魔王②


 「こーじとまんまはボクがまもるだーーーーーーーーーーーーーー!!」



 小脇に抱えた尻が叫ぶと同時に、地面に落下を続けていた俺達の体がまるで時を止めたみたいにピタッと空中に静止する!

  

 

 あぶなっ! 


 地面まで後、2m無っ!



 安堵しようとしたのもつかの間、空中に静止していた俺たちは時が動き出したように落下した!



 

 「ぐえっつ!?」



 

 一瞬早く地面に叩きつけられると同時に、ガリィちゃん、コッカスが俺の真上に振ってくる!



 「って、ちょっ! ストップ! ぎゃああああああ!!」

  

 

 俺は咄嗟にコードモードを展開して、大気の流れを逆流させて迫り来る裸体と巨大鶏を吹き飛ばす!



 「まんまぁ!」


 「げっ! しまった!」


 

 咄嗟の事に力の加減が出来なかったが、流石と言うべきかガリィちゃんは空中で体勢と整え音もなく地面に着地しコッカスも片方の羽をばたつかせ何とか着地した。



 「あーびっくりしたー!」


 「ガリィちゃん! 大丈夫か!?」


 

 ガリィちゃんに駆け寄ろうとした俺の眼前すれすれを白銀の閃光が風を切った!



 「うを"っ!?」


 「コージ! 赤ちゃっ!!」



 蹴躓いた俺に駆け寄ろうとしたガリィちゃんに向って、どこからとも無く無数の白銀の閃光が集まる!



 「ガリィちゃん!」


 

 ガリィちゃんは、俺の心配をよそに凄まじい数の閃光を巧みにかわしていく…あ、そうだよなガリィちゃんは狂戦士、その潜在能力は世界を滅ぼせるレベルだった…うん。


 かといって、この状況を放置出来るほど俺は_______。



 立ち上がろうとした俺の首筋に金属の音と、ヒヤリとした感触が触れる。



 「やっと、捕まえたよ…化け物め」


 今にも怒り狂うのを必死に押さえてるような声の主は、俺の首すじにぐっとそれを押し当てた。



 「あは♪ 姉御、ゲキ怒って感じ~♪…」


 「死にたいか!」

 

 カランカが更に押し付けた切先が、ぷつっと薄皮に沈んで血を流す。



 「おおうっ! 切れてる! 切れてる! やばしっやばしっ!! ヘイプミーw」


 「アンタって奴はっ!」



 ふざけた悪態をつく様に、カランカは盛大な溜め息をつき俺の首筋から剣を離した。




 「それは、勇者かい?」


 「ああ、可愛いだろ?」


 長身の頭上から俺と小脇に抱えたもちもちの尻を見下したカランカは、もう一度溜め息をつく。



 「安心しなガラリア、何もしない」



 いつの間に回り込んだのか、背後から首筋にバチバチと稲妻を纏わせた手とうを突きつけ呻り声を上げるガリィちゃんにカランカは優しく言う。


 その表情はまるで離れて暮らしてた妹に向けるような穏やかなものだ。


 

 「へぇ~見逃してくれんの?」


 「…アンタが何者であれ、あの人が信じガラリアを託した…アタシに出来るのはこのくらいしかない…」



 そう言うと、カランカは肩にかけていたレンブランのリユックを俺によこした。



 「急ぎな…もう直ぐ怒り狂った精霊どもがくる、リーフベルやメイヤが足止めしてるけど数が多くてね…長くは持たない」


 

 俺は、リュックを拾いガリィちゃんをカランカの背後から下がらせる。



 「…じゃ、俺らは______」


 「……まってっ…!」



 背を向けた俺たちに、まるで搾り出すようなカランカの声。



 何となく、何が言いたいのか俺にはわかった。



 俺は、ガリィちゃんに赤ん坊とリュックを渡して立ち尽くすカランカに歩み寄る。



 「ぁぁ…!」


 見上げた俺の顔。


 カランカは涙をながしながらそっと俺の顔、正確には左目の目蓋に触れた。



 「レンブラン…! アタシ、アタシは…!」


 

