緑の瞳が語るものは

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 結論から言おう。


 僕は姉さんに合流することは出来なかった。


 地図を確認するガイルに変わり、不慣れながらもミケランジェロとなずけた世界最速の亀の手綱を握る。


 「勇者の事は、残念だったと思うけどさ___」


 「黙れ」


 苛立っていた僕は、振り向きもせずガイルに答える。


 頼むから!

 今の僕に、話しかけるな!


 かなりの苦労をして国境にある関所にたどり着いた僕等に知らされたのは、既に『勇者キリカ』がこの地を旅立ったと言う知らせだった。



 「お、おい!前見ろ前!」

 


 ガイルが慌てて前を指差す。


 森が終わり、眼前にはまるで底なしのクレーターのような巨大な穴とそこに隣接するにぎやかな街が見える。 



 エルフ領難民キャンプ


 いろいろあって、荷物を…主に食料を失っていた僕等は物資調達と姉さんの情報を得る為そこに立ち寄る事にした。



 「ガイル…」


 「ああ、さっきから此処の連中、ヒガの事見てる」


  難民キャンプに入るなり、そこにいた住人…エルフ達から視線を浴びる。


 一体______。


 「いひゃぁぁぁぁぁ!! 勇者ちゃん!!」


 突然野太い悲鳴が響き、背後から力強い腕が僕を羽交い絞めしにた!


 「何どうして! 髪を切ちゃったの~!! 何か有ったんでしょ!? どうしたの!? アタシに相談してって言ったじゃない!!」


 マッチョな二の腕が、容赦なく僕を締め上げてくる!


 「い 息がっ!」


 「ヒガに触るな!!」


 ガイルが全力で右ストレートを放つが、そのの拳は当る事無く手首をつかまれている。


 「あら~w いけない子猫ちゃん…あら?」


 ん~と、呟くとそいつは僕の顔を覗き込んだ。


 目と目が合う。


 僕の顔をまじまじと見つめるのは、ボディビルダーのような鋼のボディをピチピチのボディコンドレスに押し込んだスキンヘッドのオネェだった。

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 だーれーかーヘルプミィィィィィィィー!!!!



 発光しながら泣き叫ぶ赤子を抱え、敵陣のど真ん中に呆然と立ち尽くす俺!


 抱えた赤子は、なおも泣き叫びその度に天高く吹き上げる光はその強さと範囲を広げ始る!


 あまりの事に、流石の女達も鳩が豆鉄砲食らったように呆然と此方を見つめばかりだ。



  「は? えええ?」


 リーフベルと呼ばれていたエルフの女が、やっとの思いで声を上げた。


 「まさか…そんなぁああああ!」


 その表情は強張り、ただえさえ白い頬の皮膚が真っ青になる。 


 「貴様! 何をした!!!」


 カランカが、背中の大剣を抜き俺に向けた。


 「何をって……人命救助…的な?」


 俺の回答に、その場の空気が凍る。


 って、他に言いようがあるだろうか?


 絶望と激昂を露にする二人の間から、小さな体が割り込むように前に出た。


 「え~と、黒髪のあんしゃん…その抱えてるヤツを此方に渡すれち!」


 まるで、幼児のような風貌と口調で緊張感がまるでないがその目は俺を射るように見据える眼光に思わず泣き叫ぶ赤ん坊を固く抱き締めた。



 駄目だ!

 こいつらには渡せない!


 「良く聞くれち! そりは、あんしゃんが思っているほど簡単に扱えるモンでは無いれちよ!」


 何なんだ? 一体この_____


 フォン!


 「え?」


 俺の足元に突然幾何学模様___魔方陣が広がる!


 「聖なる戒めの鎖、悪しき者を封じよ! 『ラヴィシュチェーン』!!」


 先程まで、顔面蒼白で立ち尽くしていたリーフベルの体が淡く光る!


 すると、魔方陣から大量の細いが白く輝く鎖が滝のように溢れうねると一気に俺に向って降り注いだ!


 「リーフベル!! 何考えてるれち!」


 仲間の突然の蛮行に、メイヤが声を荒げる!


