第六話 部下達が酷いので!

「おい、ガスト様が勇者を倒したってマジか?」

「んなわけねーだろ。考えてもみろ、あのガスト様だぞ」

「そうそう、四天王最弱なんだから勝てるわけねぇって」

「来たぞ、ガスト様だ」


 うん、大きな声で悪口は良くないと思うなあ俺は。

 それはともかく、俺はちゃんと勇者を倒したことを、なんとか部下達に信じてもらいたかった。


「ガスト様、勇者を倒したってのは本当ですか?」

「一体どうやって倒したんですか?」


 部下達の質問に答えなければいけないが、嘘は良くないからから、正直に倒した方法を教える。


「走ったんだ」

「は?」

「何言ってんだ、こいつ」


 ちょっと、本人目の前にして、こいつはないんじゃないかな!?

 しかし一体どうしたら信じてもらえるんだろうか。

 事実走って勝ったんだから他に言いようがない。


「あの、攻撃方法を聞いてるんですが……?」

「ああ、だからボロボロになっても走ったんだ」


 部下達は顔を見合わせている。

 これだけ言っても、信じてもらえないのは悲しいなぁ。


 部下達と話していると、廊下の奥から新米部下達が歩いてきた。

 彼等は俺の姿を見て駆け寄ってくる。


「ガスト様!」

「おお、もう怪我の方は良いのか?」

「はい、この通り皆ピンピンしてます!」

「それはよかった」


 新米部下達の怪我もすっかり治ったようでほっとした。


「ガスト様達は、次の勇者討伐の作戦会議中ですか?」

「いやいや、先日の戦闘について話していたんだ」

「あの時のガスト様は本当にかっこよかったです!」


 新米部下達がうんうんと頷いて盛り上がっった。

 先輩部下は信じられないような――実際信じてないんだが――表情で新米部下達の話を聞いている。


「あれだけの攻撃を食らっても倒れず最後まで、勇者に立ち向かう姿には感動しました!」

「再生能力も我々のような者とは違いましたし、その名の通りまさに四天王、不死のガスト様でした!」

「自分はガスト様の部署に、配属されたことが誇りであります!」


 ちょ、ちょっと待って。そんなに褒められると照れてしまう。

 しかし俺があの戦いで得たものは、勝利だけじゃなくて、素晴らしい部下達も得れたんだなぁ。

 俺にとってあの戦いは、今までの自分を変えるための、第一歩だったに違いない! これからもっと活躍してこの部下達を勝利へと導くぞー!


「お前等はまだガスト様の弱さを知らない」

「このお方は本当にダメなんだ」

「ガスト様の部署よりもフローネ様の部署の方が良いぞ」


 って、ちょっと待って! せっかくこれから、もっとがんばろうって決意したのに、俺の心はいきなりズタボロだよ!

 やっと俺を、信じてくれる部下達に巡り合えたんだからさ。そこはもう少し「俺もガスト様を信じてみようかな」とか「その戦いを見たかったぜ」とかあるでしょ!?


 そりゃ今まではダメだった。同じ勇者達に三回も負けたし、他の作戦でも全然活躍してなくて四天王なのに俺は一体……と、自分を何度も責めたりもしたよ。


「おい、ガスト様が廊下の隅でしゃがみ込んでいるぞ!」

「やべぇ、さすがに言い過ぎだったか!?」

「見なかったことにしよう、行くぞ!」


 俺がぎぎぎと首を動かして振り向くと、先輩部下達は廊下を走っていった。


「ガスト様、先輩達の言葉を気にしてはいけません!」

「そうです! 我々はガスト様の立派なお姿を見たのですから!」

「我々はガスト様についてきます!」


 本当に良い奴だな君達は。

 そうだ、くよくよしていても仕方ない。

 もっと活躍すれば他の皆も認めてくれるはずだ!


「ありがとう、元気が出てきたよ」

「それは良かったです」

「そういえば、君達の名前をまだ聞いてなかったね」


 俺はあの日木の陰に隠れていた人狼に尋ねる。

 彼はびしっと背筋を伸ばす。


「はっ、ポッコと申します!」

「ポッコか、君達は?」


 残り四名のモンスターにも聞くと、ポッコと同じように敬礼して名乗っていく。

 彼等のおかげで気を失っていた俺は助かったのだ。もしいなかったら今頃人間達に捕虜にされていたに違いない。


 俺はこれからも、彼等に守ってもらうことになるんだろうなぁ。

 しかしただ守られるだけじゃダメだ。彼等を引っ張っていく立派なリーダーにならないと!


 そうだ、彼等を中心とした部隊を作ろう!

 俺を置いて勝手に帰る部下達よりも彼等に任せた方が安心だ!


「決めたぞ!」

「何をでしょうか?」

「君達を中心とした部隊を編成する。リーダーはポッコ、君だ」

「なっ!? しかし先輩達を差し置いてそんなことは……」

「四天王命令だ」


 これ一度言ってみたかったんだよね!

 始めは戸惑っていたポッコ達だったが、次第に彼等の中にも小さな炎が灯りだす。お互いに顔を見合わせて彼等は頷いてくれた。

 そして全員が敬礼し代表のポッコが宣言する。


「ありがたき幸せ! このポッコ必ずやガスト様のお役に立ってみせます! やるぞお前等、俺達で最強の部隊を作り上げるんだ!」

「おおおおおお!」


 熱い! なんて熱いんだ!

 彼等の胸の中の火が、俺の心をも燃やしてくる!

 何かが変わる。そんな予感がするぞ!


「じゃあ、集めれる兵を集めて訓練をしてやってくれ。実際に人間達と戦った君達ならできる!」

「はっ!」


 ポッコ達は俺に一礼すると早速行動を開始した。

 俺も一緒に行った方が良いからついて行こうとしたが、オトラシオから招集がかかる。


「四天王は至急会議室に集合ー」


 何かあったんだろうか?

 とにかく部下達のことは、ポッコ達に任せて俺は会議室へ急いだ。

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