012

 翌朝、ぼくらはディズニーランドを練り歩いた。


 アトラクションもいくらかのルーティンを保って回り続けていたけれど、ジェットコースターなんかは乗ってしまったら固定レバーを自力で上げられる気がしなかったから、乗る気にはなかなかなれなかったもんで、穏やかなものばかりを巡っていたように思う。


 だからこそ、ディズニーランドだったんだな。ディズニーシーは絶叫マシンの類いが多すぎて、回れたもんじゃないからね。


 しかし、それでも、まぁ。

 人のいない遊園地ってのも、悪いもんじゃなかったよ。


 都市と同じで遊園地ってのも人がいなくなるだけじゃ廃墟同然にはなりやしなかったんだな。


 ぼくは廃遊園地の画像を見るのがたまらなく好きなんだけど、これはこれで独特なよさがあってよかったよ。


 純粋にアトラクションは乗り放題なわけだからね。


 そう、例えばプーさんのハニーハントってのがあってさ。


 出発時に乗る機械がいくつかあるわけなんだけど、その番号によって移動経路が変わってね。

 何度か、機械を乗り換えつつ乗ってみたんだけど、ものによってはハチミツの香りのする大砲を撃たれたり撃たれなかったりするんだな。


 そんな些細な発見もちょっとばかし楽しくてさ。

 知ってる人間が溢れてるようやな物事だって、今このときはぼくら二人しか知ってる人間がいないんだ。


 そもそも、ぼくら二人しか人間がいないんだからね。


 でも、ぼくもアカリも隠れミッキーの類いを見つけることはなかったな。


 ちょっとした心残りといってもいいかもしれない。



 人の消えた遊園地の良いところは他にもあってね。食べ物はそこらの屋台には既製品が置いてあったりするものだから、食べるものには困りゃしないんだよな。

 むしろ食べ歩きして楽しんでたくらいだった。


 だから、そう。内装くらいしか見るものはなかったんだけど、ぼくらは不思議の国のアリスのレストランに入ったんだ。


 これが普通の世界ってんなら普通の食事をして出てきたんだろうけどさ、ぼくらの世界には人がいないもんだから、注文するにもできなくてさ。

 十分ほど休みがてら、外の世界より随分と高い自販機で買ってきた飲み物を飲みながら座ってたんだ。

 肝心の内装はすごくおもしろかったな。席に座ってみるとそうでもないんたけど、見回してみるとカラフルの暴力みたいな内装だった。


 外の景色だってもう随分と暗い時間になっていたから、明かりがイルミネーションばりにカラフルだったけれど、室内のカラフルさってのはなんだかそれはそれで独特の閉塞感みたいなものがあるんだな。


 見てるぶんにはおもしろいけれど、住めって言われたらぼくなら三日で音を上げるね。


 そんなアリスのレストランも十分ほどで出たんだ。


 そのときだった。


 レストランから出てみると、世界は、様変わりしてたんだ。


 いや、正確に言うなら、様変わりってんじゃないな。


 単純に、世界は光を失っていたんだよ。


 後ろを振り替えると、レストランも光を失った後だった。


 世界は、完全に暗闇に沈んだんだ。

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