4-4. 寂寥

 ファーストフード店に着いたとき、まだ中は混雑していなかった。

 俺たちは近くにあった席を確保して、カウンターで注文して受け取り、席に着いてハンバーガーを頬張っていた。

 俺はてりやきバーガーを食べていて、葵はフィッシュバーガーを食べていた。


「これが食べ終わるころは、ちょうど開演する時間だろうな」

「ちょうどいい時間帯だったのかも知れないね」


 ハンバーガーを食べ終わると、葵は立ち上がり、


「ちょっとお手洗い行ってくるね」


 と、行って店内の奥へ行ってしまった。


「ふぅ……」


 俺は緊張が少しほぐれ、肩の力を抜く。それから首を回す。

 ――さて、葵が戻ってくるまで暇だ。

 まだ飲みかけであるドリンクを飲みながら、外を眺めていると、目の前に見たことのある人物がいた。

 ――花音に優里、それに武彦!?

 花音と優里はまだしも、そこに武彦が入っていた。

 武彦は、至ってシンプルな服装で、ジーパンにTシャツであり、首にカメラをかけている。

 二人の態度を見て推測すると、たまたま出会ってしまって、困っている状態なのだろうか。

 武彦は嬉しそうに会話をしているが、花音と優里は苦笑いをしながらそれを聞いているように見える。

 すると、優里は俺が見ていることに気づき、右目でウインクをしてきた。

 ――つまり、助けてくれっていうことか?

 まぁ、お安い御用だが。

 携帯でこの現場を写真に納めて、ある奴らにメールで送ってやった。

 数分後、そこに二人組の男子――クラスの男子――が来て、武彦を取り押さえて、連れ去ってしまった。

 花音と優里は憐れむ目をしながら、その去っていくのを見ていた。

 ――ご愁傷様、武彦。お前の骨は一本ぐらいは拾ってやるから。

 その光景を眺めた直後、葵が戻ってきた。


「ご、ごめんね、ちょっと待たせちゃったかな?」

「いいや、別に構わないよ」

「そう?」

「おう、それじゃ行くか」


 俺は葵の分のトレーを持って、ゴミを分別して捨てる。


「あ、ありがとう」

「いいよ、さぁ、行こうか」

「う、うん」


 俺は葵と一緒に店を出て、映画館へと向かった。


   ◇


 チケットを受付の人に渡して半券を貰い、中に入場する。

 中はコメディ、しかも子ども向けもあってか、家族連れが多く、賑やかだった。


「このくらい雰囲気が明るいほうが落ち着くよね」


 葵が笑いながら、そんなことを言う。


「確かに、そうだよな」

「普通のところって、みんなシーンとしていて、しゃべっている人が浮いちゃう感じでしょ? でもこんな感じだったらこんな感じにひそひそと話せるからね」

「でも、上映中はマナーを守れよっていうのが、親が子どもに躾なきゃいけないところだぞ?」

「それもそうね」


 そんな話をしながら、自分たちの席を見つけて座る。

 俺はあたりを見渡すと、奥のほうにサングラスとかけている優里と、帽子をかぶっている花音を見つける。

 どうやら、俺たちより先に中に入ったらしい。後から入ってきて、見つかると大変だからな。

 その後、この映画楽しみだよね、とか、子供たち元気だよね、とかそういう話も一切なしに、映画が始まるまで、お互い話をしなかった。

 そうして、映画が始まった。

 内容は、ホント馬鹿げた話で、戦争に駆り出されたリス兵が、戦車に向かって直進して、見事に打たれ、隊長であるうさぎ隊長が、リス兵の代わりに、自分があの戦車を倒す、と言い始め、そのために努力していくといった内容であった。

 その行き先にあたり、うさぎ隊長は他の隊員たちに馬鹿にされ、隊長としての資格も失われ、それでもうさぎ隊長は自分の意志を、リス兵の敵を打つべく、一生懸命に努力して、戦車に打ち勝つという内容であった。

 その映画の最中は、みんなが腹を抱えて笑っていた。

 後ろから爆笑をしていた女子の笑い声が一番大きかった。

 そんな中、葵は笑ってはいたものの、少し寂しいそうな感じがした。

 俺はそれが気になり、俺と葵の席の間に手をおいて、映画ではよくあるようなシチュエーションを作ってみたものの、それにも反応せず、映画を見ていた。

 ――どうしたんだ、葵のやつ?

 体調を崩したのだろうか、それとも、何かあったのか?

 そんな兆しがあっただろうか?

 俺はそんなことを考えながら、映画を見終わった。


「おもしろかったね、遥くん」

「あ、あぁ、そうだな」


 葵が俺に笑いかけてくる。

 ――別に心配するほどではなかったか。

 俺と葵は外に出て、少し歩いたところで立ち止まった。


「さて、これからどこか行くか? 時間あるけど?」

「そうだね……、少し歩こっか」

「ん? いいけど、どこに向かうんだ?」

「うーん、それじゃ、川の堤防のところに行こうよ、確かまだあそこだったら桜が咲いているような気がしたから」

「そっか、それじゃ行くか」

「うん」


 俺たちは街から川までの距離を、二人並んで、歩いていった。

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