星祭りデートの裏側。

父さん、初デートが残念王子ってなんなんだろうね。


「セレさん、賑やかですね♪ 」

隣ではしゃいでるのがその残念王子です。


対外的には結婚したい美形外国王族ランキング万年上位入賞者の癖に残念感満載の人です。


残念王子部門でもきっとぶっちぎりで一位独走だと思います。


そんなのないけどね。


「ルリ綿あめ食べましょうか? 」

リカ王子が楽しそうに屋台をみている。


立ち並ぶ屋台の一つに薄紫色の綿あめが売られていた。


ルリ焼きも平焼きもあるのに……なんで綿あめ?


「結構です」

子供じゃあるまいし綿あめなんて食べたくないよ。


今日は年に一度の星祭り。

一年の恵の感謝と来年の豊作をいのり守護神白銀シロガネ様をあがめたてまつる日です。

星見の塔は本来、その白銀様の住んでるところなんですけど……


いつのまにか、星祭りの日に恋人と一緒にのぼって愛を確かめ会うと一生一緒にいられるという謎のジンクスが有るらしいです。


私には当分縁がないはずですがねぇ。


私服を着たリカ王子を横目で見ながらため息をついた。


「はい、セレさん」

断ったのにルリ綿あめをリカ王子が差し出した。

「……すみません」

受け取ろうとするとニコニコと上に上げられた。


料金先払いですか?

諦めて前を向くと紫の綿飴が目の前にきた。


「はい、あーん」

甘い声が耳に聞こえた。

なんか怖くなって口を開けるとふわりとルリ果汁風味の綿飴がくちにはいってきて溶けた。


「ここのは美味しいんですよ」

リカ王子が甘く微笑んで自分も私が食べたところから食べて間接キスですねと楽しそうだ。


その後私に綿飴を渡して手を握った。


不本意デートとはいえマーシュ先輩はじめ部署の女性先輩たちの力作のデートスタイルに綿飴……膝たけの花柄ワンピースに黒タイツに似合わなすぎる。


「星見の塔に行きましょうか」

リカ王子が私を人混みから守るように動いた。

「本当にいくんですか? 」

そんなところ行ったらまた……


父さん、そんなことしたらまた明日から記者に追っかけられちゃうよね。


「ええ、白銀様に挨拶しないと」

リカ王子が裏道や抜け道を選んで歩きながら答えた。


ああ、そういや白銀様って王族のご先祖だっけ?


それにしても細い路地よく知ってるなぁ。


「白銀様って本当に生きてるんですか? 」

星見の塔に住んでるっていう話だけどプライベートスペースは神官しか入れないしな。

「生きてます……案外自由に外出てますよ」

裏事情をサラリと漏らしながら私の持ってる綿飴に顔を持っていって口に含んだ。


あーんですね嬉しそうですが……食べるんなら自分でもってほしいです。


「ところで、リカ王子はなんで恋人作らないんですか? 」

王族なんだし姉妹の皆さんは既婚者及び婚約者持ちだよね? 婚約者辺りいるといいんだけどな。

「…出会いがなかっただけですよ」

リカ王子が視線をそらした。


うーん、なんかあるなこりゃ。

すきなひとがいるんならその人誘いなよ。


抜けた先は有名な老舗ルリ焼き店の前だった。


「リカちゃん! デート? 」

店の前でルリ焼きムギットというバンダナをつけてるおじさんに声をかけられた。


ええ?あの有名なルリ焼きのムギットさん?

