勇者患者

Tsumitake

第1話 搬送

「素晴らしいな!この患者!」


 結構な興奮具合で叫ぶ医師の声で意識が戻った。

ガラガラと鳴る車輪の音と全身に響く揺れでストレッチャーで運ばれているのだとわかる。

確か家で風呂上りにのぼせて、部屋に上がろうとする最中に階段から落ちたんだったか。


「丁度、長瀬さんが退院してしまうタイミングで搬入されてきてくれるとは!天の救いだな!」


 さっきの医師と反対側を走る医師の発言。先程から医師達のセリフがおかしい。

患者が来ることをえらく喜んでいるのは、経営が傾いてる病院なのか?

でもその割に廊下は長いし、薄く開けた視界から見える限りでは23時に倒れた以上、確実に深夜なのに、明かりが途切れることなく続いている。

それに、ストレッチャーの四方を囲むのは全て医師。この時間にこれだけ医師が居るという事は結構な大病院のはず。

珍しい病気で来たわけでもないし、手と足の指を動かそうとしてみたら、普通に動いた。もし検査入院することになっても金になるとは思えない。


「これから当分は安泰ですな!簡単に退院させないよう頑張りましょう!」


 ストレッチャーを押しながら走っている医師から発された声に、は?と目を見開きたいのだが、何故か瞼がうまく開かない。


「何の病状と言う事にするかが問題ですな!」


 と応じる最初の医師。


「そこは僕にお任せください。」


 そう言ったのは足元で先頭を走る、癖のある黒髪の他に比べて比較的若い眼鏡の医師。下の方向は瞼を持ち上げられなくてもそこそこ見えるから、彼だけ容姿が確認できる。


「確実に長期入院にしてみせますよ。」


 絶対おかしいだろ!この病院!

天パ男のドヤ顔に向かって心の中で叫んだ後、また意識が遠くなり、視界が真っ暗になった。

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