サリナちゃん

 サリナちゃんは、比較的おとなしい女の子。勉強がバツグンにできるし、手の掛からない子。


 でも実は、地味に緊張する相手なのよね。うちの学校の保健の先生、サリナちゃんママなんだ。受け持ってる子の保護者が同じ職場にいるってさぁ……これだからミニマム小学校は……。


 サリナちゃんにはおねえちゃんがいる。でも、島には来ていない。本土の女子校の寮で暮らしてるんだって。サリナちゃん自身も、中学校に上がるときには寮に入るらしい。


 うちの県には、島がたくさんある。あたしみたいに、離島が主たる勤務地になっちゃった場合、教員は次の学校に移るときはたいてい、島を移ることになる。子どもたちも、もちろん一緒に。


 サリナちゃんママである保健の先生が、事情を教えてくれた。


「島から出たときに勉強や環境について行けるか、子ども次第なのよ。サリナは大丈夫。でも、あの子の姉は無理だと思った。だから、かわいそうだけど本土に置いてきたの」


 サリナちゃん自身も、あたしに言ったことがある。


「タカハシ先生も、いつか結婚して子どもが生まれるやろ? そしたら、タカハシ先生の子どもは、転校ばっかりになるとよ」

「サリナちゃんは、転校したことあるんだっけ?」

「二年生になるときに、ここの学校に来たと」

「転校、寂しかった?」

「ちょっとだけ」


 サリナちゃんのおとうさんは、この島の中学校の先生。やっぱりねーって感じ。教員って、学校の中しか出会いがないよね。教員同士の夫婦だったら、転勤先を配慮してもらえるって聞くし。


 地元の漁師さんと出会っちゃってもね。自分が転勤族だって思ったら、本気で踏み切れないよね。


 で。頭をよぎるのは、マツモト先生の存在。職員室で唯一の独身男性、しかも二十代。無駄に条件が揃ってるのよね。やめてよぉ……。


「ねえ、タカハシ先生。リホちゃんが言いよったけど、マツモト先生と付き合っとると?」

「ないない」

「うちのおかあさんも、お似合いって言いよるよ?」

「ないないない!」


 “サリナちゃんはいつも丁寧に勉強に取り組んでいます。二学期は、学習発表会でも積極的に前に出てほしいと思います”

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