第17話 バレた!

「さて、ここには僕達しかいないからゆっくり話せるね」

「そうですね」

 確かにここには俺と綾峰さんしかいない。

「この屋敷の生活には慣れた?」

「はい。だいぶ慣れました」

「そうか。それから哀來のピアノと歌のレッスンはどう?」

「まじめにやっていますよ。今じゃ大学に行っても誰にも負けないくらいうまくなっていますよ。最初から才能がある人でしたから」

「『情報の吸収能力が高い天才少女』と言われているからね。当然だよ。僕の嫁にふさわしい」

 自慢かよ。

「ところでさ、聞いていいかな?」

「何でしょう?」


「君の名前って朱雀小夜、だよね?」


「な! 何の事ですか!?」

 どういう事だ!?

「君の事を調べたんだ。哀來の恋心を掴んだ男の正体を許婚として知りたかったからね」

 くっ!

「調べてみたら青龍家には弟子なんかいないし、取ってもいないって聞いたよ。これはおかしいと思って調べてみたら……ねぇ」

 そこまで調べられていたか!

「これは怪しいと思ってさらに調べてみたら君は先月殺された朱雀色素の息子じゃないか。もしかして君は事件の秘密を探るためにここに来たのかい?」

 バレてる!

「そんな事はありません。その情報が間違っているんじゃありませんか?」

 なんとか言い訳して乗り切らないと!

「そんな言い訳通じないな」

「違う!」

「嘘を吐くな!」


「そこまでにしてください!」


『!!』

 綾峰さんじゃない違う人の声がした。

 俺と綾峰さんは驚いて声が聞えた方向を見てみると柏野さんが立っていた。

「柏野さん!」

「お話はすべて聞いておりました」

「ど、どうしてだ? 外には聞えないはず」

「お嬢様から連絡があった後、お二人が応接室に向かう姿を見たのです。よく見てみると先生が綾峰様を案内しているのではなく、綾峰様が先生を案内していらっしゃるのでおかしいと思いました。この部屋には盗聴器が仕掛けていますのでそれを聞いていました」

「と、盗聴器!?」

 この部屋にあるのかよ!

「何でそんな物が仕掛けてあるんだ!」

「ここで話した事は外に洩れません。ですから何か怪しい話をするには丁度良い場所なのです。そのような事されては困りますので対策を取っているのです」

 それが盗聴か。

「さすがは哀來の執事だな。しかしさっきの会話の内容を知っていたような様子だったが?」

 それは俺に話してくれたからなんじゃ。

「先生……いえ、朱雀小夜様。実は貴方の正体には気付いておりました」

「か、柏野さん!?」

 俺の正体を知っていた?

「音楽教師の募集は実は他にもいたのです。採用の際には前もってその人物について徹底的に調べるのです。怪しい人物かどうか見極めるために」

 応募したのは俺だけじゃなかったのか。

「でもどうして採用したのですか?」

「申し訳ありません。他に応募者がいると話したら採用されたことに疑問を抱くのではないかと思いまして。他の応募者もいる中で、面接も無しに採用された話を聞くとおかしく思ってしまうのではないかと」

 なるほど。だから言わなかったのか。

「あなたの目的は燕家の復讐で来たと思いますがどうしても哀來様と一緒になっていただきたかったのです。彩彦様との約束を守る為に」

「どういう事だ! ていうかお前は義理父さんに仕えているんじゃないのか!?」

 綾峰さんは声を荒げている。

「いいえ。私のご主人様は彩彦様と哀來お嬢様だけです。大光様にお仕えした覚えはありません!」

「何!?」

 そうか。だから俺と哀來が一緒になればいい、とか言っていたんだ。

「柏野! どうして哀來ちゃんには仕えて父親である大光義理父さんには仕えないんだ!」

 そういえば俺と柏野さん以外は知らないんだっけ。哀來の本当の父親。

「実は大光様はお嬢様の本当の父親ではないのです」

「何だって!?」

 さすがに驚いていた。

「じゃあ本当の父親は誰なんだ!?」

「彩彦様です」

「何!? ……待て! 彩彦さんは独身だと聞いたぞ! 母親は誰なんだ!」

 確かに。一体誰なんだ?

「……大光様の奥様です」

『ええっ!!』

 ちょっと待て!

 という事は……。

「哀來は彩彦さんと義理母さんの間に生まれた子供だっていうのか!」

「はい。結婚して五年経っても、大光さまと奥様の間にはお世継ぎができず、それは奥様のせいだと毎日文句ばかり言っておりました。そんな奥様を毎日慰めていたのが彩彦様です。だんだんお二人は義兄妹以上に親密になり、密会をするようになっていきました」

 なるほどな。

「奥様はついに妊娠をしました。大光様は喜ばれましたが奥様は私にこうおっしゃいました。『この子は彩彦お義兄さんとの子供です』と。そこで私は奥様からすべて聞きました」

 だからそんな大事な事を知っていたのか。

「奥様は哀來様をお産みになられました。しかしすぐに大光様がDNA検査を要求されたのです」

「ま、まさか……」

 綾峰さんはその先をわかったようだ。俺もだけど。

「はい。お二人の密会をご存知だったのでしょう。結果はご存知の通りです。大光様は彩彦様を屋敷から追い出し、奥様には次の子供を産むように毎日せがまれました」

 かなり大変だったんだな。

「しかし次の大光様との子供はできずに奥様は大病にかかり、お亡くなりになりました。それから哀來様は大光様の娘として育て上げられてきました。天才少女と呼ばれ、様々な業界にアピールしておられました。『自慢の娘』と誇らしげに」

「そんな……では哀來ちゃんはこの事実を知らないで今でも本当の父親だと思っているって事なのか!? 可愛そうに……」

 待てよ?

 彩彦さんが追い出されたのは哀來が産まれてすぐの事だ。

 しかし燕舞がデザイナーを雇い始めたのは十七年前。

 さらに彩彦さんが殺されたのは同じく十七年前。

 ま、まさか! 彩彦さんは自分の子供を取り返そうと思って専属のデザイナーになったのか!?

 そしてその後に……。

「……」

「どうかしました? 朱雀先生?」

 柏野さんが俺の顔を心配そうな顔をした。

「柏野さん。どこか別の所でお話したいです」

「わかりました。では私の部屋でお話しましょう。綾峰様はこれからどうなさいますか?」


「今日は哀來と一緒にいる」


「え!?」

 俺は思わず声に出して驚いた。

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