不運、もとい幸運?

 今回特待生に選ばれたのは、アイドルが5ユニット、バンドが2バンド。

 これだけ見れば何の変哲もない。例年と同じくらいだ。

 異常なのはプロデューサーの数。

 なんと私一人らしい。

 特待生になった、というお知らせと、そのメンバーが記された手紙が送られてきたときは、驚きを通り越して呆れた。


 いや、無理でしょ?

 君色学院がこんなとんでもないブラック企業だなんて知らなかったよ…?

 この学院のプロデュース科の生徒、どんだけ仕事あると思ってんですか。

 だいたい一回のライブに一ユニット、一バンドしか担当しないプロデュース科の一般生でもかなり大変だ。

 なのに一般生とは桁違いの仕事が舞い込んでくる特待生に、プロデューサーが一人だと…?


 絶対的評価だからこんなことになるんだよ、相対的評価でいいでしょ、とずっと思ってきた文句をぶちまける。

 与えられた以上仕事は全うする。でもこれはさすがにしんどい。一応先生方も全力でサポートしてくれるらしいが、仕事の量は想像するだけで胃が痛む。学生にしてこれほど仕事に追いつめられるとは…。


 そして、私の不運はそれだけじゃなかった。

 何と私以外、教師人含め特待生は全員男だという。


 この学院には、男子校だったころの名残か男子生徒が圧倒的に多い。私がいたプロデュース科は殆どが女子だったけれど、アイドル科やバンド科にはほぼ男子しかいないそうだ。

 さっきコミュニケーション能力はついたといったけど、だから積極的に話したいかと聞かれればそうではないし、周りが全部男はちょっときつい。

 せめてあと一人女子がいればなあ。

 柄じゃないが神様にでも祈りたい。

 いやポジティブに考えよう私。イケメンに囲まれてキャッキャウフフな生活ができると考えれば――いや、あんまりそういう逆ハー状態好きじゃないんだよな。

 漫画やゲームでも、そういう設定の物には「ケッ」とか思う私なのだ。

 どちらかというと一人に尽くし、尽くされたい感じだし。

 それに多分イケメンより仕事に囲まれるだろう。


 今年の特待生は、先ほど言ったように計7グループ。

 特待生の枠はアイドル、バンド問わず最高10枠と決まっているから、特待生が締め切られる8月までにあと3組は増えるかもしれない。

 選ばれなかった者は、来年やこれからのライブに向けて猛特訓する。三年生には、アイドルやバンドになる道を諦め、ほかの科またはほかの学校に移籍する人もいる。特待生になれなかったということはつまり、トップアイドル、バンドへの道は閉ざされたということなのだ。

 だが、プロデューサーは枠が限られていないから、学校側が認めれば何人でも特待生になれる。

 そう、もしかしたら夏までにあと何人かプロデューサーが増えるかも。

 さあ、だれか特待生になって!私の負担を減らして!!女子で!!

 両手を上に向けて広げようとした瞬間。


「おっ、つばさだ!やっほー!」


 背後から声が掛かった。上げかけた手を慌てて下す。特待生になって早速、変人などという噂が立ってはたまらない。

 が、それは杞憂に終わった。


 声をかけたのは、火蛹かさなぎみがくだった。


 その後ろには、七基ななきはる仁科にしなアキ、枇々木ひびき天也てんや――火蛹くんの所属するユニット『PHENIXフェニックス』のメンバーがそろっていた。

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