第4話 魔法スポーツ

「おはよ」


「おっ、時間通りだね」


「じゃあ、いつものやりますか」


 僕はパン、ファルアの使い魔をやっている。ファルアはスポーツ魔法が得意でそれを極めようと日々頑張っているんだ。

 今朝も朝の5時前に起きてトレーニングの準備さ。この時間に起きている事からも分かる通り彼女は夜は早くに眠っている。

 昨夜も21時にはもう布団に入っていた。だからこの時間に起きても目覚めスッキリなのさ。


 ファルアはこの時間に起きるとすぐにトレーニングウェアに着替えて日課のトレーニングに励むんだ。もちろん僕も付き合うよ。

 彼女が10歳の時に僕は彼女の使い魔になった。その時からずっとね。


 しっかりと柔軟と基礎的な運動を終えたら今度は外出の準備をして外へ。まだ暗いけれど治安のいいこの島なら全く問題はないんだ。


「やっぱ朝のジョギングはいいねー」


「昇ってくる朝日を見なきゃ朝は始まらないね」


「さ、もう一周したら帰ろっか」


 ジョギングは軽くこの島をぐるりと1周。この島は小さいようで案外広いからそれだけでもいい運動量になる。

 段々明けていく島の美しい風景を見られるのはこの時間に走る人だけの特権さ。


 ジョギングが終わったら今度はまた軽いストレッチをして体をなじませて、次は曜日ごとのトレーニング。

 ファルアはどんなスポーツをメインに頑張るかまだ決めかねているから、ダンスから格闘技まで色んな競技の練習をしているんだ。

 そして朝食の時間までそれは続けている。彼女は体を動かすのが好きだからこの行程をいつも笑顔でこなしているよ。


「今日もお母さんのご飯美味しいー♪」


「いつものメニューがいいね」


 いつものメニューとは朝食の定番のご飯にお味噌汁に納豆。これを基本にして卵焼きや焼き魚や豚のしょうが焼きや――。

 食文化はそっくり日本式。ま、作者が日本人だからね、しょうがないね。


 今日のお味噌汁は玉ねぎわかめにじゃがいも……具沢山味噌汁。ファルアはこのお母さんの味噌汁が大好きなんだ。

 お母さんの料理を食べると朝が来たって実感するんだ。


 さて、朝食を食べて朝の支度をするファルア。いつも朝早く起きて時間があるからって朝の支度はその日の朝にしているんだ。

 朝の支度を前日にしない分早く寝ていると言う事にもなるね。


 ただ、この朝にする支度は時間との戦いという欠点もあるんだよね。あんまりゆっくりしていると、どんどん登校の時間が迫ってくる。

 宿題なんかも朝にするので、結構焦っていい加減になる事も多かった。


 今日もまた時間に余裕があったのが逆効果になってしまって、時計を確認するともう全く余裕のないところまで時間が進んでいた。ファルアは急いで準備を終わらせて何の確認もせずに自分の部屋を出たんだ。


「行ってきまーす!」


 母親にそう言って玄関で靴を履くファルア。彼女が今まさに家から出ようとドアに手をかけた時に奥から声が聞こえてきた。


「ちょと待って、忘れ物!」


 母がファルアの忘れ物に気付いて持ってきた。どうやら今日授業で必要だった道具を忘れて出かけようとしていたらしい。


「あ……」


「準備してて忘れるんだもん」


「てへ」


 忘れ物のやりとりで2人で笑い合う。これでファルアは後悔せずに済んだ。

 さすが母親は子供の事をしっかり把握してるね。


 改めて忘れ物がないか、自己確認してファルアは家を出た。今度こそ忘れ物はない――はず。少し遅れたのでファルアは小走りに学校を目指す。

 でもそれがファルアにとって良いトレーニングにもなっていた。うん、なんでもポジティブに考えるのはいい事だね!


 そうして急いでいると彼女の目の前に見慣れた人影を発見。ファルアは躊躇なくその人影に元気に朝の挨拶をする。


「よーお2人さん!おはようさーん!」


 そう、それは幼い頃からの幼なじみのマールとゆん。2人とは家の通りが同じ事もあって朝は合流する事が多い。

 この朝の挨拶は彼女達にとってお約束の日常茶飯事なんだ。ファルアの家が一番学校から遠いからいつも2人にマールが合流する形になる。


「おはよ……朝からテンション高い……」


「今日も元気いっぱいだね」


「にししし♪元気は私のとりえです♪」


 マールは朝寝坊型なので、いつも朝はテンションが低い。彼女が朝から元気な姿は最近は全然見た事がなかった。

 さすがに5~6歳の頃はマールもファルアと同じくらい朝から元気だったけどね。


 そしてアイドルを目指すゆんはファルアと同じく超朝型。朝の登校の時点でしっかりと普段通りのテンションだった。

 ファルアはいつも通りの2人を見て、安心していつもの様に笑って返事をしていた。


 そして3人は学校に着いて授業が始まる訳だけど、特に面白くもないからカットするね。そのままお昼まで時間を進めて話を再開しますよ。


「おーかわりっ♪」


「ファルア、おかわり3回め……」


「だってまだまだ入るんだもん♪」


 スポーツ少女のファルアはよく食べる。食べる食べる。どんどん食べる。食べても体を動かすから脂肪にはならずに筋肉になる。体重の心配なんてしなくていいんだな。


 あ、そこの君!羨ましいと思ってる?運動をすれば少しくらいの食べ過ぎなんて何の問題もないよ!


