぁぁぁぁ!」

 見えてる!

 間違いない!

「あのー……見えるんですか? 私の事」

「もちろん! この月詠 小雨(つくよみ こさめ)十七歳! メイドさんに嘘などつきません!」

 どういう事だ?

 昨日の話と違うじゃないか!

「朱火さん!」

 ビリニュスが走って来た。

「言い忘れていましたが蟲に取り付かれた人は執事とメイドが見えるようになるのです!」

「それを早く言え!」

「何の話をしているんだい? 朱火ちゃん」

 どうやら本当の事らしいな。

 しかし……顔と見た目は悪くは無いが、知らない男から『ちゃん』付けで呼ばれるのは耐え難い!

「おいお前!」

「ぼ、僕ですか?」

 男はビリニュスを睨みつけていた。

「朱火ちゃんとどういう関係だ!」

「パートナーです」

「な、何の?!」

「それは……秘密です」

「なんだとー!」

 ま、マズイぞ!

「あ、いやそのお付き合いをさせてもらっているとかでは無く……」

「ウソ付けえぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!」

「嘘じゃない! 本当の事だ! 昨日会ったばかりだし!」

「…………」

 だ、駄目か……。


「朱火ちゃんが言うなら信じよう」


「……。」

 やれやれ。

 どうやら取り憑かれても怒らせないようにすればいいみたいだな。

「朱火さん。この人はこれ以上僕と話していたり朱火さんと一緒にいたりしていると理性を失い暴走してしまいそうです。すみませんが後は任せます」

「おい! ビリニュス!」

 話しかけた時には既にダッシュで私から数メートル離れていた。

「後ろで見ていますのでー! 安心してください!」

「朱火ちゃん! 邪魔はいなくなったよ! そんな物騒な槍なんてしまって、ゆっくりお話しようよ!」

「はぁ……」

 男って奴は……。

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