 「大丈夫だよ、見な…」


 リーフベルに食って掛かろうとしたメイヤの肩にカランカが触れる。


 ガシャッ!

   ベシャ!

  ゴトン!


 「うひゃーマジびびった!」


 三人の目に映たのは、大量の鉄くずと化した鎖だった物と手の中に泣き叫ぶ赤ん坊を抱いた黒髪の少年の姿。


 「…『聖属性』の魔法も効かないのね」


 無傷の少年を目の当たりにし、リーフベルはめまいを感じたようによろめく。


 「行き成り無茶れちよ! もし、アレに何かあったらどうするれちか!?」


 「あの位で何かあるようなら、魔王の相手なんか出来やしないよ!」


 目くじらを立てるメイヤにカランカが、此方に大剣を構えたまま言い放つ。


 魔王?


 相手するって…この赤ん坊が!?


 俺は、腕の中で泣き叫ぶ赤ん坊に目を向ける。


 発光して温まったのか、先ほどまで真っ青だった頬は薔薇色に染まり樹液? で滑っていた体はすっかり乾いてふわふわの亜麻色の産毛に同じ色の瞳が大粒の涙を流しながら大音量で泣き叫ぶ。


 泣きながら、何かを探るように口をちゅぱちゅぱと動かす姿に思わす人差し指を近づけると勢い良く吸い付かれた!


 なにコレ、クソ可愛い…!


 俺の中に眠る母性が…って! 今はソレ何処じゃ______!


 「覚悟しな! 今度こそ息の根を止めてやるよ『黒髪の男』!!」


 カランカの構えていた大剣が赤く輝く!


 「待って! 待って! 俺いつの間にそんなに敵意とか持たれちゃった訳!? 話せば分かるよ! 色々誤解だって!!」


 「ふっ、誤解? 笑わせんじゃないよ! じゃぁ何故選ばれし『鍵』であるアタシ達しか開けられない『封印結晶』の中に侵入しソレを…『勇者』を強制的に起動させる事が出来たんだい?」



  勇者? 起動? 何の話だ?


 「アタシ達の他にそんな事が出来るのは、この世界を守護する女神様…もしくは『魔王』!」


 カランカの握る大剣の光が、遂に炎のように燃え上がる!


 「…魔力の欠片も感じないアンタが魔王なんて事は無いだろうけど、その特殊なスキルで勇者を殺そうって腹なんだろ!」


 「違う! 俺は人を探して…そうだ! あんた等! 俺と同じ黒髪でやたら美人を見なかった!? 比嘉霧香さんとそのおとう_________」


 俺の言葉は、一瞬にして眼前に迫った赤い影に遮られる。


 「黙れ、そして死ね」


 大剣が、無慈悲に薙いだ。

 


 パキィィィン!



 甲高い金属音に、俺は思わず閉じていた目をゆっくりと開ける。


 「な に…?」


 至近距離迫った驚愕の表情を浮かべるカランカと視線が絡む。


 え? 何?


 俺は、カランカの握る俺を切り裂いた筈の大剣に視線を移す。


 少し震える大剣は、丁度半分くらいからポッキリとへし折れていた!

 

 「おぎゃぁ! おぎゃあ! おぎゃあ!」


 沈黙を埋めるように赤ん坊が、泣き声を上げる。


 「カランカ!! 下がって!」


 リーフベルが叫ぶ!


 「!?」



 「おぎゃぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 今までに無いくらいの大音量の泣き声が、赤ん坊から発せられる!


 その瞬間、発光していた赤ん坊が更に強く光っ________



 チュドォォォォォォォオォォォォォオォン…!



 「_______げほっ! ゲホッ! な! へ!?」



 激しい衝撃と土ぼこりが舞う中。


 俺は、赤ん坊を落としてやしなかと腕の中を確認する。



 …は!


 …よかった、赤ん坊は目に涙を浮かべながらも無事……ん?


 ようやく、土埃が去り月明かりが周囲を照らす。



 「あるぇ~…」


 ココ何処?


