第9話 奇人達の夜(通編)

 23時33分 彼女を送って自宅でカクヨム。


 スマホに着信…………長いよ!

 切れてから、しばらくして確認すると『通』。


 あ~……今日は気分じゃないな~……。


 それからしばらく…日を跨ごうかという頃、一応電話してみた。

 5コールでいいだろう……この時間だ出ないはず……2コールで出やがった。


「おう…もしもし…オホホホッホホ」

「なんかあったの?」

「なにもねぇ!でも電話する!それが俺!」

「………寝ていい」

「いやいや……これから来ないか?」

「行かねぇよバカ」

 水の音がする……。

「お前…風呂?」

「そうだよ…良く解ったな」

「うん……風呂で携帯とったの……2コールで…」

「おう」

 相変わらずのバカ持論……。

 金は要らない…貧乏でもいい…正社員でなくても幸せだ…云々。

 要は、現状に不満だらけなのである。

「そういえば…昨日、健康診断だったんだ」

「悪いトコあった?頭とか…頭大丈夫だった?」

「褒められたんだ」

「へぇ~頭以外丈夫だって?」

「おう、この歳で身体が引き締まってるって、ウエストも78cmで、すごいって」

「あ~そうなの……先生がそう言ったの?」

「シルバー人材の爺さんに」

「あ~医者に褒められたんじゃないのね」

「いや~、どうやったらそんな風になれるのかって聞くもんだからさ」

「あ~どう言ったの」

「ワンダーコア!あと、毎朝、納豆と御飯と一つまみの塩、炭素水!」

 ず~っと『炭素水』って言ってるが、『炭素水』じゃない。

『炭酸水』と『水素水』が混ざってるのだ。

 通が飲んでるのは『水素水』だ。

「お前も、太ってばっかいないで、ワンダーコアやれ!」

「あ~考えとくよ」

「お前は食に無関心すぎなんだよ……云々」

 どうでもいい講釈が始まる…マグネシウムがどうだ~ミネラルはああだ~炭水化物は摂るな~などなど。

「お前…3食、米じゃん……」

「3食食べなきゃダメだよ」

「俺、1日1食だから…」

「早死にするぜ」

「いいよ…長生きしたくないし…」

「俺は生きたい!」

「前から聞きたかったんだけど、なんで長生きしたいんだ?」

「それは当たり前だろ!人間として」

「お前…幸せなの?」

「おう!お前みたいに、上ばっか見ている人生嫌だ!横見ろよ」

「横見て、ソコが嫌だから上見るんだよ!お前は下しか見ないから、どんどんダメになってくんだ」

「俺がダメだって言いたいのか!」

「前から何度もそう言ってる」


「稼業を継ぐってことは、先祖の魂を継ぐってことだ!」

「お前、稼業継いでないじゃん、ただの工場アルバイトじゃん」

「しょうがねぇ、農家も手伝わなきゃなんねぇんだ」

「手伝ってないじゃん…お前の親父、農業で食ってけないからアルバイトしてんじゃん」

「ずっと農家として代々やってんだ!」

「だから…爺さんも親父もお前も、家建て替えることすらできずに、貧乏連鎖させてんじゃねぇか!」

「最近、水洗トイレに変えたわ!」

「えっ?お前の地区、やっと下水整備されたの?今まで汲み取りだったのあの辺?」

「いや…俺の家だけ、金が無くて工事断ってたの」

「あ~市役所も迷惑だったろうね~、催促されなかった?」

「解らないけど…電話は来てたね」

「だろうね…」

「いいわ~アレ、ほら俺『痔』だからさ~」

「あ~、ソレもあるかもね…不潔にしてるとなるからね」

「やっぱそうかな、最近調子いいんだわ」


「お前、子供いるんだし…大学行かせるって言ってたじゃん」

「いや…やめた…金無い」

「だからさ~、ちゃんと正社員の職探してさ……」

「いいんだ、あいつも農家やらせりゃいいんだ」

「可哀想だろ」

「ウチは代々そうやってんだ!」

「お前…逃げてるだけでしょ」

「なにが!アルバイトだって時給750円でちゃんと働いてる。それで60歳まで勤めれば、それだけで立派なことだ!」

(高校生でも、もうちょっと時給いいわ……)

「お前、稼業継ぐって…継ぐ気ねぇじゃねえか!フリーターのまま引退して長生きだ~!人生ナメんなよ!」

「大丈夫なんだ!両親とカミさんもアルバイトで皆で少しづつ働いていれば、なんとかやれんだ!今月の引き落としも5,000円足りないくらいだったし」

「赤字じゃねぇか!やれてねぇじゃねぇか!」

「俺…手取り10万で引き落とし7万ってやってけるわけねぇだろ!」

「しらねぇよ馬鹿!」

「来月も7万引き落としがあるんだ…」

「ナニ買ったんだよ…」

「先月…車のタイヤと今月パソコン買った…カードで…」


 3時間…こんな会話が続いたのである。

 人生で最も無駄な3時間だった…。

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