第22話

「俺の名はキール。そして……」

キールが何かを言おうとしたその時、割り込んでくる声があった

「フェリス、何をしているの。相手が立ち上がるなら、立てなくなるまで叩きのめしなさい」

フェリスと呼ばれた幼女は唇を噛みしめ手をキールに向けた。キールもとっさに全身を強化する。再びキールを火の玉が襲う。直撃した火の玉が弾けキールを吹き飛ばす。破れ、焦げた衣服の状態に比してキールにはダメージは少ない。再び立ち上がるキールに驚きを隠せないフェリス。

「どうして。今まで1度でも立ち上がってきた子はいなかったのに」

冷静さを欠いているのだろう、日本語である。そこでキールは気づいた。共通の言語で声を掛けたらどう反応するだろう。

「転生者の特徴かもね」

ボソリとフェリスにだけ聞こえるように日本語でつぶやく。

「な、日本語、転生……」

心理的な揺さぶりはともかくキールは未だにフェリスに攻撃をする覚悟が無い。魔法を受けるだけなら身体強化でまだ何度かは耐えられそうでもあり、それほど切羽詰まっていないのも覚悟を決めきれない理由の1つだろう。そしてもう一度気づいた。受けなくても良いのでは?この2回の魔法の発動を見るにフェリスの魔法は手を伸ばした方向に飛ばすように見えた。ならば、その射線から逃げれば身体強化のための魔力を温存できる。そうして温存しながら先を決めればいい。キールはそう決めた。そう、それも小さな覚悟だった。キールは幼馴染の石館優菜の転生した姿かもしれないフェリスを今の心境では攻撃できない。しかし、最終的には勝つか負けるかの覚悟を決める必要がある。そしてフェリスの腕が3たび伸びた。キールは足を少しだけ強化をしてタイミングをはかり横っ飛びに飛んだ。

 キールの背後で魔法が弾け、強固な板壁が罅割れる。そこからは繰り返しだった。フェリスが魔法を放つ、キールが避ける。放つ、避ける。何度繰り返したことか……

両者共に息が上がってきている。そうしている間にキールもようやく覚悟を決めた。

『1度だけ目を瞑る』

度重なる魔法の使用にフェリスは疲労困憊していた。その疲労により徐々に集中力が落ちる。魔法を放つタイミングが単調になってしまってきた。そのタイミングをつかみフェリスが魔法を放った直後、キールがフェリスに向かって走る。あっという間に近接距離だ。集中力を欠いたフェリスは対応が遅れる。

「優菜ごめん」

強化されたキールの拳がフェリスの鳩尾を穿つ。既に疲労で限界に近かったフェリスは、その攻撃に耐えきれず膝が折れ崩れ落ちる。それをとっさにキールが抱き寄せ地面に叩きつけられるのを防いだ。意識を失ったフェリスをそっと横たえ判定員にアピールをする。キールにはこれ以上フェリスに攻撃を加えることが出来ない。これで勝利を認められなければ自分も疲労で倒れた体で終わりにするつもりだった。

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