 レンブランのライトグリーンに染まった俺の左目。


 それは、賜った知識と力の証であり剣士カランカが愛してた賢者の目。


 赤茶の瞳は、もう会えない愛しい人の名前を呼ぶ。


 

 「『泣かないで。 悪いのは全部ボクだ、君が苦しむ事なんてない』」



 不意について出た俺の言葉に、カランカが目を見開く。



 「『好きになちゃダメなのに、何度も何度も君を騙して傷つけた…コレはきっと罰なんだ』」


 「れん…ぶらん…?」


 「『…だからボクの事は忘れて君の信じる道を生きてほしい』」



 コレは、レンブランが伝える事の出来なかった愛しい者への伝言。


 全てを思い出した赤茶の瞳は、まっぱの青年を抱きしめてもう会えない愛しい人の名前を叫んだ。



◆◆◆




 空を舞う巨大鶏。



 レンブランの摩訶不思議リュックから取り出した工具でなんとかコッカスの翼を修理した俺は、ガリィちゃんと5歳児並に大きくなった赤ん坊とその背に乗のって大空の下絶賛ヌーディストビーチだ!



 うん。



 全裸。



 みんなですればエロくない!



 むしろ、ガリィちゃんの全裸はデフォル…げふんげふん!




 「…にしてもまぁ…」



 眼下に広がる大地を目の当たりにした俺は、壮大な溜め息をついて頭を抱える。



 「こりゃ酷ぇ…精霊の皆さんがぶちキレるのも仕方ねぇな…」



 ガリィちゃんは俺が精霊の国を半分吹き飛ばしたと言ったが、コレは少し違うな…。


 此処に来た時に見た豊かな深緑の森が広がっていた大地は、一言で言うなら死んでいた。



 確かに、枯れ果てた森や地形を変えるほどに地層が隆起しているけれどそれだけじゃない…感じないんだ、生き物の気配を。



 …俺は右目を覆い左目だけで大地を見下ろす。



 ブツ切れて霞んだ記憶にかすかに残る数字の羅列が、俺があの時何をしようとしたのかを回答する。



 ラグナロクコード。



 何なんだアレは…あんなものレンブランの記憶にも無い。


 しかし、アレが発動すればどんな結果を招くか俺は『知っている』。



 コッカスの背から見渡す荒廃した大地を写すコードモードはいつものとうり1と0羅列でずべてを見渡し、俺の予想がハズレで無い事を突きつけた。



 「コージ!」


 「こーじぃ!」

 

 

 洩れた感情を拾ったのか背後から飛びついてきたプニプニとぽよぽよの感触が、痛いくらいに俺を抱きすくめる。



 「こーじ! こーじは、まんまとぼくたすけるのがんばった 泣くのめっ! こーじなくのぼくぼく…」


 「コージ…ごめんなさい! ガリィがちゃんとしてれば…」



 ガリィちゃんと五歳児は背中しがみ付いて俺の代わりにぴぃぴぃ泣き出した。


 …久しぶりにレンブランの記憶に深く潜った所為か、胸が締め付けられそうなくらいの愛おしさが込上げて俺は二人を抱きしめて頭を撫でてやる。



 もう少し…もう少しだ…。



 俺は比嘉の言葉を思い出す。



 『お前は魔王に会わなければならない』



 魔王に会えば、答えがわかる…!



 ガリィちゃんも、赤ん坊も、きっと救える…!


 そして、比嘉や霧香さんだって…!



 「まんま、こーじ、げんきでてきた?」


 「うん! そうだね、赤ちゃん!」


 腕の中で二人が顔を見合わせてから俺を見上げ、鼻をすすりながらニコニコ笑う。



 「…もう大丈夫だ、ありがとな二人とも」



 …ああ、そうだ!


