第10話 燕家の秘密

「はい!?」

 『おじ』だって!?

「ちょ、待ってください! ということは、本当の子供ではないという事ですか!?」

 最後の方は声を小さくして聞いた。こういう秘密の話をしているときに誰かが聞いている事があるからな。物語での話だが。

「はい。血は繋がっていますが」

「あ、あの、さっき哀來さんが『おじ』の話をしていたのですが、その『おじ』は、もしかして……」

「はい。……お嬢様の本当の父親でございます」

 区切りまくりの俺の質問に柏野さんは重い口調で答えた。

「本当のお父様、彩彦(あやひこ)様は十七年前、何者かに銃殺されたのです」

「じゅ……!」

 銃殺?! 親父と同じ手口じゃないか!

 それに『十七年前』? どっかで聞いたことが……そうだ!

「十七年前って確か……燕舞がデザイナーを雇い始めた年じゃないですか!」

「よくご存知で。彩彦様は服飾デザイナーでした。燕家のご長男でしたが社長の座を捨て、デザイナーとして活躍していました。燕家に雇われてからしばらくしてから……銃殺されてしまったのです」

 それって……。


 親父と全く同じじゃないか!


「顔が青ざめていますが大丈夫ですか? ショッキングな出来事をいきなり話してしまって申し訳ありません」

「い、いいえ。続けてください」

 十七年前の事件と親父の事件は繋がっているような気がしている。

 手口とデザイナーという身元が一致している。偶然とは思えない。

「誰が殺害したかは今でもわからないため事件は今でも迷宮入りです。しかし先月から燕舞で活動なさっていたデザイナーがこの事件を探っていたらしいのです」

「か、柏野さん! そのデザイナーの名前ってわかりますか!?」

「朱雀色素(しきそ)様です」

 親父だ……。

「どうして……事件を探っていたのですか?」

「彩彦様と色素様は長年のご親友でした。彩彦様の死の真相を十七年間探った結果、燕家に再び目を付けたのでしょう。最近の燕舞には悪い噂が絶えませんから」

 なんてこった!

 まさか親父と哀來の親父が親友だったとは。

 親父は哀來の親父の死の真相を知るために燕家に侵入した? 今の俺と似たようなものじゃないか……。

「その、朱雀さんは真相を知って殺されたんでしょうね」

「ご、ご存知なのですか? そういえば、色素様の奥様は青龍家のお方でしたね」

「はい。私の師匠の旦那さんでした」

 『会社の黒い噂よりも恐ろしい事の真相を知って殺された』というお袋の予想はある意味的中していた。

 それがまさか十七年間追っていた親友の死の真相だったとは。

 燕舞に雇われたデザイナー二人が銃殺。

 犯人は同じ人物。そうとしか考えられない。

 そういえば。

「彩彦さんが殺害された理由は何だと思います?」

「警察は社員との揉め事があったと考えているようです」

「仲が悪かった社員でもいたんですか?」

「優しい方でしたから。あまりそのような事はなさそうですが」

 親父も性格は悪くない。

 別の線からも考えてみたが、違ったみたいだ。

「そういえば。朱雀家には丁度、お嬢様と先生の同い年のご長男がいらっしゃいます」

 俺のことだ!

「彩彦様は女の子、色素様は男の子の父親になったお二人はこう、おっしゃられておりました」


「『二人が十八歳になったら結婚させようか』と」


「……」

 俺は何も言えなかった。

 あまりの衝撃的な事ばかり聞いてしまったのだから。

「色々ありがとうございました。最後に一つ聞いていいですか?」

「はい、何でしょう」

「どうして私にそんな大事なことを沢山話したんですか?」

 柏野さんは少し黙ってから答えた。

「私も復讐したいのです。誠実なお嬢様を騙し続ける旦那様を」

 そのときの柏野さは怒りの目満ちていた。

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