第4章−[4]:命懸けは必然の結果だった

ゴールデンウィークが明けた翌日、俺は未だ疲労感が抜けやらず学校に着くなり机に突っ伏くし項垂れてしまっている。

しかし、そんな俺とは違い他の生徒はゴールデンウィーク中の話題で盛り上がり、教室内はいつも以上に活気付いていると同時に騒がしい。


「ねえねえ、ゴールデンウィーク何してた?」

「私はティスディーニランドのカーニバル観に行ったぐらいかな」


『俺は浅草『サンバ(サンドバッグ)』カーニバルの予行演習で伊藤家に強制召喚されましたよ』


「ええ、いいなぁ。私は九州のお婆ちゃん家だよ」


『九州まで行かなくても伊藤家に残心を折るお婆さんがいますよ。紹介しましょうか?』


「おいおい、ゴールデンウィークは何処か行ったか?」

「俺は家族でホテルに料理を食べに行っただけだ」


『俺は伊藤家に寿命と嘲笑を喰われに行きましたよ』


「俺は3Dの格闘映画観に行っただけだわ」


『俺は伊藤家で直に格闘を味わいましたよ。しかも臨場感たっぷり死ぬ寸前まで』


俺は知らず識らずの間に耳に聞こえてくる会話に対して心の中でくだらないツッコミを入れていた。しかも疲労の所為でツッコミに精彩が欠けているのが我ながらに辛い。

それにしても俺のツッコミの内容が全て伊織先輩の家に絡んだことばかりになっている。

まぁ、それも仕方ないだろう。何しろ今の疲労感の原因は全て伊藤家の所為であると同時に、俺がゴールデンウィーク中に出掛けた先というのは伊織先輩の家だけなので当然だ。


しかし何故にみんなはこうも楽しそうなのだろう?

大体、ゴールデンウィークに出掛ける意味が分からない。

これが夏休みや冬休みでエアコン代を浮かすために図書館に行くというのなら分からなくもないが、この過ごし易い時期に何故にお金を使ってまで家を出る必要がある?

むしろ動いた分だけお腹が減って低燃費化するだけなので省エネの精神に反している。

お国のお偉いさん、もっと省エネのCMをしっかりした方が良いと思いますよ。

俺はしっかりと省エネに貢献するために午前中の授業は爆睡させて頂くとしよう。

お休みなさい………


◇◇◇


俺が午前中の爆睡で少しは回復したであろう身体を引きづりながらお昼の弁当交換会のために生徒会室に向かい、

そして生徒会室の扉を開けて中に入ると、


「おはようご………、うわぁ!」


そこには福助ならぬ伊助が生徒会室の扉に向かって深妙に正座で待ち受けていた。


「伊助……伊藤先輩、そんな所で何をしているんですか?」


「ニート、昨日はすまなかった」


伊織先輩は俺が入ってきたと見るや深々と頭を下げて昨日のことを謝ってきた。

なるほど。昨日のことを謝るために其処に土下座をして俺を待っていたのか。

この人はどこまでも律儀な人だ。


「もういいですよ。幸い怪我はしませんでしたし」


「本当に申し訳なかった!」


伊織先輩はかなり反省しているのか、再度頭を床につける勢いで謝ってくる。

さすがにそこまでされると気絶させた俺も謝らないといけない気になるのでこの辺で止めて欲しい。


「そんなことを言ったら成り行きとは言え気絶させた俺も悪いので本当にもういいですよ」

「そのことについても後で父に聞いたのだが、ニートが悪いことは一つもないぞ!」

「いや、悪くないことはないと思いますが…、それより後でって、どういう意味ですか?」

「あっ、いや………、それは………、恥ずかしい話だが実は途中から覚えていないんだよ」

「えっ?それって頭を打った所為ですか?」


あの時、伊織先輩は受身を取ってはいるが気を失う程には頭を打っているはずだ。

それが原因で記憶が飛んでいるのなら、かなり申し訳ないことをしてしまったことになる。


「あっ、いや、そうじゃなくて……、どうも途中から意識がなくなっていたというか……」


確かにあの時の伊織先輩の目は完全にイッていたので意識がなかったと言われれば納得もいくのだが………。


「………、それって、ひょっとして理性がぶっ飛んで本能の赴くままにってやつですか?」

「そっ、それだ!」

「おぉ、ビックリしたぁ!」


伊織先輩は俺の言葉がしっくりときたのか、妙に嬉しそうに眼を輝かせて弾んだ声で賛同してくる。


「って、『そ・れ・だ!』じゃねえ!その本能の所為で俺が何人死に掛けたと思ってんだ!」

「あっ、す、すまん!こ、この通りだ………」


俺が伊織先輩の弾んだ声に思わずツッコむと、伊織先輩は本日三度目となる深々とした土下座を極めてきた。


あっ、いやいや、そうじゃなくてですね。そこは『お前は何人もいないだろ!』という返しをするところで謝るところじゃないんですよ。分かります?