 こんな所じゃ止まってらんねぇんだよ…!



 「つー訳で、待たせたな!」


 俺は二人を抱き寄せたまま、視線の先に無造作に置かれたレンブランのリユックの上に座る精霊を見据えた。



 精霊レヴィ。


 精霊の国の王であった光の精霊獣を救って欲しいと俺に頼んできた。


 …そして、俺は救えなかった。



 「チビチビ…!」



 俺は、パリッっと静電気を帯び始めたガリィちゃんの髪を撫で付けて収める。



 「止めろ、こんな所で雷撃出したらコッカスが落ちるし、かと言ってアレには物理攻撃の意味は無い」


 大方、どさくさに紛れてレンブランのリュックに侵入していたんであろうレヴィはそのトンボのような透き通った6枚の羽を軽く震わせる。



 『…救エト言ッタ筈ダ』



 レヴィは唇をきつく噛み、銀色の目が鋭く俺と赤ん坊を睨む。


 

 「で? 俺達を殺しにでも来たのか?」


 『…』



 俺とレヴィのやり取りに脅えたような表情を浮べた赤ん坊が、ぎゅっとしがみ付く。



 「ごめんなさい…ぼく…ぼく…」

   

 

 震えだした小さな体をレヴィから隠すように抱きなおして、涙を浮べる瞳から溢れる前にそっと指でふき取ってやる。

  


 「コージ…コイツ…変だ!」

 

 そんな様子を背にガリィちゃんが、いまにも飛び掛りそうなくらい髪の毛を逆立たせレヴィに向って牙をむき出す。


 ああ…流石が狂戦士…いや、獣人の感か…。



 レンブランのリュックの上に静かに佇む精霊は、警戒を露にする獣人など無視してただジッと俺と赤ん坊を見据える。



 「俺が着いたときには手遅れだった…可哀想ではあったけど、ああでもしなけりゃお前の王は自分の力で国の全てを滅ぼしていたさ」



 俺の言葉に、レヴィは更に唇を噛み口元にじわりと赤いシミを浮かばせた。


 「…確かに俺はお前の王を救えなったが、半分は守ったはずだ…」


 『…! 何ヲ! 王ヲ死ナセ、大陸ヲコンナ有様ニシテ! 何ガ______』

 


 「メイヤは無事だ、それだけでも精霊達にはお釣りがくるだろう?」



 レヴィの目が見開かれ、息を呑む。


 「精霊の一族…かつて、精霊と外界が交流をもった遥か昔に精霊と多種族の交配によって生まれた『亜種』…メイヤはその血を引いてる」


 俺の左目が、変色しているんだろう。


 「次の精霊王はメイヤだろ?」


 レヴィは、その羽を震わせ俺を睨む…なんだよ? ばればれだろ? あんな頼み方じゃさ~。


 

 「メイヤを死なせず、精霊達も守れたなら大陸の半分くらい大目に見ろよ…なぁ?」


 『破壊者メ!』


 怒りをあらわにしたレヴィは 、俺に向かって何やら詠唱を始めたがそれはすぐに止んでしまう。


 「変なことするな! 消し炭にしちゃうぞ!」


 レヴィの背後をとったガリィちゃんが、目一杯低い声でうなる。


 『…狂戦士風情ガ…』

 

 「離れろ! ガリィちゃん!」



 ザシュ!



 「うにゃあぁ!?」



 パラッと宙に舞う金髪、ガリィちゃんは俺が叫ぶより一瞬早く何かを避けた!



 「まんまー!!」



 俺の腕の隙間から顔を出した赤ん坊が、一気に発光し抱いてられないくらいに熱くなる!



 「コケッ!? ピキャアアア??!」



 突如としておのれの背中で発生した凄まじい程の魔力と熱に、コッカスが悲鳴をあげめちゃくちゃに旋回し始めた!



