第12話 組長会議


「さあ、準備はできた?」


 飛葉さんの言葉に少し自信なさげに頷く。。

 今僕たちは組長会議に参加するため、学校の三階にある会議室前の廊下に若頭の若田部君と参謀の飛葉さんと共に来ている。


 三階は全クラスが共通の施設があり、授業で使う実習部屋や、食堂なども三階だ。そしてこれから行われる組長会議も三階の会議室で行われる。


「まあ、どうこうするわけじゃねぇ、気楽にいけや」


 若田部君が軽く僕の背中を叩く。

 確かにわかってはいるけどやはり不安は拭えない、今日ここに集まるのは組のトップ達。


 ここに来るということは皆に顔を知られるということ、つまり僕の言動や行動次第で狙われやすくなるということだ。少しでも弱みを見せれば付け込まれる。


 現に争いもしていた九条君達もいる。そんな人達との対面に緊張するなと言われても無理だ。

 僕は無理やり覚悟を決めゆっくりとドアに手を出す。


 扉がガラガラと音をたて開くと、目の前にはは四つの長机が正方形に並べられており、それぞれのクラスの人たちが向かい合わせで座っていた。

 開けた瞬間にわかるほどの殺伐とした雰囲気に僕は部屋に入ることを躊躇ってしまう。

 クラス同士が向き合うように座っているせいか、常ににらみ合っているようにも思える。


「あーあ、嫌な面子が揃ったもんだ。早くD組に帰りたいぜ」

「どいつもこいつもピリピリしよって……」

「おい、化け猫女、さっきから隣のデブのお菓子を食う音がうるさいから黙らせろよ。」

「んだと、うさ耳野郎、てめぇんとこの奴ら全員血祭りにして孤独死させてやろうか?」


 所々から聞こえる喧騒に戸惑っている僕に対し一人の女子が手招きをしている。


「四辻はんの席はここどすえ」


手招きをしていたのはA組の組長の本馬桜さんだ。

僕はそれに従い、近くの空いた席に三人で座る。


「おはようさんどす、学校にはもう慣れはりました?」

「あ、うん、ボチボチかな……」

「まあ、いきなりこんな所へ来て慣れろなんて大変どすもんなぁ」

「ちょ、ちょっと、なに仲良く話してんのよ?」

「え?」


本馬さんとたわいもない話をしている僕に嫌な顔をする。


「えっと普通に会話をしているだけだけど」

「だから、なんで会話なんてしてんのよ!」

「駄目なの?」

「ダメっていうか……」

「駄目なんどすか?」


僕の質問に言葉が詰まった飛葉さんだったが、本馬さんが話すと飛葉さんが凄い形相で本馬さんを睨む。


「随分馴れ馴れしいわね、本場桜。」

「馴れ馴れしいなんて、そんなけったいな言い方せんでも、ここにいる人たちは血の気の多い人らばっかやから、温厚そうな四辻はんが組長のB組と仲良くしようかなぁと思っているだけどす」

