悪魔VS悪魔?

 遺跡のある山岳地帯は背の高い木は生えておらず、前世の知識で言えば山羊とかが生活していそうな崖や岩肌が露出する山々が連なっている。

 なので、足元に注意しながら登らないと下手をすればそのまま下に真っ逆様に落ちてしまう。幸いなのは、俺やランドドラゴンの子供が並んでも余裕で通れるくらい道幅が広い事かな。

 まぁ、危ないから並んでは歩いていないけど。ここの事を知っているこの子が先頭で、俺と俺に乗っているアルレシアは後ろを歩いている。

 そんな時に、ちょっと先の方から何かが争っている音が聞こえてくる。

 ランドドラゴンが住んでいるくらいなのだから、他にも魔物がいて当然だ。もしかしたら、魔物同士で争っているのかもしれない。

 念の為に、とこの子を下がらせて俺とアルレシアが先頭に立って慎重に前へと進んでいく。

 で、進んだ先では確かに争いはあった。

 けど、それは魔物同士の争いじゃなかった。


「あれって、あくまだよね?」

「だな。悪魔だな」


 丁度角に隠れる形で俺とアルレシアが顔を出し、遠くで争っている奴等を観察する。

 黒い翼を持つ人型の奴等……悪魔が争っていたのだ。

 それも、悪魔同士で、だ。

 何で悪魔同士で争っているのか分からない。悪魔って仲間なんじゃないの?

 因みに一対一ではなく、一対五だ。

 四対の翼を持つ女性の悪魔は同じく四対の翼を持つ男性の悪魔と二対の翼を持つ悪魔四体と相対し、肉弾戦をしたり魔法合戦をしている。

 女性の方は立ち回りが上手く、接近戦で二体を相手取りながら遠距離から攻撃してくる悪魔三体を魔法で牽制している。

 動きに無駄がなく、的確に相手の攻撃を捌き体力の消費を最小限に止めているあたり、多人数相手の戦闘に慣れているのだろう。

 対する悪魔五人は四対の悪魔と二対の悪魔が接近戦を挑み、残りの二対三体が闇魔法の魔法弾を放っている。

 連携はまるで取れていないけど、数の暴力をこれでもかと利用して有利に立ち回ろうとしている。普通の相手だったらそれで勝負は着くと思うけど、今相手している女性の悪魔の実力は五体の悪魔より上だ。実力差がある為、攻めきれずにいる。

 だが、それも時間の問題だろう。

 一見すれば、一人だけで戦っている四対の翼を持つ女性悪魔が優勢に見える。

 いくら体力の消費を最小限に抑えていても、いずれは限界を迎える。魔法を扱う為には魔力も必要だし、魔力も無限にある訳じゃない。

 このままの状態が続けば、一人で戦っている四対の女性悪魔が負けるだろう。

 争ってる理由は以前分からないけど、まぁどうでもいいか。

 俺としては、このまま悪魔達が仲違いを繰り広げて貰った方がいい。流石に四対の翼を持つ悪魔相手は苦戦するだろうから、少しでも相手が消耗した状態で戦いを仕掛けた方がいい。

 それも、不意打ちをすれば戦況を有利に進める事が出来る。

 幸い、こちらはアルレシアが転移出来るので挟み撃ちにする形で不意討ちが出来る。

 一人だけの方が生き残ればそのまま挟み撃ち、五体の方が勝ったら即行で二対の悪魔どもを殲滅してから四対の悪魔を倒しに掛かる。

 うん、それで行こう。


「とりあえず、どっちかがかったらふいうちでいっきにたおそう」

「だな。じゃあオレは転移であっちの方に行くから挟み撃ちでな」

「うん」


 どうやら、アルレシアも挟み撃ちによる不意討ちを考えていたようだ。

 四対の女性悪魔は接近戦を挑んでいた二対の悪魔の首を刎ねる。相対する者が一人減った事により意識をもう少し割けるようになったのか、魔法弾の威力が上がる。

 魔法弾の威力が上がった事により、二対の悪魔の魔法弾では太刀打ち出来なくなり、一体、また一体と魔法弾の連撃を喰らい爆ぜて行った。

 二対の悪魔を全て倒し、同じ四対とのタイマン勝負にまで持って行ったが、やはり消耗は大きかったみたいだ。息が荒く、肩を上下させている。相手も息は上がっているが僅かだ。