 一瞬、俺にはココが何処だか分からなかった。


 だって、さっきまで木々が生い茂り月の光など届かない場所であった筈なのに今俺が立っているこの場所は半径1キロ位は木など一本も無く地面の土がむき出しだしぃ。



 あ。



 少し離れたところに黒く拉げた鉄の塊を見つけた。


 「ええええ~ウソだろ?」


 土埃のついた眼鏡を親指と人差し指でこすってみても、あれはやっぱり…。


 ヒヒンっと、悲しげな馬の声がして確信する。

 

 「これ、ガチでヤバイ奴じゃん?」


 俺は、慌ててあたりを見回すがあの女達の姿は何処にも見えない!


 ヤバイ! もしかして死んだかも…!


 「コージ!!」


 遠くの方から、コッカスに乗ったレンブランが此方に走ってくるのが見えた!



 「レンブラン!」


 「コージ! どうしたの? 何があったの?」


 あっと言う間に、側まで駆けてきたコッカスから飛び降り駆け寄ったレンブランは俺の腕に抱かれる赤ん坊を見るなり怪訝な顔をした。


 「え? コージ、子供がいたの!?」


 「違ぇーよ!!」


 俺は、レンブランに今までの経緯を説明した。


 「…分かった、取り合えず此処から離れよう!」


 レンブランは、俺と赤ん坊を素早くコッカスの背に乗せ手綱を握った。


 「どうしよう…あの女達、死んだかな?」


 「それなら有り難いけど、無いよこの程度じゃ彼女達は死なない」


 「ちょ! 有難いって…」


 「どうして浮かない顔してるの? 追っ手が死んでくれてた方が良いに決まってるじゃないか?」


 事も無げに言うレンブランに、俺は寒気を覚える。


 そうか、根本的な考え方が違うのか…きっとこの世界では生き残る為に相手を殺したり殺されたりするのは当たり前の事なんだ。


 「どうしたの? コージ?」


 「いや…」


 腕の中の赤ん坊は、いつ間にかすうすうと寝息を立てている。


 さっきは助ける事で頭が一杯だったけど、あのカランカって奴がこの赤ん坊の事『勇者』って言ってたような…?


 けど、この赤ん坊が勇者なら霧香さんは一体何処にいるっていうんだろう?

 そもそも、霧香さんが勇者と言うのも俺の推測でしか無い訳だけど…まさか違うのか?

 なら比嘉は一体どうしているんだろう? あんなに血が一杯出ていたというのに…。


 「大丈夫? コージ?」


 押し黙る俺に、レンブランが声をかける。


 「兎に角、今は身を隠せる場所を探そう…んで朝になったらまた…」


 「…」


 ソレっきり、俺とレンブランは無言でコッカスに揺られ木々の生い茂る森の中に身を隠した。 


                ◆◆◆




 青々とした木々の間から暖かな太陽の光が差し込み、朝露のみずみずしい香りが森を漂う清々しい朝だ______通常ならば。


 「お お手上げだ…!」


 レンブランは地面に膝をつきうな垂れ、俺は半ば放心状態で岩にもたれ掛かり天を仰ぐ。


 「おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!」


 俺の傍らで、ランチ用バスケットの中で学ランの上着に包まれた赤ん坊が鳴き叫ぶ。


 「おしめじゃない…抱っこでもない…お腹が空いてるのは分かってるんだ…!」


 レンブランは、まるで子育てに疲れた主婦のように目の下に隈を浮かべ一心不乱にリュックの中を漁る。


 俺とレンブランは焦っていた。


 もう既に、数十種類の動物の乳はもちろん100種類以上の植物や肉まで試したが一向に赤ん坊は受け付けようとしない。


 今は元気良く泣いているが、早く何か食べさせなければあっと言う間に弱ってしまうだろう。



 「くそっ! 折角、助かったってのに…!」


 赤ん坊は、ちゅばちゅばと口を動かし栄養を求める。


 「コージ…体を調べて思ったんだけど…」


 レンブランが、リュックから取り出した木の実を磨り潰しながら俺の方を見る。


 「ボクの見立てが正しいなら、その子…外見上はコージと同じ種族で間違い無いよ」


 「は? 人間ってことかよ?」


 レンブランの言葉に、俺は驚きを隠せなかった!