「どの口が言うか……」


本場さんはそれに対し余裕の笑みで答える。


「あら、血の気が多いのはあなたもでしょう?」


僕たちの会話に向かい側の机に座っている、女子が入って来る。F組の参謀である御堂澄香だ。


「前の全面抗争で八人病院送りにしておいて、今更、なに温厚ぶってるんだか」

「いややわぁ、うちかてやりたくてやったわけやないで、うちは組長命令に従っただけやで?」

「言われたからって簡単にできるものじゃないでしょ?」

「あ、あのう……澄香さん……あんまり他のクラスに絡むのは……」


 御堂さんと本馬さんが対立している中、どこからともなく、頼り気のない声が聞こえてきた。

 そちらに視線を向けると声の主は御堂さんの隣に座る、オドオドとした男子だった。

 御堂さんがその男子を横目で睨む。


「……フン、まあいいさ、あんたもその女には気をつけな、なにせB組の五人を病院送りにしたのはそこの着物女だからね」


そういうと彼女は顔を横に向ける隣の男子がこちらにペコペコと頭を下げている。


「あいつは、現F組組長新島翼だ、位の高さで、成り上がった奴だ、今じゃ御堂たちの傀儡だぜ。」


――傀儡……ね……


「まあ、そういうことでこいつは私たちの敵でもあるの!あんまり仲良くしちゃだめよ!」


まるで友達を選べという母親のような口調で飛葉さんが言う。

それを横で聞いていた本馬さんは少し残念そうな顔をした。


 僕たちのやりとりが終わると同時に朝のチャイムが鳴り響いた。

 その瞬間、部屋の騒音はピタリと止まった。このメンバーで初めての協調と言っていいだろう。

 暫く沈黙が続くとドアの向こう側から二度ほどドアを叩く音が聞こえ、扉が開く。


 中に入ってきたのは、真っ黒なスーツを来て無精髭を生やし髪をオールバックに固めた40代くらいの男性だった。

 その風格、風貌からこの人が誰なのかがわかる。

 間違いなく、本職の人だろう。

 その男性は辺りを見回し僕を見つけると少し微笑んだあと、この部屋の上座の席へ向かった。


「どうやら、全員揃っているようだな、じゃあこれより臨時の組長会議を行う!」


その言葉と同時に全員が同時に立ち上がり頭を下げる。僕も少し遅れつつもそれに合わせて頭を下げた。

皆の挨拶を見たあと男性は満足そうに頷いた。


「今日は臨時会議と言うことで集まってもらったが、理由は他でもない。B組にこの学校始まって以来初めて堅気の人間が、しかもいきなり組長に就任すると言うことで、一度顔合わせをしておこうと言うことだ。」


男はそう言うと僕の方に顔を向けた。


「君が四辻君だね簡単に挨拶してもらおうか」

「は、はい!」


 見た目通りの渋い声に少しキョどってしまうが、言われた通りに自己紹介を始める。

 B組の時では失敗したけど今度はしっかり言おう言うことを頭の中で


「え……と、B組の組長になりました四辻誠です、宜しくお願いします。」


そういった後、深く礼をする


――やった、今度は上手く言えた。


 上手くできたことに少し満足感に満たされたが、肝心の周りの反応はいまいちだった。


「なんだよ、普通だな、つまんねー、」


 静かな部屋に一人の男性の声が響く

 男子の言葉にさっまでの満足感は消え、何故か恥ずかしさと後悔に襲われる。


「大丈夫、普通でいいのよ」

「あの野郎……うちの組長に恥かかせやがって。」


飛葉さんのフォローに少し収まりながらもそのまま席に座る。


「ふむ、四辻誠君だね、宜しく頼むよ、私はこの学校の教頭という立場をやらせてもらっている、紅蓮会大幹部真田組で若頭を務めている真田仁だ。」


 紅蓮会大幹部……しかも、子供とかじゃなく本物のヤクザの大物……

わかってはいたが改めて言われるとゾッとする。

本来なら自分が出会うことのない人だ。


「じゃあ今度はここにいる皆に挨拶してもらおうか。じゃあA組から順に」


 そういうと本馬さんが静かに立ち上がりはい、と答えると僕に向けて挨拶をしてくる。


「これで二度目にますが改めまして、紅蓮会幹部の本馬桜どす」


本馬さんが軽く会釈をして挨拶をすると今度は左右に座る二人の女子が挨拶をする。


「初めまして、私わたくし、A組の若頭を務めさせてもらっている、紅蓮会幹部、望月組がの長女、望月明あかりですわ」


 そう言って、お嬢様のような口調と挨拶をしてきたのはツインテールにロールの入った髪型の少し小柄な少女だ。その姿勢には口調にはなにやら華やかさがある。


 そして次に挨拶をしてきたのは綺麗な金髪の中性的な顔立ちで少し性別を迷ってしまう容姿の人だ。ただどちらでも美形である


「……A組の参謀を務めてる、本馬組所属、近藤アリサだ、宜しく。」


 クールな口調とその凛々しい姿勢に少し迷ってしまうが高い声と名前からしておそらく女性……そして他の人の髪とは違う綺麗な金髪からハーフとも思われる。


「うちらはA組は、女性が中心となった組になっているさかい、どうか穏便にさせてもらいますぇ」


 そう言って会釈をして座る。隣からは何が穏便よ!と愚痴が小さくこぼれている。


 そして次に視点を隣にずらしてみる。そこに座るのはもう、顔なじみの人物たちだ。もうすでに隣から異様な殺気を感じてしまう。九条君もそれを感じたのか何やらクククと笑いだした。