 「まんま! まんまぁ!!」


 「うわっ! ちっ!」


  

 コッカスが旋回を繰り返す中、興奮した赤ん坊がめちゃくちゃに手をばたつかせて発光し俺はその火傷しそうなほど熱を帯びた体を抱え振り落とされないように羽毛に掴まる!



 「お前! 精霊なんかじゃないな…!」



 ガリィちゃんの言葉に、不敵に微笑んだレヴィの銀色の瞳が紫に染まりその体がどす黒い闇に包まれる!


 

 「まんまぁ! め! はなれてぇ!!」



 俺の腕の隙間から、少しばかり大きくなった手が突き出されその掌にとんでもない質量の魔力が一気に集中しはじめた!



 「馬鹿! やめろ! ガリィちゃんまで吹っ飛ばす気か!!」



 が、赤ん坊に俺の声など届きもせずそれは放たれようとする!



 くっ!



 こんな質量の魔力、レヴィだってただではすまないがガリィちゃんも巻き込まれるしソレ処かコッカスだって消滅するっつーの!



 

 こうなったら仕方ねぇ!



 俺は、赤ん坊を抱きしめていた腕を緩め手を振り上げ、思いっきり_______スッパーン!



 「み"ゃっっ!?」



 もちもちの尻に一撃!


 ビクンっと、仰け反った赤ん坊の掌からぷしゅんと魔力が飛散しそれと同時に体の発光と熱が一気に引いていく。



 「ふっ…うえっ…わああああああん!!!」


 

 行き成りの尻の衝撃と痛みに、赤ん坊が泣き出すとようやく旋回を繰り返していたコッカスの飛行が安定を取り戻した。



 「は~…あぶねぇ…」


 俺は、泣きじゃくる尻を撫でながら事の元凶を見据える。



 そこには、相変わらず警戒を解かないガリィちゃんとあと一人。



 当然といえば当然だが、宙にその身を制止させ俺と視線を交える。



 但しその姿は、先程と異なり憎悪に染まった紫の瞳に褐色の肌と漆黒の長い髪にその背には黒羽の翼を羽ばたかせていたけれど。



 「はっ…やーぱ、変だと思ったんだよなぁ~…」



 俺の言葉に、レヴィの眼光が鋭くなる。



 『イツカラ気ヅイテイタ…?』


 「んー…ぶっちゃけ始めっから~強いて説明すんなら、この世界の連中は得体の知れない種族である俺を恐れる…それこそ魔王の手下とか言って殺しに掛かかられるくらい信用ないのよ~そんな俺を信用して大事な王様を救ってくれって言った事とか? あと、精霊の中では最下層の『虫の羽』の命令を他の精霊がばっちり聞いてたってこともね」



