純粋ワンコ【R】の場合

はじめての彼氏

 妹が1歳のころ、父親が交通事故で死んだ。


 今まで一度も涙を見せたことのなかった母親が泣きじゃくる姿を見て、9歳だったオレと12歳だった兄貴は子供ながらにこの小さな妹を兄として父親として守って行こうと固く決めた。



 あれから15年。



 生まれた時から花も恥じらう程に可愛かった妹は、16歳になってから更に磨きがかかり最近は色気すら出てきたのではないかと感じる。


 幼稚園、小・中学校、全ての時期において男の子に人気だったものの当の本人は全く気がついていないらしく、父親代わりであるオレと兄貴が迫る火の粉を片っ端から払っていた。


 類稀たぐいまれなる可愛さを手に入れた代償なのか、大切な妹は男運がゼロに等しいようで……。


〝火の粉〟に対する多少大人げないプレッシャーのかけかたも仕方がなかったと思う。



 しかし妹が高校生になり今まで順調だったはずの火の粉払いがうまくいかず、兄貴とオレは頭を悩ませることになる……。





 ◆◇◆◇



「初めての彼氏ができたの! リョウタ君って言うんだよ」


 兄弟3人での楽しい夕食の時間、ヒナタのたった一言で一瞬にして周りの空気が凍った。


 この場に母親がいれば「良かったじゃない。今度連れていらっしゃいよ」なんて明るい雰囲気になったかもしれないが、あいにく仕事に出ている。


 そのため、彼氏ができた宣言に対して諸手もろてをあげて喜ぶ者は一人もいなかった。



 ヒナタがリョウタを家に連れてきたのはそれから2週間後──。


 玄関で仁王立ちするキョウスケとアオイに臆することなく「はじめまして」とキラキラした瞳で挨拶をしたリョウタは、まるで愛らしい小型犬のようだった。


「いらっしゃい」


「…………」


 アオイはいつものように人当たりのいい笑顔の仮面をつけ、キョウスケは全くの無表情。


 兄の心の内を知ってか知らずかヒナタはとても楽しそうである。


「リョウタ君、上がって。わたしの部屋2階なの」


「おじゃましまーす!」


 トタトタと階段を上がって行く2人をジッと見ていたキョウスケが、恒例の質問を投げる。


「……アオイ、どうだ?」


「う~ん、純粋そうだけど残念ながらアウトだね。『将来ヒナタと結婚間近までいってるのに好奇心旺盛な性格がアダとなってキャバクラに通いつめたあげくに借金。ヒナタ大ショック』っていうのが見える気がする」


「今回はかなり将来さきのことなんだな」


「まあ、なんとなくだけど」


「ヒナタのことに関してはお前のソレは外れたことがないからな」


「愛情のなせるワザ! って胸張るのは置いといて、そうとなったら作戦練らないとねぇ」

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