第14話 扉越しの会話

 髪も濡れてしまったのでついでに洗おうと思う。

 まずは体から洗い始めることにした。

「小夜様」

「はい」

 哀來に呼ばれたので返事をした。

「小夜様は女性の裸に興味が無いのですか?」

 ……断られたことまだ気にしていたのか。まあ当然だな。

「無いと言えば嘘になります」

「男性の性欲はどれくらいなのですか?」

「食欲並と聞いたことがありますが……ってなんでそんな事聞くんですか!?」

「それはもちろん、これから小夜様とお付き合いするのに必要な知識ですから」

 本当にやめてくれ。

「まだ認めた覚えはありませんよ」

「『まだ』ということは可能性はあるということですね。認められるように頑張ります!」

 またしつこく攻めてくるのか。美女でもさすがにうんざりしてくる。

「もしかして小夜様の恋愛対象は女性ではなく男性なのですか?」

「違いますよ! ゲイじゃありませんから!」

 これは必死に弁解した!

「それではやっぱり可能性はあるという事ですね」

 さすがに嘘でも言っておくべきだったか? いや、それは俺のプライドが許さない。

「話を戻しますね。男性は誰でも性欲が食欲並なのですか?」

 やっぱり気になるのか?

「まあ人によりますけど大抵はそうですよ。現に私もそうですし」

「そうなのですか!? ではわたくしが抱きついたときもドキドキしたりしませんでした?」

「……本当の事を言ってもいいのですか?」

「はい。知りたいです。小夜様の気持ち」

 別に俺じゃなくても……そうか惚れた男の気持ちを知りたい女の気持ちか。

 そう思うと俺も気分が良くなってきた。

「しましたよ。それよりも巨乳に抱きつかれた嬉しさがでてきましたけど」

「それって……わたくしに抱きつかれたからではないのですか?」

「女性に抱きつかれたのは初めてだったので。『哀來さんに抱きつかれたから』というわけではないですね」

「そうですか……」

 声に元気が無くなった。

「小夜様はとても素敵な男性なのにどうして女性に抱きつかれた事が無いのですか?」

「……彼女がいなかったからですよ」

 言うのも腹が立つ。

「他の女性は見る目がないのですね」

「違いますよ。私に魅力が無いんです。今まで告った女は皆、学校でモテまくっている男が好きな人でした」

 自分で言うのもうんざりする。

「うーん。それだと厳しいですね」

 こいつにわかるのか? 俺のこの虚しい気持が。

「わたくしも好きな人がいて告白しましたが振られてしまいました」

 嘘だろ!?

「哀來さんが振られたんですか?」

「はい。告白したのは一回だけですがその時に」

 初恋は大抵振られて終わるからな。

「告白した方からは『おとなしい人より元気な人が好きだから』と言われました。告白した後、その人はクラスでも人気で明るい人と付き合っているという話を耳にしました」

 それで俺の気持ちがわかるような事を言ったのか。

「やっぱり小夜様も含めて男の人は元気で明るい女の子が好きなのですよね! わたくしみたいなおとなしいのは好みではないですよね!」

 なんだか声を少し高くして言っている。

 納得しようと自分に言い聞かせているのか?

「ごめんなさい小夜様。わたくし思い違いしていました。今まで優しくわたくしに接してくださったのは先生という立場からですよね。それなのに勝手に恋人みたいに思ってしまって、ごめんなさい」

「い、いいえ。気にしていませんから」

「それに今日はあまり楽しくしてはいけない日なのに。小夜様と話していたらつい……」

 うっ!

 そういえばそうだった。なんだかすっかり忘れてた。

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