第3話

「…なんとか逃げ切れたようですね…」


シェインが辺りにヴィランがいないのを確認して、戦闘の終わりを宣言する。


五十を超えるヴィランの群れに包囲され、逃げ道もなく、ただなぶり殺しになるところだったエクス達四人、

ギリギリだったところを、先程、エクス達を問答無用で狩る勢いで追いかけ回していた少女のものと思われる攻撃が救った。

ヴィランの包囲が崩れたおかげで、その絶望的な状況から抜け出し、ここまで十分ほど、全力で走り続けて何とか逃げ切ってきた四人。

必死すぎて接続(コネクト)も解かなかったため、その身に宿した英雄の力を全力で使い、爆走し続けた。

結果、先程の場所よりかなり離れてしまったが、いまだ、森の中である。


ようやく落ち着き、接続を解く


「ホント…何だったんだ?あれ…」


突如、空から飛来したメガヴィラン、それを倒したと思われる頭のネジが飛んでいる少女、その少女と全く同じ姿をしたもう一人の少女の出現、そして物凄い数のヴィランによる急襲……、

さっき見た、数々の異常な事態に、訳が分からなくなかっている四人


他の三人の意思の代表としてか、タオが疑問の声を口にする。

…答えるものはいない…


はずだった、


「私の名はエリサ、この想区の主役様よ〜!」

「…⁉︎…」

突然の返答に驚き、声のした方へ視線を移す四人、

腰まである金色の長髪、ヒラヒラのついた可愛らしいドレス、その手にはそれらに不釣り合いなハンマー、


…視線の先には、先程、エクス達四人を追いかけ回していた少女の姿があった。

「…嘘…」

青い顔をしてハッとした表情になるレイナ、

「一体、どうやってここが…」

自分達はかなりの距離を走ったはずなのにあっさり追いつかれたことに驚くエクス、

「アンタがこの想区の主役だったのかよ…」

信じられないものを見るかのようなタオ

「…で?私達に何か御用でしょうか?」

自分達に襲いかかってきたり、無視したり、助けたり、彼女の行動の理由が知りたいシェイン、


だが、自分達を助けたと言うことは、さっきみたいにぶっ飛んだ感じで、問答無用で襲ってくることは無いだろう、と考え、問いかけてみる。


シェインの問いに対しエリサは


「そうねぇ〜、用…そう!用があったのよ!」

本当か?と聞きたくなるような適当な感じで答えるエリサと名乗った少女、


「で?何よ?一応助けてくれたわけだし話を聞くくらいならしてあげるけど」


まさか今から私に殺されろ‼︎とか言い出すんじゃないだろうな?と、警戒心全開で問うレイナ、


「もう!そんな警戒しなくてもとって食やしないわよ⁉︎」


さっきしようとしてただろ‼︎


と全力で言い返したい一行であったが話が進まなそうだったので何とか飲み込む


「じゃあ言うわよ?私が貴方達に言いたい用ってのは、」


その場に緊張が走る、


「家へ帰りたいのだけれど、道を教えてくださらないかしら?」


「……」


無言で斬りかかろうとするタオを三人で必死に止めにかかる。


「実は私〜、今日この森でウロウロしている所を、急な雨に降られる予定になってるの。それで慌てて雨宿りに入った城に住んでいた王子様と出会ってハッピーエンドってなるはずだったのだけど〜」


少し困った様子で現状を説明していくエリサ、そして


ニコッと

可愛らしい笑顔になったかと思うと、


「雨〜、降らないじゃない?だからもう帰ろうかな〜と思って」


んないい加減な、


と一行が思っている中、さらにエリサのいい加減発言は続く、


「でも〜この森、同じ景色が永遠に続いてるでしょ?それにお城も見えないし〜?だから迷っちゃって〜」


一拍置いて


「帰り道分からなくなっちゃった☆」


テヘッ


とでも言いたいのか舌をチロッと出してウィンクするエリサ、


異様に様になっているのがまたウザい


話を聞いた四人は、呆れて物も言えない様子である。

しかし、シェインは何とか我に帰り、ある当然の質問をする。

「…じゃあ、もし雨が降ったとして…、そのお城へはどうやって行くつもりだったのでしょうか?」


「わかんない☆」


殺す☆


タオの怒りが臨界を超え、本気の殺意を出し始めた頃、


エリサがあることに気づいた様子でハッとした表情をする


「え〜っと〜、間違ってたらごめんなさいね、もしかして、貴方達も…迷子だったりする?」



…無言の肯定…、


そしてそのことに確信を得たエリサは


「え〜うっそ〜信じらんなーい、やーい迷子迷子ー」

自分のことを棚に上げて一行を馬鹿にし出した。


…レイナの顔がみるみる赤くなっていくが何に対してだろうか…?