うちの地方のルリの実使ってくれてるんだよね。


「ええ、可愛いでしょう? 」

残念王子殿下が私の肩を抱いた。

「恋人じゃありません! 」

「恋人なんだ、良かったね失恋から立ち直って。」

私の否定を無視してムギットのおじさんがニコニコした。


し、失恋? この美形王子……容貌だけは最高に綺麗な人が? 中身は残念王子だけどさ。


銀の腰まである長い髪は今日は一つに縛っている。

銀の長いまつげにおおわれた緑の瞳は宝石のように整った顔に鎮座している。


シャツにデニムのズボンなのに麗しさは隠せない中性的なのに身体は細マッチョだしなぁ。


さっきも見惚れてたカップルがいたしね。


「失恋……」

「……ええ、星見の塔にいってきます」

私のつぶやきが聞こえたのか残念王子が少し妖しい微笑みを浮かべ答えた

「ん、帰りに星祭り限定ルリカボチャ焼きでもかってね、サービスするよー」

ムギットのおじさんが手を振った。


「甘く作っておいてください」

リカ王子がそういって手をひきぎみに早足であるきだした。


なんか地雷踏んだかな。


大通りだからか老舗のブルー・ルリーナ料理店やバーが立ち並ぶ一角に少し空腹覚えた。


それにしても……王都の星祭りって賑やかだな。

うちの方でも星祭りはする。


星見の塔みたいな細長い形の祠にルリの実やかぼちゃをおそなえして騒ぐんだ。


カボチャ風呂入って、ルリとカボチャのお菓子売ってる屋台が数軒出るくらいかな?


でも恋人たちのお祭りっていうところは変わんない。


私はいたためしがないけどね。


「セレさんは恋人いますか? 」

歩きながらリカ王子が唐突に聞いた。

「いません」

その様子が少し憂いに満ちているようにおもえる。


いたら力一杯断ってるよ。


「じゃあ、私の恋人ということでいいですね」

「ええ?困りますよ。」

いくら綺麗でも残念王子ぶり知ってるし……さっきの色気は知らなかったけどさ。


「パンツを買ってきてもらう仲じゃないですか」

リカ王子が冗談めかして私の鼻をつついた。

「それは、業務です」

なんでそんなこというのかな? いうに事欠いてパンツ?


「まあ、良いじゃないですか、どうせ明日から記者に付きまとわれますよ」

「王宮広報官の計略とリカ王子のせいじゃないですか」

恋人作っといてくださいよ~と私はぼやいた。


です、姉妹がみんな結婚したり婚約するとうるさくて仕方ないですね」

リカ王子が人差し指を口の前に立てた。


まったく、だったらさっさと綺麗なご令嬢とか王女殿下でもたらしこみなよ。


でお願いします。」

私はリカ王子を睨みつけた。

リカ王子がフフっと笑って肩抱いてきたので手の甲をつねってやった。


痛い、痛いです、セレさん~

リカ王子は情けない声を出して肩から手を離して撫でた。


王宮の前には王国建国前からあるという大きな湖と建国から立っている星見の塔がある。


高い高い石造りの塔はてっぺんが見えないほど高い。


老若男女のおとずれてるけと年配者は一階に設けられた祭壇と護符の集まっていて若いカップルたちは整理券片手に展望台のエレベーター待ちをしている。


あ~あれだ、星見の塔のてっぺんで愛を叫ぶと永遠の愛を誓えるというの。


「わー混んでますね」

あまりの混雑に私の心は折れた。


ほんもんの恋人同士じゃないしべつにいかなくてもいいよね。

たじろいだ私にリカ王子がふたたび手を握った。


「こちらですよ」

リカ王子が観光用と違う方に歩いていった。


裏側にあきらかにスタッフオンリーらしき扉があった。


「立入禁止なんじゃないですか? 」

関係者以外立ち入り禁止とデカデカと書いた張り紙が扉に貼ってある。

「大丈夫、関係者ですから。」

リカ王子は勝手に扉をあけた。


わーもし咎められたら無理矢理連れてこられたんです~とリカ王子を引き渡して逃げよう。


ひんやりとして石造り床に中螺旋の階段が見えた。


受付っぽいの小部屋には誰か座ってる。


「関係者以外立ち入り禁止ですよ」

綺麗な銀髪の中年男性が注意した。


瑠璃色の長衣を着ている神官さんらしい……誰かに似てるな。


「ルミ叔父上、お元気そうですね」

リカ王子が手を振った。

「リカ……また職場の女の子に擬装恋人頼んだの? 」

ルミ叔父上神官? がため息をついた。


そうか、リカ王子に似てるんだ。

叔父ってことは国王陛下のご兄弟かぁ~。


それにまたって……いつもこういうことしてるんだ。


「ひとぎぎの悪い、星見の塔にはつれてきてませんよ、もう一人しか」

リカ王子が頬を指でバツが悪そうに掻いた。


もう一人つれてきたんだ、その人とどうなったんだろう?