そこをスルーされると俺がアホで悪い子みたいになるのでホント勘弁してください!

う〜ん。少し伊織先輩には早過ぎたか?!もう少し成長を待とう。


「はぁ、いや、そんなに謝って貰わなくてもいいですよ」

「で、でも………、お、怒ってるだろ?」


伊織先輩は土下座の体制から恐る恐るといった感じで上目遣いに俺の顔色を伺ってくる。

そんな可愛げに小動物が怯えるような素振りをしても男女平等主義者には効果はないです。

そもそも俺には伊織先輩が今にも飛び掛かれるように屈んで下から獲物を見上げている獰猛な虎にしか見えてませんから。


「本当に怒ってませんから、もう気にしないでください」

「ほ、本当にか………?」

「本当にです!それ以上しつこいと本当に怒りますよ?!」

「ふぁ、ふぁい!分かりました!」


ようやく伊織先輩が土下座をやめて自分の席に戻ってくれた。

この人のこういった律儀なところは心の底から感心したりもするのだが、如何せん気にし過ぎというか反省が重過ぎて此方が気後れしてしまう。


「しかし相手がニートで良かったよ」

「それは俺なら死んでも良かったとか、そういうことですか?」

「ち、違うぞ!そ、その……、ニートでなければ本当に大変なことになっていただろうしな」


それはまぁ、あれだけのことをされたら身を守るために近くの交番に飛び込んでもおかしくはないですけどね。

それでも見知った相手にそこまでする奴はそうそういないので心配する程のことでもない。


「それは俺だったらとか他の誰かだったらとかの問題じゃないでしょ?!」

「???」

「………、俺、何か変なこと言いました?」

「い、いや、ニート以外なら確実に怪我をさせていたと思ってな……」


ああ、そう言うことか。それならそれで受け答えの仕様はある。


「それは偶然当たり所が良くて怪我しなかっただけですよ。大体、そのためにフル防具を着けたんじゃないですか。俺じゃなくても同じ結果でしたよ」


実際は当たった瞬間に力の方向に同時に飛んで受け流しているので防具のおかげという訳ではないが、攻撃が当たった瞬間のインパクトを与えるために防具の分だけ飛ぶタイミングを遅らすことができたと考えれば防具は十分役に立っていると言っていい。

まぁ、本来であれば型の練習なので寸止めが前提と考えれば誰でも良かった訳だし、そもそも防具すらいらなかった筈なのだが。


「それはそうだが………」


伊織先輩は得心がいかない顔で不思議そうに俺の方を眺めている。

そんなに眺められても何も出てきませんよ?!

俺はこういった場合も想定して練習相手をしたつもりですからね。

それはどういうことかと言うと、伊織先輩には攻撃が当たった瞬間のインパクトは与えているので、伊織先輩は俺が避けたとは思っていない筈だ。

そうすると俺が怪我をしなかったという理由は、当たり所が良かったか俺が余程のタフかのどちらかということになる。

即ち前者は誰が相手でも同じ結果で、後者も防具があったという言い訳が成立する。これは俺でなくとも同じ結果になることを示しているのだ。

論証完璧!ゴールデンウィークを費やして考えただけのことはある。俺って賢い!


「まだ、何かあるんですか?」

「あっ、いや………」


無理無駄無茶!ここは諦めてください。

俺の作戦はそんなに容易く崩壊しませんから。


「それよりお腹が減ったので弁当を食べませんか?」

「あっ、ああ、そうだな………」

「うんうん、双葉もお腹がペコペコだしね」

「そうですね」

「そうしましょう」


俺はそそくさと俺の弁当が入った包みを双葉先輩に差し出し、代わりに双葉先輩の弁当を受け取る。

伊織先輩の家ではご馳走が食べられなかったので久々の豪華な食事だ。

と、俺は双葉先輩の弁当を受け取ったところでふとあることが気になった。


「そう言えば、双葉先輩達は伊藤先輩に何をプレゼントしたんですか?」

「うん?プレゼント?」

「はい。みんなが伊藤先輩にプレゼントを渡すところを見なかったもので」

「そう言えば、私達がプレゼントを渡す時には新見君はまだ来てませんでしたね」

「ニートがグズでノロマですからニートが来る前に渡しましたからね」


えーっと、それは誕生日パーティーとしては正しい行いなんですかね?

プレゼント贈呈といえば誕生日会のメインイベントですよね?

遅れたとはいえ普通は待ちませんか?

メインイベントでもハブですか!そうですかそうですか。そういう扱いのキャラですか!?

