第5話 山道の散歩

 この時期は山道をぶらぶら散歩するのが最高に楽しい。

 足元にはたくさんのどんぐり。そして松ぼっくり。くるみ。栗のイガ。

 すぐ側にはつやつやと可愛らしいハダカホオズキ、ぶらぶらしている真っ赤なカラスウリ、カラフルなノブドウの実、美味しそうなアキグミの実、上を見上げるとアケビの蔓が半色はしたいろの実を重そうにたくさんぶら下げている。


「山の神様、また少し、山の恵みを分けてください」


 僕はいつもこうやってお願いするんだ。そうすると「いいですよ」って僕の気付かなかったことに気づかせてくれるような気がするから。


 ふと見ると、ジュズダマがたくさんの実を付けている。

 ほらね、神様はちゃんと僕の声を聞いている。

 これを探していたんだ。

 たくさん集めて、中に詰める。……何に詰めるかって? もちろんお手玉。お手玉の詰め物はこれに限る。


 **


 家に帰って戦利品を縁側に並べてみる。

 出て来る出て来る、いつの間にこんなに採ったかな。たくさんのジュズダマに混じって松ぼっくりやどんぐり。

 そうそう、このアケビの蔓が思わぬ収穫だったんだ。

 ジュズダマを採るのに疲れて腰を伸ばしたら、頭にアケビがぶつかった。美味しそうだったもんだから、一つおやつにその場で食べていたら……。

 山の神様の声がした。

 そうか。アケビの蔓。その手があった。

 クリスマスのリース、今年はこれで作ってみようか。帰り道、リースの飾りにする松ぼっくりやどんぐりを拾って。


 こうしてみると、どんぐりも色々な個性がある。

 コナラはスッと面長美人でミズナラはちょっとぽっちゃりさん。どちらも帽子はつぶつぶのうろこ模様。

 しましま帽子は樫の木の仲間。スマートなシラカシにコロンとしたアラカシ。

 もしゃもしゃ帽子はクヌギにカシワ。

 こりす君が見たら飛び上がって喜びそうだ。


 おや? 噂をすれば木槿むくげの木の下で、草がガサガサ言ってますね?

 こりす君、どうしたんですか、そんなところに隠れて。

 ……?

 う……さぎ……さん、ですか?

 僕と目が合ったうさぎさんは、驚いてくるっと方向転換をしたんだけれど……。

 なんとそこには本物のこりす君が固まっていて。

 三つ巴。いや、この場合は三竦みが正しい?

 暫くして、弾けたようにこりす君が走って行くと、うさぎさんも金縛りが解けたように逃げて行ってしまった。

 くすくす……僕だけが最後まで固まったまま。


 うさぎさん、また来てくれるでしょうか。

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