リアクションに困ること言われる

ベームズ

第一問〜突然の告白〜

自室。


それは、誰にも侵されることのない自分だけの聖域。


どんな物を置いていても、中で何をしても、誰にも文句を言われることはなく、たとえ休みの日に宿題をすると言って一日中ゲームをしていようと、掃除を一週間以上してなくて、部屋中を目に見えるくらいのホコリが舞っていようと、誰の迷惑にもならない。


……はずなのに。


「なー、ジロー?」


ガバッ‼︎


俺ことジローは、今年で高校二年生になる高校生だ。


高校自体はウチから近いし(そういう理由で決めた)自宅登校組だ。


何かと入り用だろうと、高校に上がると同時に親からこの部屋をもらった。

それまで誰も使っていなかった謎の部屋。

どうやらいつか俺に使わせるために取っておいてくれた場所だったようだ。

誰も使っていなかっただけあって物一つない静かな部屋。

それが一番はじめにドアを開いた時に感じた感想だった。


しかし、



あの何の味気もなかったこの部屋も、一年も経つとすっかり俺色に染められてしまった。


隅から隅まで趣味趣味趣味。


今やここは俺の趣味が全開に晒された聖域となっていた。


ちなみに趣味とはクマさん人形収集である。

いつかこの部屋を世界中の可愛らしいクマさん人形でいっぱいにするのが俺の夢だ。


今も、俺がこの一年かけて集めたクマさん人形達が棚にベッドに机に床に、あらゆる所に並んで、この聖域の主人たる俺へ向けて、その可愛らしい丸い目を一斉に向け続けている。


部屋中から向けられる無数の無機質な視線に、不思議な寒気すら感じて今もこうして肌が震えているが、でもそれが幸せだとすら感じている。


「何だ?」


そんな俺の聖域に不躾にも踏み入り、あろうことか我が半身であるテディー君(特大のクマのぬいぐるみ)に抱きつくこの女はヒメ。




「私らなんでこんなことになってるんだろう?」


現在、ヒメは、俺のベッドに横になって、テディー君を抱きしめている。


「知らんがな、そもそもなんで俺の部屋にヒメがいるんだよ?そこからもう疑問だよ」


ヒメは俺と同じクラスのクラスメイトにして、入学式の日から何かとペアやら同じ班やらになる、いわゆる腐れ縁というヤツだ。


まあ、


学力順でクラスと席順が決まる我が校の決まりからして、一度前後の席になれば卒業までずっと前後の席なんてのはよくある話だが。


「そ、それは〜……」


そんなヒメには今日、我が聖域の話をした。


すると、ヒメもクマさんのことが好きみたいなことを言っていたのでつい、「だったらウチくる?」

と言ってしまった。


その時のヒメは目を輝かせようは本物のクマ仲間だと疑う余地もないほどで、

うんうんブンブンと、ものすごい勢いで首を振っていたし、その喜びようは、見ているこちらが引くレベルだった。



そして、そんなヒメは、一旦家へ帰って用意をすると言って先に帰ったのだが。



ヒメは、ウチへくるのは初めてだったし、場所を教えたこともなかったので、待ち合わせでもしなければ辿り着けない。


ことに気がついて「日を改めるか〜……」ヒメもそのことに気がついたら諦めるだろう、


と一人で結論を出して帰路についたのがつい30分前。



無事に帰宅して自室のドアを開いたところ、この光景が目に入ってきたのだ。


ちなみに右手はポケットに入っている。


自室に入ったら知らない人がベッドに横になっていたのだ。反射的にスマホをかまえようとするのも無理ない話で、あと数秒ヒメだということに気づくのが遅ければ迷わず110していた。


「呼んだのジローじゃん」


まるで俺が呼んだから来たみたいな言い草。


いや、そうなんだけど⁉︎


「呼びはしたがウチの場所を教えた覚えはないぞ?」


そのことは素直に悪いと思っている。


だがそう言ってやるとヒメの視線は右上を向く。


「……そ、それは〜なんといいますか、色々ありまして」


どう見てもやましいことがある態度。


「どんな色々があったら教えてもいないウチに辿り着けるんだよ⁉︎」


思わずツッコミを入れてしまった。


「えっと、その、あれよ、あれ」


どれだよ⁉︎


「……これ」


は?


観念したらしいヒメは、自身が抱いているテディー君の腕を振っている。

まるでテディー君に手を振ってもらっているみたいで思わずニヤけそうになる。


「テディー君がどうしたんだよ?」


そんなことで誤魔化されないぞ‼︎テディー君は悪くない‼︎


「いや、ここ」


テディー君は自らの目を指差した(ように見える)


「目?」


「ここにカメラ仕込んであるの」


「……は?」


は?


「以前ジローにキーホルダーあげたじゃん?そこに発信器仕掛けてあるの、あとこの子には盗聴器このことこの子にはカメラ」


「…………」


開いた口が塞がらない。


キーホルダーは、以前俺が学校の鞄につけてたのがなくなって落ち込んでいたらヒメがプレゼントしてくれたものだ。



「キーホルダーに仕込んだ発信器でジローの家特定してその後たまに忍び込んではカメラや盗聴器しかけていってたのキャッ‼︎」



キャッ‼︎


ただの可愛いクラスメイトと思っていたら、ガチのストーカーだったぜ☆



「私、ジローのことが好きなの‼︎今日もジローに家に招待されて嬉しくてつい張り切って準備しに帰ったけどそういえばまだジローの家教えてもらってないなと思ったけど、また後日なんてどうしても我慢できなくてでも教えてもらってもないのにジローの部屋に入ってたらさすがに引くかなとは思ったけどほら見て家で準備してきたの‼︎ジローの好きなクマさんだよー?熊耳カチューシャに熊肉球手袋クマなりきりパジャマ‼︎これ着てクマに混ざればいいかなと思って、適当に理由付け出すと何というか歯止めが効かなくてついやっちゃったゴメン、でもジローも悪いんだよ?なんでいまだにスマホの連絡先すら教えてくれてないの?おかげでこんな強行に出ざるを得なかったんだからとりあえず連絡先教えて、そして付き合ってください」


「………………」




神よ、



大人な答えを俺に授けてくれ。


①……「マジか‼︎嬉しいぜ‼︎そんなに俺のこと思ってくれてるなんて‼︎はい連絡先、末長くお付き合いしようぜ☆」


②……「キモいんだよ‼︎このストーカー女が‼︎二度と近づくな‼︎お前が触れたもんなんて気持ち悪いから全部持って帰れ‼︎そして金輪際近づくな‼︎関わるな‼︎」


③……(黙って110)。


④……その他、何かアイデアがあればお教えいただきたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る