 「うん、あくまで外見だけど…もしそうなら食べ物も同じなんじゃないかって!」


 …もし、そうならもっと厄介だ!


 この世界にいる人間は俺と比嘉に霧香さんの3人。


 女って言うならもう霧香さんしかいないが…無理だ!


 もし、目の前に霧香さんがいたとしても母乳なんて出る訳が無い!


 「一か八かだ…」


 俺は、バスケットから赤ん坊を抱きかかえ自分のシャツをたくし上げる。


 「え!? 出るのコージ!???」


 赤ん坊は、露にる真っ平らな胸にむしゃぶりつく!



 ブチュゥゥゥゥゥゥゥ! 


 「いっ、痛えェェェェェ!!!」


 何たるバキューム!

 乳首が持ってかれそうだ!!


 「無理無理無理無理!!! 取って! コレとってぇぇぇぇ!!!」


 「何やってんのさぁぁぁぁ!!!」


 俺の胸に吸い付く赤ん坊を、レンブランが慎重に引き剥がしに掛かる!


 チュバッ!


 「うやうう…わぁぁぁぁぁん…」


 ひっべがされた赤ん坊は、再びぐずり始める。


 「~~ってぇ…うわっ! 痣になってるよ!」


 母さん!

 貴女の息子の左乳首が大参事です!


 「行き成りなにしだすの! ビックリだよ! それともコージの種族は雄もお乳が出るの!?」


 赤ん坊を抱いたレンブランが、まるで変質者でも見るような目で俺を見る。


 「いや…世界が●●ニュ●●でそいう人いたからいけるかと…」


 「コージ、まずボク等落ち着こっか…」


 レンブランは、はだけた俺のシャツを下ろそうと_______。


 「あっ…貴方達! なにやってんのよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 突然、林の影から無数の鞭のようなのもが伸びあっと言う間にレンブランと赤ん坊を縛り上げた! 


 「にぎゃああ! コージ!」


 「レンブラン!」


 赤ん坊を抱いたレンブランは、地面から3mほどの高さに釣りあげらる! 


 「何だよコレ!!」


 俺は、ソレが放たれた方を睨み付けた! 


 木々の間から、焼け焦げた白かったであろうローブを身に着けたリーフベルが緑色の美しい髪をなびかせ現れた。


 しかし、その表情は真っ赤に頬を染めうっすら涙目になっていたけれど。



 「何すんだよ! レンブランを降ろせ!!」


 「あーあー貴方達こそ! 今なにをしようと、と、と、したんですかぁ! 女神様がそんな事許すと思ってるの!? 汚らわしい!!」



 リーフベルは、顔をさらに赤面させもじもじと体をくねらせ狼狽する。



 「何って…俺達は乳_____」


 「っちちちちち乳首!!! そんなにきつく吸 おっ、落ち着くのよリーフベル! 私は勇者の随行者にして封印結晶の適合者…こんな所で…こんな所で……!」


 リーフベルは、自分の中の何かと闘っているのか自身の肩を抱き身もだえする。


 「コージ…彼女どうしたんだろう?」 


 …知ってる。


 俺は、リーフベルが何と戦っているかが分かる…はははwwwどこの世界にも居るもんだねwww


 「レンブラン、少し間だけ適当に俺に話を合わせてくれ」


 「…分かった、何か策があるんだね?」


 顔を真っ赤に染めながら、なにやら念仏のような物を唱えていたリーフベルは徐々に平静を取り戻していく。


 「はぁ…はぁ…かっ覚悟なさい! 勇者を奪ったばかりか万物の摂理に反する行い…ばっ万死に値する!」


 リーフベルの周辺の植物が歪にうねり、まるで意思を持っているかのようにその幹が枝が俺に照準を合わせる。


 「俺たちは、なんら間違った事なんてしていない!」


 俺は、ワザとらしくオーバーアクションで縛り上げられたレンブランを見る。


 「レンブラン! その子と3人幸せになろう! 愛してる!!」

 「…ぼっ!? ボクもだよコージ!」


 その場の空気が凍りつく!


