叔父から聞いた話

ITSUMONO

第1話 告白

 私にはどういうわけか軍人だった知り合いや親類が多いのですが、何人もの人から印象的な話を聞いてきました。


 通っていた大学の英語の先生は特攻隊の出撃できなかった生き残りの人だったし、民事訴訟法の先生は海軍の通信兵だった。


 父方の祖父の兄は日中戦争時に奉天辺りで何か分けの分らない仕事をしていたらしい、位牌は読めない字のものがどういうわけか送られてきたらしい。


 そんな人達との出会いの中でもとりわけ印象的な話は遠縁の叔父との会話だった。



 陸軍のかなりえらい位の階級(すいません具体的な階級は忘れました)

で一個中隊の隊長だったそうで、とても優秀な人で学生時代の通信簿を見せてもらったが、甲乙ばかりでした。


 叔父は戦争が終わって直ぐに警察予備隊の部隊長として誘われたが断り農業に従事していました。


 夏のある日、私は叔父にどうしてその仕事をしなかったのかと尋ねたのです。


 叔父はつぶやくように言ったのを鮮明に覚えています。


「手を洗ってるんだよ、ずっと……」


叔父の顔から汗が落ちたのを覚えています。


「戦争も終わりの頃になると、二等兵も隊長も関係なくなってくる、普通隊長が白兵戦に参加なんてあり得ない、それが日常茶飯事、指揮官が直接戦闘に参加して死んだら、部隊の指揮が無くなって全滅なんだよ……」


叔父の目は赤くなり、ゆっくりと続けます。


「それで、一日やっと終わり、風呂に入れる時がある。軍服を脱いだ後、赤くなった士官用の手袋を脱いで、手を洗っても手が赤いままでとれないんだよ、で……ぱっと目が覚める、気付くと自宅のトイレの洗面所で手を洗ってるわけだ、夜中の2時か3時辺りに……もう何十年も前なのに、もう忘れたいのに……」



すいません、この話にオチはありません。実話なんで。失礼しました。

また一切政治的な意図はありませんので、あしからず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る