第4話 Gain

 ユキがタケに禁書を見せてから1ヶ月、誰もユキの姿を見ることは無かった。

 騎士見習いのタケが王宮で入れる区域は決まっている。

 タケはユキのことを気に掛けながらも、中庭から資料室の窓を眺めるしかできない日々が続いていた。


 ある雨の日、タケが廊下から中庭を見ているとユキの姿が……。

「ユキ!」

 声を掛けたのだが、雨音にかき消されてユキには声が届かない。

 ユキは包帯に包まれた自身の左腕を天にかざした。

 何をしているのか……。

 タケはそっとユキを眺める。

「あぁぁぁぁぁああぁっぁぁぁぁぁ!」

 ユキがわめく様に声をあげる。

 するとユキの左腕から炎が立ち上った。

「魔石…なのか…」

 タケが呟く。


 確かに熱を秘めた魔石の力を解放すれば炎は起こせる。

 だが、ユキの左手を包む炎は明らかに普通じゃない。

 ユキ自身の左手の動きに合わせて炎が付き従うように動く。

 それはまるで、左手に炎のへびが這うようだ。

 なにより、炎はユキ自身を焼いていない。

 包帯に焦げ目ひとつ付いていないのだ。


 ドサッとユキがひざまずくと、炎は消えた。

 荒い息をしながら水たまりに顔を突っ込むように倒れるユキ。

「ユキ!大丈夫か?」

 走り寄るタケ。

「タケ…か、見てたのか?」

「あぁ……なんなんだアレは?」

「ハハハッハ……」

 荒い息遣いで笑うユキ。

 タケにスッと左手を差し出す。

 ユキが包帯をほどくと左手には色・大きさ、様々の魔石が埋め込まれている。

 魔石の周りには呪法と思しき文字が掘られている。

「お前…コレは…」

「ハァーッ…ハァーッ」

 と荒い息を整えると、ユキは話し始める。

「禁呪だよ…試したんだ、自分の身体で…」

「なんてことを…なにを考えているんだユキ!」


 ユキはタケから離れるように立ち上がり、タケに背を向けたまま、

「タケ……僕はココでも厄介者だったよ……中途半端な魔法力!そんなものがあったから、僕は…僕は…」

「ユキ……」

「惨めだったよ…タケ、でも、もう大丈夫、僕は大丈夫だよ」

 振り返ったユキの顔は泣いているようにも、微笑んでいるようにも見えた。

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