地底湖を見ようと……


 旅を初めてはや二ヶ月も経った。

 今の所これと言ったトラブルに見舞われる事も無く、順調に歩を進める事が出来ている。

 途中で寄ったフィアスコールでは五年前に突然瓦解したという森の中の廃墟が観光スポットになっていたのでそちらに赴いた。

 何でも、瓦礫がかなり遠くまで吹っ飛ぶ程の大崩壊を遂げた後の廃墟では、何故か膨大な魔力が溢れるようになったとか。

 で、その魔力の溢れる空間にいると腰痛や疲労が和らぐそうなので、度々街の人も定期的に走っている馬車に乗って訪れているとか。

 俺とアルレシアもその廃墟で暫く時間を潰したら、心なしか足に蓄積されていた疲労が和らいだ。まぁ、最初からそこまで疲れていた訳じゃなかったからあんまり実感しなかった。

 その実感のなさは、魔力が感知出来ないってのも関係あると思う。

 普通の人――俺はトリケラトプスだけど――は自身の中に流れる魔力しか感じる事が出来ない。なので、外に満ちている魔力や他人の魔力は感知出来ない。

 しかし、例外として威圧目的に敢えて魔力を解放している場合はそれを本能で感じ取る事が出来るらしい。

 あと、生まれた時から自分以外の魔力を感知出来る人も僅かに存在するらしい。そう言った人は魔法の扱いにも長ける傾向にあるとか。

 【魔力共有】出来るアルレシアも他人の魔力は感知出来ない。箱庭の森で他人の魔力を感知出来たのはフォールさんとアオダくんだけ。それだけ魔力感知出来る人は少ないのだ。

 街の人曰く、ぎっくり腰が僅か数時間で完治する程に効果があるらしい。

 そんな癒しのスポットは人だけではなく、周りに住む動物達にも効力を発揮するそうだ。なので、野生動物達の憩いの場ともなっていた。

 ただし、魔物だけは近寄る事が出来ないようになっているそうだ。魔物が廃墟に侵入しようとしたら弾かれて彼方へと吹っ飛んで行った様を見た人がいた。ここの魔力がある種の結界としての役割を果たしている可能性がある……とかでそう言った研究をしている学者さんもよく来るとか。

 そんな不思議スポットに立ち寄り、食料を買い込んでフェアスコールを後にした。一応お金はアルレシアが偽名で冒険者登録をしていたので、途中で倒した魔物の素材を冒険者ギルドで売り払って得たものを消費した。

 ……異世界って、やっぱり冒険者制度ってあるんだなぁ。と思った瞬間だった。

 因みに、アルレシアはアルアと言う名で登録しており、冒険者ランクはCだそうだ。ランクは一番低いのがFで、一番高いのがSだそうだ。けど、Sランクは片手で数えるくらいしかいないらしく、実質Aランクが一番上の認識になっている。

 そして、Aランクになると冒険者ギルドのギルド長から二つ名が授けられるそうだ。その二つ名は当人の得意とするものや見た目の印象によってつけられるそうだ。

 フィアスコールでは五年前に冒険者となって二ヶ月経たずにAランクになった二人には『剛力魔人』と『魔麗剣姫』という二つ名がつけられたらしい。一人は拳一つでどんな魔物も打ち倒し、一人は華麗に魔法と剣技を操る様から名付けられたとか。

 残念ながらその二人は五年前に街を去っていたのでお前に掛かる事はなかった。今は遠くの国にいるとかいないとか。

 あと、冒険者ギルドではアルレシアが王族であると認識されていない。理由は冒険者カードには偽名のアルアと知りされているのもあるけど、変装してるからってのもある。

 旅に出る日、アルレシアは俺の首につけられている魔法道具と同じ効果を持つ腕輪を身に着けた。それにより、他人からは特徴的な水色の髪はくすんだ茶髪に、翡翠色の眼は黄土色へと変化し、頬にはそばかすが浮き出ているように見えている。

 一見すればアルレシアとは思うまい。あと、分かる人が見れば一発でばれるオロアドスの霊石のイヤリングは流石に道中では一目ではそれとばれないように一回り大きな薄い金属のカバーで覆う事によって隠している。

 そう言う訳で、不慮の事故とかでもない限り身バレする心配はないので、ある程度は気を楽にして旅をする事が出来ている。

 もし王族ライド未知なる生物を隠さずに旅をしていればもう注目の的で、下手すれば連れ去られる危険もある。いやはや、幻影魔法様様だよ。

 フィアスコールを離れて次に向かったのはスノウィンと言う街。そこは温泉で有名で、肩凝りや便秘の解消、あと美肌効果があるらしく、それ故か女性が多く歩いてたな。

 俺もペット同伴可の温泉に浸かって一息吐いた。じんわりと身体の芯から温まる感覚は久しぶりで、とても懐かしい気持ちになった。

 アルレシアも温泉が気に入ったのか、スノウィンには一週間くらい滞在した。まさか、卓球や浴衣もこの世界に存在してるとは思わなかった。絶対日本から来た奴が広めただろこれ。

 もしかしたら、他に日本からこの世界に来た人が広めたものがまだまだあるかもしれない。それは多分、この旅の中でいくらか目にする事になる気がする。

 さて、スノウィンを出た俺とアルレシアは次にレイファルと言う街によって、そこで一泊してから少し遠くに聳える山へと向かった。

 その山にはアルレシア曰く立ち寄るに相応しい光景が待っているそうだ。

 山の中腹に存在する洞穴。そこを進んで行けばぽっかりと開いた場所に出るそうだ。で、そこには広大な地底湖が存在するらしい。して、その地底湖はある時間になると上に開いた穴から太陽の光が差し込み、水面を照らすそうだ。

 そして、地底湖の透明度はかなりのものらしく、上から見ても底が綺麗に澄んで見える程だとか。

 差し込む太陽の光は地底湖の底まで届き、まるで光の柱が舞い降りたかのような光景が映し出されるそうだ。

 それはぜひとも見て見たい物だという事で、現在俺はアルレシアを乗せて頑張って山を登っていた。

 けど、今は立ち止まって茫然としている。

 それは何故か?

 理由は簡単。地底湖へと繋がるであろう洞穴の真ん前に、一匹のドラゴンが立ち塞がっているからだ。

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