 レンブランの記憶によれば、精霊は生まれもった『羽』によって階層がきまる。


 最上級は『女神の羽』と呼ばれる純白の翼。


 中層は『属性の羽』精霊の属性を象徴する色に染まった羽。


 最下層は『虫の羽』魔力の低いトンボ見たいな薄口の羽。 



 しかし、目の前にいる黒い翼の持ち主はそのどれにも当てはまらない。



 レヴィの黒い翼が震え、どす黒い魔力が集まるりそれは矢の形となって俺に向けて弓を引く。



 「コイツ!」



 俺は身構えたガリィちゃんに『動くな』と、身振りで指示し左目で掌に乗るくらい小さなレヴィを見据えた。



 くくく…あーやっぱりねー…。



 俺の推測を左目の映した1と0の羅列が肯定する。



 「ぷはは、それにしてもちっちぇなぁ~闇の精霊獣!」



 『…!』



 レヴィがつがえていた禍々しい魔力で象られた矢が、プシュンと音を立てて消滅しその目から涙が伝う。



 「コージ…闇の精霊獣って、このチビチビが!?」



 驚いたようにガリィちゃんが俺とレヴィを交互に見る。



 「ああ、俺も驚いたよ。 その姿を晒すまで核心持てなかったからな…」


 「え、でも、どうして? …こんなに魔力が強いのに…これだけ強ければコージに頼まなくてもあの大司教だって倒せたしあの子だってあんな事にならなかったじゃない!」



 ガリィちゃんの『何故』に、沈黙するレヴィに代わり俺はレンブランの記憶と左目の映す1と0の軌跡たぐり寄せた。



 「この世界を象る7属性を司る精霊獣、その中でも最も魔力が高く最強にして最悪の闇の精霊獣…だから力を抑えられていたんだろう?」



  闇の精霊獣は、その紫の瞳に憎悪と畏怖を浮かべ俺を見据え羽を震わせる。



 「抑えられてたってなに? どういう事?」



 ガリィちゃんは、レヴィから視線を逸らさず俺に問う。



 「闇の精霊獣の力は強すぎるってんで、世界の調和がどーたらで他の精霊獣達が共同で封印をかけたのさ…それこそ精霊獣の誰か一人でも生き残っていれば解ける事の無いかなり強いヤツ」



 精霊獣とは、属性を司るエネルギーが具現化し『意志』を持ったモノ。


 彼ら6属性の意志の力が封印していた最悪の精霊獣が、その死をもって解き放たれたのだ。


 

 『…ソウカ…全テヲ見通スソノ知識コソガ、アノ女神ガ恐レル『力』…』


 「あ"? どう言う意味だ?」



 俺の問いに、闇の精霊獣レヴィは眉を寄せ沈黙する。



 「コージ! コイツどうするの?」


 身構えたままのガリィちゃんが痺れを切らせたのか、『フー!』っと毛を逆立て今にも飛び掛りたい衝動を抑えこむ。


 

 ああ、獲物をお預け食らってる猫みたくてなんか可愛い…じゃなくって!



 「…つー訳で、俺、半分は約束を守った…お前は何を返してくれる? つか、魔王に会う方法以外はのーせんきゅーっす!」 


 

 グズグズと、鼻をすする赤ん坊を抱きなおす俺を紫の瞳が見据え口を開く。



 『…王ハ私ノ全テダッタ____アノ方ノイナイ世界ナドモウドウデモイイ…』



 宙に静止していた、レヴィはふわりと俺と赤ん坊の前に降り立ち膝をついて頭を垂れる。


 その姿は、さながら土下座のようだ。



 『勇者ヨ私ヲ喰ラエ』


 

 静かな、鈴を振るような声が冷たく響く。



 「あ"? なんのつもりだ?」


 『世界ノ絶望…イヤ、賢者ヨ…オ前程ノ者ナラバコノ程度事ハ見通セテイタハズダ』


 気丈に振舞う声とは裏腹に、その黒い羽の先端は小刻みに震えている。


 

 「は…確かにな、魔王の所に行けるのは完全体になった勇者とその仲間…お前をコイツに食わせればオールオッケーさ」 



 俺はひれ伏す闇の精霊獣に手を伸ばす。



 「…顔あげな」



 闇の精霊獣は、伏せていた顔をゆっくりと上げその見開いた目は既に覚悟を決めている_____は、くだらねぇ。



 俺は、愚かな決意をしたすまし顔に思いっきりでこピンを打ち込む!



 『フギャ!?』



 不意の攻撃に、闇の精霊獣はもんどりうって後ろに倒れた。 



 『…! …!!?』


 「ばっかじゃねーのーww テラワロスww」



 俺は、驚愕の表情で後ずさる闇の精霊獣の小さな鼻先から血を指でぬぐってやる。



 「俺もこの世界がどうなろうが知ったこっちゃねーし、ましてやこいつを『勇者』にするつもりもない」



 見開いた紫の瞳は一瞬何やら歓喜したが、直ぐに険しく眉間に皺をよせた。


 

 あ~言いたい事分かる、俺の中のレンブランの記憶にもあるように確かに魔王へ至るには完全体の勇者が必要らしい。


 

 が、別に俺はこの世界を救おうってんじゃないんだから『完全体の勇者』が必要なのはその一瞬で構わない…つーわけで!