 コレ大丈夫なの!? っと、言いたげなレンブランの視線が痛い!


 …俺の感が正しいなら、ほぼ間違いなく何らかの変化が_______ボコッ。


 いきなり不自然に、レンブランと赤ん坊を縛り上げていた鞭のような植物のつるが脈打つ!


 ぶしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 その途端、目を見開き強張った表情を浮かべていたリーフベルの鼻から大量の血が噴き出しガクッと地面に膝をついた!


 「フツメン男子×ぽっちゃり系&育児新婚…こんなマイナーな設定で出血するほどの興奮とはな…末期だな」


 「凄い…! 魔力も無しであんな攻撃が出来るなんて! 一体何したの!?」


 レンブランが、羨望の眼差しで俺を見る。


 「あれは_______」


 「…されない……」


 膝をついていたリーフベルが、よろよろと立ち上がる。


 「…女神様の『理』に反する…汚らわしい! 今直ぐこの場で____」


 「ふえ? 何がどう『汚らわしい』って? え? 何妄想したの? 俺、『愛してる』って言ったけどソレ家族的な意味だからww まさか_____とか思った訳? 何それテラワロスwwww つーかさぁ、アンタの妄想の方がその『理』ってやつに反してんじゃね?」


 リーフベルの顔がどんどん真っ赤になり次の瞬間真っ青になる。


 シュル。


 「うわっと!」


 レンブランを拘束していたつるが、急に力を無くしたように緩む。


 赤ん坊を抱いたレンブランは、その巨体に似合わず音も無く地面に着地した。


 「さぁて…」


 俺は、顔面蒼白になりわなわなと震えるリーフベルに視線を移す。


 まるで、いけない事を親に見つかった子供のように震える姿は先ほどまでの美しく気高い森の賢者と言われるエルフとは思えないほど弱弱しい。


 ぞくっ…っと、俺の背中が疼く。


 いいね…もっとそのすまし顔が乱れる所が見たいなぁ~。


 リーフベルは、すっかり生気の失せた顔で天を見上げなにやらぶつぶつと呟く。


 その狼狽振りを見るに、恐らく自分の性癖を認めていないもしくは理解していないんだな…。


 つーか、そもそもこの世界に『腐女子』なんて言葉あるんだろうか?


 「コージ!」


 レンブランが、どこか焦ったように俺の肩を掴む!


 「不味いよ、早く逃げないと!」


 「え?」


 「感じない!? 凄い魔力が彼女に集中してるよ!」


 魔力集中って…何?


 「何したか知らないけど、あんな質量の魔力とてもコントロール出切るとは思えないよ! 暴発でもしたら最悪ここら辺一帯はもちろん彼女も只じゃ済まない…まぁ、自滅してくれるのは有り難いけどね」


 「な…は? 自滅?」


 ちょいまち!

 え? ウソだろ!?


 「行くよ! 出来る限り遠くへ______って、コージ!?」


 俺は、レンブランの振り切り真っ直ぐリーフベルの元に走った!


 「先行っててくれ!」


 「何言ってんのさぁぁぁ!?」


 俺は、目の前にへたり込む死んだ目のエルフに視線を合わせる為膝をつく。


 とは言ってみた物の、どうしたもんか?


 「ブツブツ…私は罪びと…ブツブツ…神の国は遠のいた……ブツブツ」


 嗚呼、俺好みの良い感じに壊れてんなぁ~♪


 もう少し眺めていたいという欲求を押し殺し、俺はそっとリーフベルの両肩に手を置く。


 「可哀相に、自分が一体なに者なのか分かってなかったんだな?」


 俺の言葉に生気を失った瞳が微かに揺れる。


 「アンタが、男同士の他愛もない絡みや仕草に異様な興奮を覚えるのはなんらおかしい事じゃないんだよ」


 俺は、さも小さい子供をなだめるようにリーフベルに話しかける。


 「だ め…僧侶たる者が、こ こんなっ…!!!」


 リーフベルの体から緑色の光が発せられる!


