第53話 ▼逆逆転のエネルギー

「アマネセル姫たちは、この文明が滅びる運命を分かっていて、最初から無駄な戦いをしていた?」

 真帆はマリスに問うた。

「いいえ、そうじゃない。姫は、間近に差し迫るアトランティスの運命と格闘しながら、おそらくそれを問題とはしていなかった。姫はきっと無理だと分かってて、あえて戦っていた。彼女の真意は、一万年後のアクエリアスの時代に託された。一万年後の私である八木真帆に。一体なぜか? あの時代を諦めても、一万年後にかけるためによ」

 マリスは答える。

「なぜ焔の円卓の騎士の裏切り者であり、世界を滅ぼした張本人のマリス・ヴェスタに、アマネセルは希望を託したの?」

「それは、闇の中に生きるしかなかったわたしの中に、光が存在する証拠だから。『闇の中の光』ゆえに、アマネセルはわたしに託してくれた」

 アトランティス以後、六千年時間が経過した時代のバベルの塔でも全く同じ事が起こったのだ。古代バビロニア世界帝国。その時に、高さ約千メートルの一者の塔「エ・サギラ」、いわゆるバベルの塔によってヴリトラが世界にばらまかれ、聖書に記された大洪水が生じた。

「だけど問題は、『アクエリアスの春』の方。そこで人類が飛翔しない限り、アクエリアスの、さらなる次の文明でも全く同じ過ちが繰り延々返されていく。これまでがそうだったように。でもアトランティスやバベルの塔の時代の如く、毎度の文明のように失敗しても、今度のアクエリアスの時代だけは絶対に失敗は許されない。アクエリアスの春に加え、久しぶりのダブルチャンスが訪れるからよ。もしこのダブルチャンスに失敗したら、地球はもう二度と輪廻を抜ける体力もなく、星として衰退の一途を辿る。それが、プレベールという地球の分身からもたらした真相。アトランティスの教訓は、その二元性の戦い……つまり光と闇の戦いの構造では超えられないという事。光と闇の戦いでは、永久に解決しない。そこから抜け出してこそ、ワンネスへと回帰する。それこそが輪廻の迷宮を抜ける糸(意図)」

 ヱイリア・ドネの糸とは、二元性の考え方を止揚する道。正・反・合で、光と闇の戦いをアウフヘーベンさせる。さらには物質と精神をアウフヘーベンさせる。つまり光と闇の相克を昇華する。糸とは、全ての二元性を超える事。

「アトランティスの最後の段階で、アマネセルの目的は、もはやこの国を救う事にはなくなっていた。次のアクエリアスの春に託し、その文明を同じことの繰り返しにしない。そこで、ヱイリア・ドネの糸が解決のカギとなる」

「黙示録の輪廻の迷宮を抜けるヱイリア・ドネの残した糸って、結局具体的に何だったの」

 アマネセルは最初出会った瞬間にマリスをじっと見て、偶然に円卓に来た訳ではないと洞察した。マリスが「闇と光の位相変換」という大魔術の鍵を持っていると確信した。その時マアトは「マリスが人類の未来の希望となるだろう」と、アマネセルに言った。そうして姫はマリスが闇を背負った人間だと分かっていても、完全なる闇ではない事を見抜き、仲間に引き入れた。アマネセルは情熱党滅亡の際、ヱイリア・ドネに最後「糸」を託されたが、それを灰色の天使マリス・ヴェスタに託した。

「私は、光と闇のはざまに揺れる魂存在だから。いや、闇から光へ転ずるエネルギーを有している。だからこそ光と闇の二元性を超える事が出来る。その可能性を持つ魂存在として、アマネセルは私のハートに炎を点火した。一万年の時を経て、アトランティスと全く同じシチュエーションの文明に輪廻した時、八木真帆は自分自身の中で光へと転換する事ができる。津波で意識を失い、臨死体験によって過去を思い出した事も、全てが時空を超越したツーオイによって予定されていた。長い長い輪廻を経て、ようやく、私の意識は完全に全体性へと目覚める事ができる。それが『糸』。発見された抜け道だった。私は、過てるアトランティス人の象徴であり、なおかつ闇から光へ転ずる象徴なのよ」

 それは、人類の姿そのものだ。そして、現代人の姿そのもの。

「……」

「もう、私は生きられない。私はアトランティスと運命を共にする。もうすぐ津波はここを飲み込んでしまう。時が尽きた。あなたは生き延びて……そして、私ができなかった事の続きを、頼む」

 バミューダの時空の乱れが消えると同時にマリスも消え、マリスのアストラル体は元の身体に戻っていた。だがそこでマリスは死ぬ。重心室は海中に没する。

死の間際、マリス・ヴェスタを構成するヴリル粒子は光の粒子へと転換した。やがてマリス・ヴェスタの華奢な身体は、海水に飲み込まれていった。

 神江では光の集団のUFOが目撃された。そこにヴィマナが来ていたのは事実だったが、現代人の肉体の眼のヴァイブレーションの領域では光って見えるだけだった。


 そうなんだ……いやそうだ。アトランティスは滅んだけど、神江は、完全に沈んだ訳じゃない。大地は汚された。けど、完全に死んだ訳じゃない。いつか、広島や長崎の様に復活する。時が、尽きた訳ではないんだ……。生き残った者たちは、きっとここへ還ってくる。そして私は力強く生きていしかないんだ、ここにヱデンを目指して。

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