 このまま行けば、一人で頑張っていた女性の負けで終わるだろう。

 ランドドラゴンの子供にはここで待機しているように伝え、俺とアルレシアは何時でも飛び出せるようにしておく。

 一撃、また一撃と体力がなくなった四対の女性悪魔に拳がめり込んでいく。


「がっはぁ……っ!」


 殴られた衝撃で翼から羽根が抜け落ち、血反吐を吐き、片方の瞼が腫れて視界も悪くなっている。それでも、四対の悪魔は倒れずに相対する悪魔に鋭い眼光を向ける。


「……あれ?」


 と、ここでちょっと疑問が生じた。


「どうした?」

「あのさ、あくまのつばさってはねないよね?」

「あぁ。あいつらの翼は蝙蝠みたいな皮膜だ。……あん? そういやあの女悪魔の翼から羽根が落ちてんな。あと、よく見りゃ牙も生えてねぇじゃんか」


 遠くで戦っているのを見ていたから、悪魔同士の戦いだと思っていた。

 けど、実際は違うんじゃないかと言う疑惑が発生した。

 悪魔なら羽根が抜け落ちないし、牙も鋭い。けど、女性は黒い羽根が抜け落ちてるし、よくよく目を凝らして見れば牙も生えていない。


「どういうこと?」

「いや、オレに訊かれても……」


 分からずに疑問符を浮かべる俺とアルレシア。その間も、女性の悪魔? へと四対の翼を持つ悪魔が殴るけるの暴行を加える。

 そして、強烈な蹴りが女性の腹に命中し、軽く宙を舞ってそのまま地面に落下。からだをしこたま打ち付け、女性は動かなくなった。

 四対の悪魔は止めを刺そうと女性の方へと近寄ろうとしたが、何を思ったのかその場に踏みとどまった。

 代わりに、これでもかと魔法弾を連射し始めた。

 正直言ってオーバーキルだよねこれ。

 結局女性が悪魔なのかそうでないのかの答えが出ないまま、四対の悪魔の勝利に終わった。

 なので、俺とアルレシアは頭の中に浮かんでいた疑問を振り払い、土煙の上がる方面を見て、勝利したと確信して油断している悪魔へと不意討ちを仕掛ける事にした。


「行くぞ」

「うん」


 俺とアルレシアは同時に動く。

 俺はそのまま角から出て四対の悪魔へと突進する。

 突如現れた俺に驚いた悪魔は一度距離を取ろうとその場を飛びずさる。しかし、その先には丁度転移したアルレシアがおり、悪魔の後頭部目掛けてきつい一撃をお見舞いした。

 身体がよろめいた隙に、俺はどてっ腹目掛けて角を突き刺す。

 角は深々と悪魔に突き刺さったが、悪魔は俺の鼻先を掴んで無理矢理に角を引き抜いて距離を取る。

 悪魔を千切っては投げをしていたアルレシアの不意打ちと俺の突進をもってしても、その二撃では倒せなかったのは流石四対と言った所か。

 それでも、決して軽くはないダメージを与える事は出来た。これなら、四対の翼を持つ悪魔相手でも勝てるだろう。

 油断せず、相手の出方を窺う俺とアルレシア。距離を取った悪魔もまた、俺とアルレシアを決して視界から外さないようにしている。

 緊張した空気が辺りを包み込む。

 そんな空気を壊したのは、俺とアルレシアではない。まして、相対する悪魔でもないし、待機しているランドドラゴンの子供でもない。

 土煙を払いながら一筋の光が走り、それが悪魔の胸を貫いた。

 すると、悪魔は光に包まれて分解されて行ったではないか。

 光が走った方へと、俺とアルレシアは顔を向ける。

 そこには、先程の魔法弾で消滅したと思っていた女性が、全身血みどろになりながらも荒い息をしていた姿があった。

 翼の羽は痛々しい程に抜け落ちており、まるで背中から骨を生やしているだけに見えてしまう程だ。そして、咳き込むように何度も血反吐を吐いている。

 そんな女性の手には弓が一つ握られていた。血に塗れる事も無く、純白の輝きを保ったそれは羽根の意匠がこらされており、時間と共に端から光となって消えて行く。


「……天使の弓?」

「え、てんし?」


 女性の握っている弓を見て、アルレシアはぽつりと呟く。


「あぁ。オレも書物でしか見た事ねぇけど、間違いねぇ。あの弓で放った矢は殆どの悪魔を一撃で屠れるらしい。実際、あの弓で放ったと思われる矢は四対の悪魔を屠ったしな」

「そうなんだ」

「でも、天使の弓を扱えるのは天使だけだ。天使は純白の翼を携えている筈。でも、こいつの翼は純白じゃない……って事はこいつ、堕天使か」

「だてんし?」

「あぁ。何かしらの理由で天界……天使の住まう場所から追放された天使の事でな、追放される際に天使としての誇りがなくなるらしい。その誇りってのはどの書物にも載ってなかったが、まさか翼の色だったとはな……っと」


 弓が完全に消えると、女性は力尽きたのかその場に崩れ落ちる。アルレシアは咄嗟に女性を支える。

 俺は慌てて女性へと駆け寄る。まだ息はあるが、それも酷く弱々しい。このまま放置すれば死んでしまうのは確かだ。


「どうする?」

「助けるさ。どんな理由で天界から追放されたか分かんねぇが、悪魔と戦ってたんだしな」

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