「私達の紹介はいるかわかりませんが一応しておきます、C組組長、紅蓮会幹部、九条組の九条匠です」

「同じく、C組若頭、紅蓮会幹部の宇佐美の宇佐美美衣だよ、これからも何かと縁がありそうだしよろしくね♪」


そう言ってあざとい笑顔で挨拶をする彼女、だがそれはこちらへの宣戦布告と言えるだろう。

再び異様な殺気にに包まれると宇佐美さんの隣から呆れるような、大きなため息が聞こえた。そしてこの空気を潰すように自己紹介を始める。


「C組、参謀、紅蓮会中部組織飯島組の、飯島悠斗だ、組長の九条家と飯島家は親子の盃を交わしる間柄だ。宇佐美にはあまり過激なことはさせないようにするつもりだ。よろしく頼む。」


 飯島君の紹介に宇佐美さんから小さく舌打ちが聞こえた。

 そしてその状況を楽しんでるかのように九条君がクククと笑う。


「二学期早々『そちら』が原因で一悶着ありましたが、四辻君の『全裸の土下座』により、水に流しましたので、これからは仲良くしていきたいですねぇ。」


 九条君の悪意のある言葉に隣の若田部君が限界に来ている。僕らはすぐに次の組に視線を向ける


 次の組は 熊切君のD組だ。

 熊切君の横にいるのは、先ほど僕にヤジを飛ばしてきた、赤髪のトサカのような髪形をした厳つい男子とそれとは正反対の七三分けにインテリ眼鏡を付けた冷静そうな男子が座っている。


「C組組長、紅蓮会大幹部の家を持つ熊切大輔だ。さっきはうちの奴が余計な茶々を入れてすまなかった。」


そういうと熊切君は頭を下げる。


「先ほどはどーもー、Dの若頭の紅蓮会幹部、菊川史郎だ。言っておくが俺の紹介も普通だ、相手に文句は言うが俺はいい、そういう性格だ。」

「クソですね」

「んだと⁉」


 菊川君が声の発した方を睨む、言葉を発したのは意外にも同じクラスであるはずの男子だった。

「参謀を務めさせてもらっています紅蓮会幹部、浅田組の浅田登園です、隣の彼とは違って、いたって普通の性格ですから、ご安心を」

「なんだてめぇ、さっきからケンカ売ってんのか?」

「事実を言ってるだけですよ。」

「んだとコラぁ!」

「お前らいい加減にしろ!ここをどこだと思ってる、揉めるならクラス内でやれ!」


熊切君の言葉でヒートアップした二人は我に返ったように言い争いをやめた。

そして熊切君は再び頭を下げた。


――やっぱりカッコいい……


僕の机の組が終わり、そして今度は向かい合わせの机を見る、順番的に行くと次が最強と謳われるE組だ

だが、そこの人達はヤクザとはかけ離れた姿をしていた。


ボリボリ……


 真ん中に座るのはひたすらポテチを食べ続けている巨漢の男子。そして隣にはそれに仕えるように隣でニコニコと笑顔を振りまいている猫耳を付けたメイドだった。

 真ん中の男子はひたすらポテチを食べている。


「ったく、いつまで食ってんだよあのデブは」

「すみません、ただ今ご主人様はお菓子を食べるのに忙しいようなので、代わりに私がご説明しますね。あとそこのうさ耳、後で殺すからな。」


 そう言うとメイドの少女は自分たちの自己紹介を始める。


「この方は、紅蓮会大幹部であり、現会長、紅蓮司様が率いている組、紅組の構成員の息子の最上勝也様でございます。そして私目が現在若頭お勤めさせていただいてる、この方のメイドであり、下僕であり、婚約者でもある紅蓮会幹部、片山組の次女、片山羊です。」


片山と名乗った女性が自慢げに主を紹介する。


――紅組……


確か今A、B、E、Fのクラスの組長は抗争で停学になった組長の代わりという話だったはず。

ならE組の前の組長は……


「そして次にこちらにいるのが……屑です。」


その言葉に一瞬空気が凍り付く。


「屑じゃねーよ、ゴミだよ!」


――……違いが判らない。


この人の中では屑とゴミの間に細かい階級でもあるのだろうか?