そして四人はある結論を出す。


…もうこのエリサと言う人間に関わりたくない…、


と、


さっきの猟奇的殺人犯なエリサも関わりたくなかったが、今の子供としか思えない知能のエリサも関わりたくない。


しかし、そこでふとある疑問が浮かび、隣の顔が真っ赤っかのレイナに小さな声で聞くエクス、


「レイナ…あのエリサって、カオステラーじゃないの?」


今、目の前にいるのはあのメガヴィランと共に降って湧いた凶悪な方のエリサなのか、レイナがカオステラーだと言ったおとなしい方のエリサなのか、


レイナは、


「ま…迷子じゃ…ないもん…」


どうやらエリサに迷子を馬鹿にされたのがよっぽど悔しかったらしい、目に涙を浮かべ、自分に言い聞かせている。


エクスの声は…届かない…


とそこでシェインがエクスの疑問を察したらしく、ようやくストーリーに関わる疑問をぶつけてみる、


「では話を変えましょう、ひとつずつ聴いていきますので真面目に答えてください」


「何かしら?どーせ迷子なんだし暇だから答えてあげる」


…グサッ…とまた心に痛い一撃をくらい、今にも倒れそうなレイナは無視して話を進める。


まず、彼女はどちらのエリサなのか?

「メガヴィラン、さっきの黒っぽい動物の大きいやつを倒した覚えがありますか?」

メガヴィランを上空へ打ち上げ、共に降ってきた方ならカオステラーではない方である。

「そうね、何と言ったらいいかしら〜、あるような?ないような?」

要領を得ない回答、

「ではさっき、貴方と姿形が同一の人がいたと思いますが、あれは何ですか?」


「あれはー、私であるし?私じゃない?かしら?」


ハテナ、である。


「まぁ、それを説明するには私が一人で帰ろうとしていた時の話になるわ」


それは、エリサが約十数体のヴィランと戦闘をしていた時のこと


_____



両手にハンマーを持ち、それらを軽々振り回して、向かってくるヴィラン達の胴や頭を次々殴っていくエリサ、


…彼女が常にハンマーを持ち歩くようになり、何の躊躇もなく振り回すことができるようになるのは、彼女が物心ついてきた頃のこと…、


エリサはお姫様であり、身の回りの世話もお付きのものがしてくれるため、お城から出ることもなく、何不自由なくぬくぬくと育ってきた。


だが、彼女は、そんな何不自由ない生活が少し窮屈に感じ始めていた。


…ストレスもたまるし、何かスカッとする事がしたい…、


そんな時、彼女は出会ってしまったのだ、


ハンマーに



最初は、何をするものかすら分からなかった。

でも、何となく物を叩くものであると理解した彼女は、まず軽い気持ちで部屋にあった壺を叩いてみた。

そして…


「はぁ〜、たーのしーなー」


…ハンマーでものを殴ること…


これこそが今の彼女にとって、唯一自分を癒すことができる行為となっていた。


そんな彼女の前に、メガヴィランが現れた。


「あんな硬そうなものを殴ってしまったら、私どうなっちゃうのかしら〜?」


…気が狂うほど興奮した…


それはもう、


…目の前の脅威が、ただの壺と同程度にしか思えないほどに…、


そして、自分に異変が起きていることにも気づくことができなかった。


相手のスキを狙った一撃をメガヴィランに放った時、

硬いもの同士がぶつかり合った衝撃から手が痺れ、思わずハンマーを手放してしまった。

だが、メガヴィランも吹っ飛び、かなりの高さまで打ち上がっていた。


…あんないいもの、そうそう会えない、絶対逃がすものか…‼︎


そう考えたエリサは、ある行動を起こす。

少しでも身を軽くするため、自分の持ち物を服と片手に持ったハンマー以外、全て捨てた。


そして、


落ちてきたメガヴィラン目掛けて飛び上がる。


エリサとメガヴィランが交錯する瞬間、エリサは自らの持ちうる全力を込めた一撃をメガヴィランに放った。


攻撃はクリーンヒット、

メガヴィランは先ほどより高く、遥か上空まで打ち上がる。

