第12話
放課後。奥苗が素っ気ない態度をとり続けたので、比空が相談部に誘ってくることもなくなった。ますます二人の間の亀裂は広がっていく。謝るタイミングを完全に逸して、お互いが意地を張り合っていた。
奥苗は鞄を肩にかけて教室を出て行こうとする。比空は掃除当番らしく、ほうきを持って黙々と汚れを集めている。比空は掃除が好きというわけではない。周りの人が楽できるように他人の何倍も負担を負おうとしているだけだ。けれど、比空のその行為は感謝されるどころか煙たがられることのほうが多かった。
なに一人でいい子ちゃんぶってんのよ。それが比空に対して多くの人が投げる言葉だった。
奥苗は教室から出ることができなかった。比空を一人残していくことができなかった。足が地面張り付いたように動けない。比空を視界から外すことができない。
彼女を独りにしてしまっている自分に対して嫌悪感を覚える。
比空が顔を上げて奥苗を見る。その顔は寂しげで目を合わせていることができなくて奥苗は顔を背けた。
きびすを返して教室から飛び出す。
なぜこうも上手くいかないんだろう。なぜ比空のやることを、他人のために努力するという誉められるべき行為を応援してやることができないのだろう。
奥苗は複雑に絡み合った感情を自分の外に追い出そうと地面を強く蹴って走った。
けれど、走っても走っても思考はまとわりついて離れず、先に奥苗の息が切れた。
膝に手をつき、肩で息をしながら地面に言葉を落とす。
「意味わかんねーよ」
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