第6話「実技」

 夾也が騎士学校に入り二週間が経った。

 騎士学校での授業は、国の歴史や騎士団の歴史を知るための歴史。

 騎士としての正しい言葉使いやふみの書き方を覚えるための国語。

 一般的な教養としての数学や科学。

 体力を鍛えるための体育。

 そして、夾也の最近の一番の悩みとなっている実技……つまり次元刀の扱い方を学ぶ授業。これらで構成されている。


「はああー、今日も実技あるじゃん……辛い」


 夾也は机に顔を突っ伏してうなだれていた。


「夾也あの時間、ずっと木刀で素振りしてるだけだもんな」


 そんな夾也に、義朝がそれを少しからかうように声をかける。


「笑うなよ、こっちはあれで真剣なんだよ」


 その言葉を証明するかのように、いつも夾也は他の誰よりも汗だくになって剣を振り続けていた。


「夾くん、そういえばあの木刀どうしたの?」


 義朝の隣で由良が夾也に質問した。

 授業で夾也が使っている木刀の入手先が気になるらしい。


「最近この学校の剣術部に入ったって言っただろ。そしたらあの木刀をもらえたんだ。部長いわく、入部特典だって」

「そうだったんだ。でもけっこう年期入ってそうだったけど、新しいのもらえなかったの?」

「いやーなんかさ、その日準備してた以上に新一年生が入部したみたいで、新しい木刀渡すの待ってもらえるって言われたんだけど。俺その日すぐ欲しくて、新しくなくても全然いいですよって言ったら、部の倉庫の奥にあったこの古い木刀とその鞘をもらえたんだ」

「そうだったんだ、私も剣術部入ろうかな」

「楽しいよ、入ろうぜ」

「どうしよっかな~」


 由良が肩まで伸びた黒髪をなびかせながら頭を斜めにして考えていた。


「義朝は入らないのか? 転校するまで俺は、義朝や棗と同じ道場にいたんだぜ。義朝や棗に勝ちたくて俺けっこう頑張ってたんだ」


 夾也は義朝に話題を振った。


「結局お前は一度も勝てなかったけどな。夾也負けるともう一回、もう一回って何度も挑んでくるんだぜ。諦めの悪さだけは一流だったな」

「うっ、それは、お前らの方が剣を始めたのが早かったから勝てなかったんだ。たぶん……それに義朝だって棗に一度も勝ててなかったじゃないか」

「あいつは当時から化物並に強かったからな」


 棗は小学四年生にして道場にいた中学生を打ち負かしていた。


「棗さん、すごい」

「話はそれたが、剣術部か……俺は入らないかな。それにもし入るなら次元剣術部だろ」


 それは次元刀の扱い方の向上を日々研究し、実践している部活。

 次元刀を使い騎士になろうとしている学校で、ただの木刀での剣術を競うような部活が人気なはずはなかった。

 この学校の99パーセントの生徒はもし二者択一で剣術部と次元剣術部のどちらかを選べと言われれば迷いなく後者を選ぶだろう。


「……そうだよな、普通はそっちなのかもな」


 夾也は少しテンションを落としてそう言った。

 そんなこんな話していると先生が教室に入ってくる、次は歴史の授業だ。

 

 歴史の授業は聞いていて面白い。

 受験のために国の歴史は勉強したのだが、騎士団の歴史については試験範囲ではなく勉強したことがなかった。

 だから、知らないことばかりで聞いていてとても新鮮だし楽しい。


 歴史の授業が終わり、夾也達下位クラスの生徒が校庭に集まる。担当の教員が来て実技の授業がスタートした。


 各々おのおのが次元刀を顕現けんげんして、その扱い方を学んだり、身体からだを慣らしていく。

 身体を慣らすとは、次元刀の力によって次元刀顕現時、顕現者の身体能力は強化されるのだが、その強化された身体能力に自分の感覚を合わせていくということである。

 騎士は次元刀によって強化された身体能力とその次元刀が持つ能力を基本ベースに剣さばきや身のこなしを用い戦っていく。これらを教えることができるのは、この学校の先生は皆現役の国を守る騎士であるからだ。

 騎士団の部署の一つにこうして騎士学校で働く部署があり、そこの部署の騎士たちが先生となり、騎士の卵である騎士学校の生徒に授業をしているのだ。

 出向のようなものである。


 ブオン。


「義朝の黒剣か」


 義朝が次元刀を振るうたびに空気が大きく振動して、他の人より大きな風を切る音を出していた。

 無属性の剣、義朝のそれは夾也の兄の剣に色が似ていた。


「由良のは……きれいだな」


 由良が一生懸命次元刀を振るたび、次元刀に帯びた雷がまわりに飛び散る。由良のがんばる姿と雷の相乗効果でショーを見ているように見蕩みとれてしまった。


「俺もがんばらないとな」


 夾也は意識を己に戻す。木刀を握り、兄貴の剣さばきを思い出す。夾也は試しの儀以来、兄貴の姿を前より思い出せるようになっていた。

 あの事件の日のことはまだモヤがかかって思い出せないこともあるが、兄貴が高等妖魔を倒した時の姿は鮮明に思い出せる。


 夾也は木刀を鞘から引き抜いた。

 目を閉じ兄貴の動きをイメージし、目を開け、3度素振りをする。


「夾也ー」


 夾也の方へ義朝が駆けよってきた。


「たまたま見てたんだけどさー、夾也の今の動きすごいな。俺でも見るのがやっとなくらい速く木刀を振れてたぜ。しかもそれを次元刀のサポートなしにやるとは」

「本当か……自分では集中していたせいかよく分からなかったけど」

「そうなのか……まっ、がんばれよ」

「おう!」


※※※

――もう一つの視点。


 義朝は夾也から離れながら。


「……気のせいだよな」

 

 と、独り言を呟いた。

 なぜなら義朝にはさっき夾也が木刀で素振りをした時、夾也の紋章が一瞬反応して輝いたように見えたからだ。

 しかし次元刀や妖魔にしか反応することはないと教わった紋章が、木刀に反応して輝くことなんて……あるはずない。

 義朝は首を振り無理やり自分を納得させた。


※※※

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