「まあ、いいや白銀様ならカボチャソーダで酔っぱらってたからいると思うよ、階段はかなりきついけど頑張ってね」

ルミ叔父上神官が私をみて微笑んだ。


カボチャソーダって単なるジュースだよね。


「この階段上がるんですか? 」

はるか一番上の見えない螺旋階段を見上げた。


観光用の方はエレベータあったと思うけど。

「ばてたら抱いてはこびます」

綺麗な残念王子は妖しく腕を広げたのでプイッと横を向いた。


絶対に根性で登るもん。

気合を入れて一歩踏み出した。


延々と続く石の階段……時々現れる小部屋の扉……壁面にはブルー・ルリーナの創生神話の彫刻。


あーえーとあれだ、荒れ地に白銀の神降り立ちぬ。


民と開拓する麗しくも健気な高貴な乙女に心惹かれ銀の杖を打ち付ければ水溢れとかなんちゃらの伝説だよね。


結局救われた高貴な乙女と白金の神が夫婦になって建国王夫妻となり現在の残念王子に繋がるんだよね。


隣の残念王子いきも切らせずにゆうゆう登っていてなんか悔しかった。


いつもデスクワークのはずのリカ王子、なんでそんなに体力あるんですか〜。


パンプスなんてはいてくるんじゃなかった!ヒールはきなれてないもんきついよー。


「セレさん抱えていきましょうか? 」

リカ王子が何回目かに転びかけた時支えながら聞いた。


明日靴づれかなぁ……アハハ……


「いいです」

「セレさんは意地っ張りですね」

リカ王子がそういってしっかり私の肩を支えた。

「普段の仕事よりきつくないです。」

私は無理に微笑んだ。

「そんなに激務ですか?」

ニコニコとリカ王子がひきつった笑みを浮かべた。


ええ、とっても激務ですよ~。


頂上まだですか?

下を向いて階段を登った。

「着きましたよ、セレさん」

リカ王子の声が聞こえた。

見上げると踊り場があって大きな扉があった。


半ばもうろうとしながら歩いてたら頂上についたらしい。

「白金様入りますよ」

リカ王子に支えられる様にして扉を開けてもらって中に入った。


一応祭壇らしきところに大きな紫のソファーベッドがおかれその上にベロベロに酔った長い銀髪の麗しい男性がゴロゴロしてた。


「あー……リカにゃんきたにょ?」

男性はろれつが回らないようだ……酔ってる?

「来ましたよ…どのくらいカボチャソーダのんだんですか?」

リカ王子床に転がる無数のカボチャソーダのボトルをあきれた様に拾った。


まごうことなく星祭り限定かぼちゃソーダと書いてある。


ソファーベッドの脇の星祭り限定かぼちゃソーダと書かれた箱にはまだ入ってるみたいです。


えへへと麗しいはずの男性が笑った。


ものすごい残念臭をこの人? にも感じる。


「いいにゃん、今日はおみゃつりー。」

「まったく。」

リカ王子がため息をついた。

「あの……白金様? はかぼちゃソーダで酔うのですか? 」

「ええ、そうなんです」

リカ王子が本当に不思議体質ですよねとつぶやいた。


後で聞いた話によると神族な白銀様はお酒で酔わず、ソーダ類、特にカボチャソーダで酔っぱらうんだそうです……不思議過ぎる。


それから本当にこの人がブルー・ルリーナの守護神白銀様なんですか?


残念感満載な神様? なんですが?