エリサはその時、メガヴィランにしがみつき共に飛翔、


「…で、落下地点で貴方達と出会った、と言うわけ」


「なるほど、ではそのハンマーはもう一本あると?」

「…え?、ええ、あるわよ…?」

何だか予想と違う返答に一瞬戸惑うエリサ、


「シェイン…聞くとこそこじゃないよ…」

エクスが冷静にツッコみ、続ける。


「エリサ…さん?が降ってきた時、結構怖い感じになってたけど、あれは?」


一瞬、軽いトラウマになりそうなほど

恐ろしい、奇声を発しながらハンマーを振り回す少女の残像が脳裏をよぎる。

あんな状態の人間が物凄い勢いで追いかけてくる光景は恐怖以外の何物でもない。


「エリサでいいわよ?あれは〜、今までは物ばかりを殴ってきたのだけれど…生き物を殴ることはなかったのよ…」


申し訳なさそうな、少し歯切れの悪い返答をするエリサ、


「だから…はじめて生き物を殴って…ちょっと、テンション上がっちゃって〜、周りが見えなくなっちゃった。」

ごめんなさい、

と一応は謝ってくれる。

「わかったよ、じゃあ…」

とエクスが次の質問をしようとした時、


「…自分の好きなことになると周りが見えなくなる…エリサさん、私、それすごくわかります!」


目を輝かせたシェインがガシッとエリサの両手を掴み同意する。


一瞬、驚いた様子のエリサだったが、


「そう?貴方、わかる口ね?」


エリサも嬉しそうに目を輝かせシェインの手を握り返し、お互いを見つめ合う、


その後、なんだかよくわからない二人だけの世界を作り出し、話を弾ませていくシェインとエリサ、

「はい‼︎なのでそのハンマー、是非見せてください‼︎」


何かもう完全に自分達の世界に入ってしまった二人を見て、これは話が進まないと悟ったエクスは、しばらく待とう、とその間にしなければならないことを思い出す、

「ま…ま…まい…ごじゃ…」

「レイナ、もう、わかったから、気にしないで?」

こちらもまた、まるでいじけた子供のように目をウルウルと潤ませ、自分の世界で一人戦っている少女を現実に引き戻さなければならない、


さらに、もう一人、

「……」

プツン、と

怒りが臨界を超えたせいで何かが切れた様子の、目を限界まで見開いて、黒目を点にし、放心してしまっているタオも、

どうしたものか、

とエクスが考えていると、



「皆さん‼︎ヴィランです‼︎」

シェインの叫びに、全員が我に帰る、

見ると、辺りにヴィランが20体ほど見える。


すると

「…‼︎、いいところに来てくれた‼︎さっきからなんかおかしくなりそうだったからよ、ちょうどいいから思いっきり暴れさせてもらうぜ‼︎」

タオの怒りの叫びと同時、全員が接続、変身する。

「今回は私もちゃ〜んと混ぜてもらうわよ〜」

エリサもハンマーを構える


ちょうどその頃、


タオの怒りが呼んだのか、ゴロゴロと雷を伴った、黒い雨雲が空を覆い始めていた。



__________




「…と、いうわけで…、せっかくなのでエリサをお城までお送りしましょう」


その後、ヴィランを退けた一行は、先ほど、シェインとエリサが話に盛り上がった時に決めたことを実行することになっていた。


(…何気に呼び捨てになっているのを見ると相当仲良くなったらしい…)


「…なんで?」

「嫌よ」

「右に同じく」

いきなりの発言に戸惑うエクスと全力拒否のタオとレイナ、


「まぁまぁそう言わずに、エリサが言うには、お城へ行けばさっきのもう一人のエリサ、つまりカオステラーに会えるらしいですよ?」


「何で行ってもいないお前がカオステラーが城にいるってわかるんだ?」

「そもそも貴方と彼女は一体何なの?」

「さっき自分のことをエリサであるしエリサでないって言ってたよね?」

三人がそれぞれ疑問に思ったことを口にする。

それらに対し、エリサは、

「私、ね。私は…」

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