(8)何もない日

 夕食後、お茶とお茶受けの配膳をしながら、テーブルでノートパソコンを開いているみづきさんに話し掛ける。

「今日は一日、特に何もなかったね」

 どちらかというと沈黙がいやで発しただけの言葉。

 ぼくとしてはそれこそ同意しか意図していなかったのだけど。

「なあ、仙太郎。ニュースサイトを見てみろ。世のなかは今日もたくさんの出来事であふれているぞ」

 手を止めてみづきさんを見る。と、ほとんど同時にこちらを見上げたみづきさんの視線とかちあった。

 も、もしかして怒ってる?――そんな不安をよそに、淡々とした表情のままにみづきさんは口を開く。

「何もない日という言い方はあまり好きではない。そんな日は実際ないのだからな。お前の周囲がただ何もなかったというだけで」


 ぼくは今日も平和だった。

 ――みづきさんがどうだったのかは訊かなかったからわからないのだけれども。

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