 何だか、風が渦巻いてリーフベルの肩を掴んだ手の平がピリピリとむず痒い。


 「女神様に仕える僧侶でありながらっ…こんな…こんな…不浄な!!!」


 「おい! 落ち着けよ!」


 発せられる光は濃さを増し周辺の木々がまるで生き物のように蠢き、リーフベルの華奢な肩を掴む手のひらからはまるで雷で出来た蛇がチロチロと舐めるような気色悪い感触がジリジリと這い上がってくる!


 「このっ!」


 ガツッ!


 「!!!?」


 俺は、錯乱するルーフベルに思いっきり頭突きをかました!


 「おいコラ! 俺の目を見ろ!!」


 リーフベルは、きょとんとした顔で言われるまま俺の目を見る。


 「いいか? さっきも言ったが、アンタは別に変じゃない! 俺の世界にはアンタみたいに男同士のあられも無い事を妄想して燃えに萌えてる乙女達がわんさかいるわけよ!」


 「わ 私の他にも…いる?」


 「そ! 俺の世界じゃそ彼女達の事を『腐女子』と呼んでいる!」


 「フジョシ…?」


 「そうだ! アンタは一人じゃない! きっとこの世界にも腐女子はいる! 彼女達はきっと今のアンタみたいにたった一人で悩み抱えきれない『萌え』を必死に心に溜め込んでいつか理解される日を導く者の出現を待っているんだ!」


 リーフベルの瞳から涙が溢れる…コレは歓喜の涙だ。


 「導く…?」


 「そう! アンタは僧侶なんだろ? そんな救いを求めている子羊(?)達を導かずこんな所で爆死したいとか! ソレこそ女神とやらの教えに反するんじゃね?」


 「ああ、女神様…!」


 強張っていた体から徐々に力が抜け、それに合わせて激しく発光していた緑色の光も小さくなり手の平のビリビリした感じも消えた。


 「ほっ、危ねぇ~…」


 俺は、リーフベルの肩から手を離しぐったりと地面に座り込む。



 


                 ◆◆◆





 「す すごい…!」


 レンブランは、徐々に小さくなる魔力の渦を見つめた。


 何がどうしたのかは皆目検討もつかないが、自分では近づく事さえ出来ないかったであろう強大な魔力の渦に突っ込んだ魔力は愚か脆く今にも壊れそうな肉体しか持ち得ない単身生身少年が見事にその肥大しきった魔力を縮小させている…。


 無論、魔力や霊的な力を一切使用せずにだ!


 (すごい…! コージなら、彼なら助けられる…僕の…!)


 レンブランは、希望に瞳を輝かせ_____


 「_____! ごほっ! ごほっ! …っ…!」


 急に抱きかかえた赤ん坊から顔をそらし、口に手を沿えレンブランは激しく咳き込む。


 「はぁ はぁ…あっ…!」


 ふっくらとしたレンブランの手の平を、鮮血が染める。 


 (もう少し、もう少しだから…待てて…!)


 その緑の瞳は、苦痛に歪みながらそれでも光を失わずようやく見つけた『希望』を見据える。


 記憶を無くし、自分を異世界から来たと思い込んでいるような傍目から見れば常軌を逸し気が触れたとしか思えない正体不明の少年。


 だが、レンブランにはもう彼にしか希望を託せる者などいない。


 さっきまで泣いていた赤ん坊は、小さくなる魔力の渦に手を伸ばしきゃきゃっと笑う。


 にわかには信じがたいが、封印結晶の適合者にして『勇者の同行者』である彼女達がついていたのだ…この赤ん坊は『勇者』に間違い無いが何故魔王にたどり着く前に封印結晶が破壊されこんな中途半端な姿で『再生』されたのか? それはもう少しコージに話を聞かなければ分からないけれど。


 ココココココココココココ!


 背後に、白い影が控える。


 (兎に角、すぐにでも逃げ出せるようにしなくちゃ!)


 レンブランは、コッカスに手で伏せるように命じ素早く背中に飛び乗るとエルフの肩を抱く黒髪の少年を見据えた。

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