第3話 航行の正義作戦

 海洋インフラ投資銀行<SIIB>参加国は通称海洋連合と呼ばれていた。

 そもそもは国際海洋条約に不満を持つ一部の国が海岸線を持たない内陸国や、持っていても短い海岸線の国を巻き込んだのがはじまりだ。

 海洋権益の公平なる分配を謳い文句に既得権益の放棄あるいは割譲を要求してきた。

 スローガンは立派だったが公海の強引な占拠、開発などへとエスカレートするにいたって凶暴な野心があらわになった。


 武力を背景とした現状変更、すなわち征服欲だ。


 いまアメリカの第七艦隊を中心とするAPTO軍の多国籍艦隊がもっとも深刻な状況下にあるスプラッシュ諸島へと進路をさだめていた。


 海上交通の要所でありながら海洋連合に占拠、埋め立てられた軍事拠点が数多くあり、ついには海洋連合以外の航行が制限されたのである。


 そこでこれを有名無実化するため<航行の正義作戦>が実行にうつされた。

 無用の軍事衝突をさけるため最大限の戦力をもって通過するというのが作戦の主旨だ。

 すでに二回実施されていて今回が三回目である。


 APTO加盟国30ヵ国、総艦数60隻の堂々たる大艦隊が単縦陣でスプラッシュ諸島を縫うように進む。

 そのさまは巨大な龍がうねるようだ


 最後尾の艦が海域に侵入したころ異変がおきた。

 海がいたるところで白く濁りはじめたのだ。

 濁りは激しさを増しその正体が泡だと判明するのに時間はかからなかった。


 泡が大きくなり海が沸騰しているかの様相をみせたとき、第七艦隊の巨大空母が船首から突っ込むように沈んでいった。

 SOSを打つ暇もなかっただろう。

 APTO軍はそこかしこで泡にのみ込まれていった。


 沈まないまでも泡につかまった艦は前進も後退もできなくなっていた。

 スクリューは泡を相手にむなしく回転し、推進力をえることができなかった。


 難を逃れた艦艇も泡の海域に遮られ立ち往生していた。

 もはや標的艦とかわりなかった。

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