「すみません、私の中では屑もゴミも一緒なのであなたのこだわりは理解できません」


――同感だ。


「てめぇ……わざとと言ってんだろ……五味だよ、紅蓮会幹部、参謀の五味敦ごみあつし、そういう名字だからな、あだ名とか虐めじゃないから」

「名前はゴミであだ名が屑でお願いしますね。」


――めちゃくちゃだ。


そして次がF組になる4

「初めましてF組の組長新島翼です……えっと……堅気の人が来るとは聞いていたけど一体どんな怖い人が来るのかと思っちゃったよ。なんだか君とは仲良くなれそうだ。」


そう言って新島君がオドオドしながら挨拶をする。


「私は若頭の御堂組の御堂澄香、こいつがどう言おうが、仲良くなれるなんて思わないことだね。」


 彼女がそう言って態度をとると新島君がこちらに向かってまたぺこぺこと頭を下げていた。


「所属組はありませんが、紅蓮会のヒットマンとして活動中の父を持つ香取霧江です。今はF組の参謀をやっていますが、人が足りないならお金次第ではB組に移ってもいいですよ。」


 お下げ髪の眼鏡少女は澄ました顔でとんでもない発言をしていた。


「そんなこと言っていいの?」

「いいんです。元々そういう契約ですから、ただ、まだ前組長、北神組長と交わした契約期間終わらないのですぐには移籍できませんが」

「ちなみに値段ってどれくらい……」

「役職や雇用期間で見積もりを取ってですね……」

「……香取よ、悪いがそういう話はあとにしてくれ」


 理事長がわざとらしい咳ばらいをすると香取さんはどこから取り出したそろばんをしまう。


そして次はG組になる。G組はかなり危険だと聞いていたがもう見た目からして他の人より柄が悪い。

リーゼントとサングラスといういかにも悪そうな


「フフフ、G組組長沖原大河だ……よろしく頼むよ。」


 九条君とはまた違う不気味な笑い声をあげると今度はその隣から豪快な笑い声がする。


「わしは若頭の平松じゃ、怪我したくなかったら近づかんことやな」


 腕を組みながら威圧的な紹介をしたスキンヘッドの男が再び豪快に笑った。

そしてそんな威圧的な人たちが続いた中、三人目は今度は近藤さんと逆の中性的な小柄の男子だった。


「藤沢渚です……よく間違えられるけど僕は男だから」


 やはりよく間違えられているのか、確かに男性というより女性に近い気がする。

 服装は学ランで髪も短めだけどそれでもどことない違和感を感じる。


そして最後はH組。そこの真ん中に座っているのはここに来てからずっと目を瞑りっぱなしの女子だった。

その女子は目を瞑っているのにも関わらず、僕の方へと顔を向ける。


「私達で最後になりますね、私はH組組長の紅蓮会幹部、三神組組長の長女、三神伊久江です。実は私、盲目で目が見えておりません。まあ、別に盲目だからって手加減する必要はありませんよ?やる気ならば是非」


そう言うと三神さんはしっかりと僕へ語りかけた。


「佐山だよ?。とりあえず伊久ねぇに手を出したら殺すから?、まあよろしく?」


 この場で最も小柄な女子が僕に指さしながら警告する所々になぜか疑問形になっているのはそういう口調なのだろうか?。


「私で最後だな。私はH謀の速水だ……名前は必要ないだろ。言っておくがうちの組長が盲目だからと言って侮るなよ?例え組長は使えなくても他の組員は精鋭ぞろいだもし来るなら挑むと言い。」


 額に鉢巻を巻いたポニーテールをした女子の速水さんはそう言って僕に竹刀を向ける。


「速水さん、それはつまり私は役立たずと?」

「あ、そいや、ういうわけでは……」


 言ってることはそういうことだよ。

 H組の三人もかなり好戦的なようだ、だが不思議と危険は感じなかった。



 全員が一通りが話し終わると改めて理事長が皆を呼び掛けた。


「とりあえず全員自己紹介は終わったようだな。では改めてようこそ紅学園へ。話は倉田から聞いている、前の学校ではいろいろあったらしいがここでは関係ない、この先どうなるかは君次第だ、精々立派な組長として励んでくれたまえ。ではこれにて解散。」


その言葉と共に皆が一斉に席を立つ。僕らもそれに合わせてクラスへと戻る。


「どうだった?」

「うん、確かに少し恐かったけど、いろいろわかった事もあったし良かったかな。」

「やっぱ、一番危険なのはC組っぽいな、他はあまり興味持ってなかった感じだな。」

「そうね、今日で他クラスにも動きがあるかもしれないし。とりあえず夜会議だね。」


 若田部君と飛葉さんが意見を交換する中、僕は違うことを考えてた。


――違う、C組じゃない。今一番危険視するべきなのは……


僕ら戦いが幕を開けた。

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