 「ほい! お前今日から俺の下僕な!」



 唐突な俺の発言に闇の精霊獣は言葉を失い、ガリィちゃんが『全然意味がわかんないよ!』と頭を抱える。



 「え? わかんない?」



 『賢者ヨ、スマナイガ微塵モ意味ナド伝ワッテコナイ』



 困惑を隠せない二人に俺は思わず首をかしげた。



 あるぇ~…俺なんか難しい事言ったかな?



 「コージ! なんでチビチビを下僕にするのと、魔王の所に行くのに赤ちゃんに食べさせなくていいのかよく解んないよ!」



 「え? ガリィちゃんもマジでわかんないの?」


 

 耳をぴこぴこさせながら俺を困惑した目で見るばかりのガリィちゃんに、俺はなんで伝わらなかったのか訳がわからずうろたえてしまう。



 「ね ね、こっじ」


 肩口でさっきまでぐずっていた赤ん坊が、俺の頬をぺたぺた叩く。



 「ん? どうした?」



 「ね、こっじ…こっじのいっぱいの考えてるのお外にちゃんとしないとまんまにもわかんないの…」


 

 え?


 なんだって?



 その言葉に、俺の左目の奥が少し軋む。



 俺はこのとき初めて、自分が二人に自分の考えている事を全く説明していなかった事に気がついた!



 そして、無意識にまるで伝わるのが当然で当たり前だと思い込んでいたことに…!  



 コレは些細なことかも知れない…けれど、軋んだ目の奥にはっきりと残る違和感まるでじわじわと染み出るみたいな…。


 

 「んー! んー!」


 固まる俺の腕に抱かれていた赤ん坊が、足をばたつかせて下ろしてとせがむ。



 「あ、ほら…」


 放してやると、赤ん坊はへたり込んだままの小さな闇の精霊獣のそばまで行ってちょこんと膝をついた。



 『…!?』



 赤ん坊は、自分を睨みつける闇の精霊獣をじっとみてなんだかもじもじしてる。



 「あ、あのね、うんとね、ぼく きみを食べたくないの…食べたらね、こっじとまんまとバイバイしないといけなくなるの…だからねこっじと友達なってほしいの! そしたら、まんまみたいに食べなくてもよくなるの!」


 

 『おねがい!』と、赤ん坊はしたったらずに一生懸命に言葉をさがしながら闇の精霊獣の顔をのぞきこむ。



 その姿に、闇の精霊獣は驚愕の表情を浮かべ俺の方へ視線を移す。



 『賢者ヨ、コレハドウ言ウ事ダ…! コノ者ハ本当ニ『勇者』ナノカ…?』



 へぇ、精霊獣と言う存在はどうやら色々把握しているらしいな。



 「あ~、全部言われてるけど補足しとくわ…つまりは俺と契約してくれって事。 契約っつっても精霊契約みたいに魂がどうとか無いし痛いことも無い…少しばらしてコードをリンクさせるだけでいい」



 平たく言うと、ガリィちゃんと俺の関係をコードモードを利用してこの闇の精霊獣と擬似的に組むという感じだ。


 本来なら勇者の糧として、吸収されるべきであった狂戦士であるガリィちゃんは俺がその精神を構築しなおしたとき互を構築するコード同士が混線したのと暴走したときに使った比嘉とあの獣人の兄ちゃんとの間に使われてた濃密なコードにより深く繋がった事とが重なったことではからずも毎日の主食である俺のエネルギーと共に必要な分の狂戦士の魔力も赤ん坊に流れ込んだ。


 そのため、赤ん坊…つまり勇者は狂戦士を殺さずにその力を俺から得る事が出来たと言う訳だ!

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