第13話 ニンゲン狩り③

 武術の心得でもあるのかサヨリは抵抗する斗真をなんなく魚雷発射管に押し込んだ。

「人殺し!クソババァこんなこと許されると思っているのか!」

「ババァではありません。まだ二十才はたちです」

 言い残してハッチを閉じてしまった。


 イクとチエコが顔を見合せイクが指二本を立てるとチエコが頭を横にふって三本立てた。

(二才ごまかした)

(いいや三つだ)

 という無言の会話がなされていた。


「サヨリさん許してあげて、まだ子供です。そこ、注水ボタンに手をかけるな!」

 サキナがサヨリにすがり、水雷科のアキを怒鳴りつける。

「13才ならチン毛も生えた立派な大人です」

 サヨリはとりつくしまもない。


「せめてスタンキーフードを!」

「もったいない」

 スタンキーフードというのは生身で脱出するときに使う装備だがにべもなく却下された。


「斗真くん!」

 サキナはハッチを叩いた。

「慌てないで息を吐きながら昇るのよ!泡より速く上昇したら肺が破裂するから!」


「その前に窒素酔いで昇天するけどね」

 水雷長のマサエが愉快そうにつぶやく。


「助けて!助けて!」

 斗真が悲鳴をあげて暴れはじめた。

 ここへきてようやく脅しではないと気がついたようだ。


「ごめんなさい!」

 と、10回ほど叫んだあと、

「チン毛はまだ生えていないので許してくださーい!」

 恥も外聞もなく絶叫した。

 マサエとアキが抱き合うように笑いをこらえて悶絶した。


「子供がどうして空母に乗っていたの?」

 サヨリがにこりともしないで問いを発した。

「ニンゲン狩りを手伝うためです!お願い、出して、吐きそう!」

 サヨリがサキナに開けてよしと合図した。


 斗真はサキナに引っ張り出してもらい「ふぇーん」と情けない泣き声をあげるのだった。


 ~~~~~


「では詳しく聞かせてもらいましょうか」

 再び食堂に集合する面々。斗真はすっかり打ちのめされ素直になっていた。


「はい、ことの始まりは西暦2000年の3月、南極からB15という面積にして東京都の5倍もある観測史上最大の氷山が流れ出たことです」

 詳しくとは言ったもののずいぶん昔から話が始まったことにサヨリは戸惑った。


「氷山は漂流を続け2002年二つに分裂しました。大きい方はその後また南極に戻りましたが小さい方B15Jは溶けながら分裂を繰り返し、そして……2004年初頭ニンゲンが姿を現しました」

「ちょっと待って、そのニンゲンて何?さっきもニンゲン狩りとか言ってたけどホモ・サピエンスのことじゃないよね」

 今回は斗真の横に座っている機関長のヒトミがもっともな疑問を口にした。

 ヒトミはショートカットのボーイッシュな容姿とは裏腹に巨乳を誇っている。ラッシュガードを羽織ってはいるが大いにはみだしていた。


「南極海に生息しているとされる巨大な未確認生物UMAの名前です。ヒトガタとも呼ばれていますがアメリカ海軍ではひそかに『ヒルコ』というコードネームが与えられたそうです」

「どれもなんか嫌な名前ね」

 ヒトミは鼻にしわを寄せた。


「ニンゲンについてはあとで説明してもらうとして話の続きを」

 サヨリが先をうながした。



「アメリカ海軍は1年間追跡、調査を開始しついにスマトラ島沖で捕獲を試みました」

 斗真はそこで一息つき、

「12月26日ニンゲン『ヒルコ』をロスト。そしてマグニチュード9.1の巨大地震発生、死者20万人以上」

 反応を見るように沈黙する斗真。




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