 そんな訳で健康優良児の昼食風景でした。お昼開けの次の授業はファルアの大好きな体育の時間!

 彼女はお約束のように普通の授業はそんなに得意ではないけど、その分体育の授業では目が生き生きしているんだ。


「おおっ!今日も記録更新だっ!」


 先生がファルアの記録に驚いてる。この結果に当の彼女も大満足。それを見ていた他の生徒達もファルアの成績にそれぞれに感想を漏らした。


「正直すごいわ……」


「自分の武器を生かしてるよね」


 さて、そんな楽しい授業もあっと言う間に終わりまた普通の授業へ。そこから先も特に面白くもないので時間を一気に放課後へと飛ばしますよ。


「さぁて、部活頑張るぞい!」


 スポーツ少女のファルアの所属する部活は陸上部。

 でも助っ人を頼まれればどんな運動部の部活にも顔を出すんだ。

 陸上部は大会も近付いていて、彼女もいつも以上に練習に精を出しているよ。


「頑張ってねー」


「大会、期待してるよっ!」


「まっかせなさーい!」


 マールとゆんに応援されて部活に行くファルア。ここからは別行動なので2人とはここでお別れ。

 下校していく2人を逆に見送ってから彼女は部室へと向かった。


 ファルアは部室で運動着に着替えて運動場に向かう。そこでは同じ陸上部員がもう既に集まっている。

 別に遅刻はしていないので何も問題はないんだけどね。


「お願いしまっす!」


 運動場に出たファルアは元気よく先輩方に挨拶をする。先輩達も元気なファルアの事を気に入っているんだ。

 先輩方の笑顔に会釈しながらファルアは自分の持ち場に入った。陸上部でも一日にする事は大体決まっているよ。

 特別な指示でもない限りは、そのメニューをこなすのが日課となるんだね。


「たりゃあー!」


 まず彼女は得意の短距離を走り込む。体を動かして流れる汗がキラキラと光るよね。

 頑張っているファルアを見て先輩のひとりが声をかける。


「うん、いい調子ね」


「あざっす!」


 こんな感じでファルアの部活動は過ぎていくんだ。部活では体力が残っていたら勿体ないっていう風で徹底的に体を鍛え抜く。

 そのファルアの全力な態度はいつしか陸上部の規範とされるほどだったよ。

 やがて周りが暗くなって来て今日の陸上部の活動もお開きとなった。


 部活を終えて一人で帰る帰り道。別に部員に仲の良い子がいない訳でもなかったけど、帰り道が一緒になる子がいなくて、いつも帰り道はひとりだったんだ。

 それでもファルアは特に淋しいとは思っていなかいよ。鍛錬代わりに走って帰れば、いつもあっと言う間に家に着いたからね。


「ふぃ~」


 ボスッ!


 家に帰ったファルアは部屋に入るなりベッドに倒れ込む。よっぽど体力を使い切ったんだろうね、かなりのお疲れモードになっているよ。

 でもここで甘やかしたら僕がここにいる意味ないよね!


「こらっ!帰ってすぐに寝ない!」


「分かってるよぉ~。厳しいなパンは」


 僕の注意にファルアは恨めしそうな顔をする。僕だって好きできつい事を言っているんじゃないんだ。

 多分、分かってくれていると思うけど――。


「みんなファルアのためなんだから!」


「ふぇ~い」


 僕の言葉に納得したのかファルアはしぶしぶ机に座り直す。たまには勉強でもするのかなって思って見ていたら、夕食のお誘いの声が聞こえてきた。

 その声にファルアは敏感に反応する。ま、体動かしたらお腹すいちゃうよね、やっぱ。彼女は一目散に台所に走っていっちゃった。


「今晩もご飯が美味しいねぇ」


「大会、いい結果出せそう?」


「もちのろんだよ!」


 夕食時の話題はやっぱり彼女の部活の事。お母さんもファルアの活躍が楽しみなんだなぁ。彼女の話すどんな話もニコニコして聞いているよ。


「そ、応援行くね♪」


「楽しみにしててね♡」


 ご飯も食べて、色々やらなくちゃいけない事を済ましたらもう寝る時間。普通の中学生ならまだこれからが一日の本番の時間帯かも知れないけど、いつも早朝に起きて活動するファルアにとってはもうすっかり深夜の時間帯だよ。

 僕はまだ起きていようとするファルアを無理矢理にでも寝かしつける。僕も辛いけどこれはファルアの為なんだ。


「明日も早いんだからもう寝るよ」


「うー。もうちょっとだけ……」


「我侭言わない!起こしてあげないよ!」


「分かったよぉ……じゃあ、おやすみ……」


 こうしてファルアの一日は終わるんだ。彼女の一日は終わるのは早いけど朝も早いからね。プラスマイナスゼロ、そう言う風に調整しているよ。

 全ては彼女の夢を叶えるため!

 まだまだ先は長いけど、一歩一歩着実に前に進んでいる。僕もファルアが夢を叶えるその日までしっかり彼女をサポートするんだ!

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