「ありゃ、リカにゃんのこいびと?失礼にゅ」

白銀様が二ヘラと幸せそうに微笑んだ。

「恋人です」

残念王子が力強く肯定した。

えーとですよ、神様に偽装してもいのかな?

「そうにゃ、祝福しみゃす」

白銀様がソファーベッドから立ち上がって両手をあげた……。


次の瞬間、ソファーベッドにそのまま転がった。

うわー残念王子のご先祖様、ぶれない~

まごうことない残念守護神様だよ。


「ダメにゅ、また今度」

白銀様はそういってまるまって寝はじめた。

その姿は至高の美なんだけど……残念神だしね。

「…帰りましょうか」

「はい」

私は思わず残念王子を見上げた。


先祖代々残念な一族なんだ王族って……白銀様、王族の先祖様だもんね。


部屋の外に出るとドーンと下り階段が待っていた。


「帰りは抱き上げますよ」

ため息をつくとリカ王子が腕を広げた。

「結構です」

恋人でもない男性に抱き上げられるなんていやだよ。


とうさん、明日筋肉痛かな?


「本当に意地っ張りですね」

リカ王子が残念そうな顔でつぶやいた。

乙女のこだわりです。


なんとか降りきったとき足はブルブルで結局おんぶしてもらった。


「すみません、重くって」

わーん、ダイエットしとけばよかったよ。

「セレさん、ルリカボチャ焼きお土産にかって帰りましょうか。」

それに答えずにリカ王子は歩きだした。


やっぱり重いんだ……ダイエットしようかな。


意外と大きな背中と綺麗な銀の髪とこどものとき以来のおんぶにドキドキしながらしがみついた。

セレさんは柔らかいですねとリカ王子がつぶやいた気がした。


ムギットのおじさんに冷やかされてルリカボチャ焼きを買った帰り道。

綺麗な星空が見えた。


二次界のお化けも綺麗な星空が見えるからうかれてでてきてお菓子強奪するのかな?


いつか、二次界のハルイン?ハロイン?だっけのお祭りも見てみたいな。


リカ王子の執務室にはまだ人が残っていた。

「お帰り、セレ! 令嬢避けご苦労様」

おんぶ帰宅いいわねとマーシュ先輩は指を組んだ。

「セレ、カボチャ風呂は大浴場でしてるそうだ、今年のは20メートルはあったぞ、入ったらどうだ? 」

相変わらず仕事三昧らしいエアリ先輩が端末から顔をあげた。


カボチャ風呂は超巨大カボチャをくりぬいて浴槽にして入るんだよね。

20メートルはすごいなぁ。


「残業ですか? 婚約者同士は仲良しですね」

リカ王子がルリカボチャ焼きの包みをテーブルに置いた。


「ええ? そうだったんですか」

エアリ先輩とマーシュ先輩、婚約者同士なんだ!


ショックだ……でも以外と冷静?


「ああ、セレはしらなかったよな、去年婚約してこの秋に結婚する」

エアリ先輩がルリカボチャ焼きの包みを手にとった。

「そうなのよ、美味しそうね」

ぜひ結婚式には来てねとマーシュ先輩が幸せそうにわらってお茶を入れに給湯室に立っていった。


そうか、婚約者同士で仲良く残業なのかぁ。


「セレさん、今度は食事にでも行きましょうか? 」

私は微妙な顔をしていたらしい。

慰めるようにリカ王子に背中を撫でられた。


ああ、残念王子に同情された。


別に大丈夫ですよ、対象外なのはわかってますからね。

もう偽装デートはコリゴリです。


みんなで食べたルリカボチャ焼きは激甘でルリ茶をがぶ飲みしたのはいい思い出です。

リカ王子だけは至福の表情で食べてました。


ムギットのおじさん~リカ王子にあわせないでください。


次の日からやっぱり記者におっかけまわされたり令嬢や令息に問い詰められたりした。


失恋したり厄介ごとに巻き込まれたり。


なんか踏んだり蹴ったりだよー。

ああ、幸せがほしいです…とうさん。


まあ、デートは微妙に楽しかったけどね。

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