まぁまぁ、どうせ俺はその程度の存在ですよ。どの道俺のプレゼントは物ではないので除け者ですしね。


それにしてもこの生徒会はボッチ養成強化所になってないか?

オリンピック競技にでも追加されるのか?

でも強化選手は俺だけだぞ?あっ、だからボッチか!


「双葉達は あいあい と ことみん とみんなで一緒に防具一式をプレゼントしたんだよ」

「防具一式?」

「うん。ゴールデンウィークにみんなで一緒に買いに行ったんだよ」

「………、えーっと、それってもしかして………俺が借りたやつとか……」

「うん、そうだよ。ニート君がしてた防具一式だよ」

「そうですね。思わぬところで役に立ちました」

「うんうん。ニートが怪我をしなくてすんだのは私達のおかけですね。感謝してもらわなければです」

「………」


俺は思わず絶句してしまう。


「うん?ニート君、どうしたの?」


「えーっと、なんでそれを選んだんですか?ねえ、どして?」


「えっ?怪我しないようにだよ?」


「誰が?ねえ、誰が怪我しないようにですか?って、お前等、絶対バカだろ?!うん。間違いなくバカだ!あの防具の所為で伊藤先輩は心置きなく攻撃ができるようになったんだぞ。こう言うのをマッチポンプって言うんだ!優雅にしてるんじゃねえ!感謝じゃなくて反省しろーーーーーーー!」


「うん?双葉達のプレゼントといおりんとの練習試合は関係ないよ?」


「って、だ・か・らっ!そうじゃねえーーーーーーー!」


俺は衝撃告白と会話連結強制接続斬(ワードチェインブレイカー)のダブル攻撃で思い掛けず絶叫してしまっていた………


◇◇◇


結局、俺はお昼休みの思わぬ衝撃告白に全精力を奪われてしまい、午後からの授業も爆睡する羽目になってしまった。

いいのかなぁ?さすがにここまで授業を聞いていないと少し不安になってくる。

まぁ、俺の目標は平均点なので他の奴等よりは気を抜いても良いのだが。


しかしどうして彼女達はいつもいつもこうも絶妙とも思える厄介事を撒き散らすのだろう?

あいつ等の趣味はフラグの掘り起こしなのか?そのフラグに当たるのは俺なんだからな。

本当に頼むのでじんわりと甚振(いたぶ)るのは止めて欲しい(泣)


俺は午後の授業を終えると寝起きで回らない頭でそんなことを考えながら、いつも通り生徒会室に向かう。

それにしても今日は一日中寝ていた所為か、生徒会室にしか居ないような錯覚を覚えるな。


「おはようございます」

「ニート君、はっふぉー」

「ニート、はっふぉーです」

「新見君、おはようございます」


今日も2大ディスは健在だ。


「あれ?伊藤先輩はどうされたんですか?」

「あっ、いおりんなら職員室に行ってるよ」

「職員室?また揉め事に巻き込まれたんですか?」

「ううん、違うよ。夏川先生に聞きたいことがあるみたいだよ」


夏川先生と言えば、言葉巧みに俺をこの禍災吹き荒ぶ生徒会に迷い込ませた元凶だ。

まぁ、感謝していないかと言うとそうではないが、如何せん俺の消耗が激し過ぎて±0と言ったところが正直なところか。


「呼び出しとかじゃなければいいんですけどね」

「あなたは何を言っているんですか?私達が呼び出しなど受ける訳がないではないですか!」


琴美が此方を見ずに何やら真剣に両手で何かを弄りながら言ってくる。


「お前達だから心配なんだろうが!少しは自覚しろ!って、それより……、琴平何やってるんだ?」

「見て分かりませんか?やっぱりあなたはバカですね!」

「分かったら聞いてねぇよ」

「ほほう。それは仕方ないですね。いいでしょう。教えてやりましょう。これは知恵の輪というやつです。伊藤先輩の誕生日プレゼントを買いに行った時に見付けたので買ったのです」


琴美は俺が分からないと言ったことが余程嬉しいのか、腰に手を当てて踏ん反り返りながら自慢げに説明を始めてきた。


「へ?それが知恵の輪か?随分変わった形をしているけど」


俺が知っている知恵の輪は細めの棒を2つ曲げて絡めたような物だが、今琴美が持っている知恵の輪はブロック状になっている。


「そうです。これは高難易度の知恵の輪なのですよ。この私ですら3日やっても外れない程の高難易度です」

「えーっと、それ自慢しながら言うことか?外れてないってことだろ?」

「ニートのくせに何を偉そうに!ではあなたは外せるんですか!?」

「いや、やってみないと分からないけど、知恵の輪なら外れるんじゃないか?」

「ほほう。それは私への挑戦ですか!いいでしょう!ではやってみるがいいです」


琴美はそう言うと自信満々に俺に知恵の輪を手渡そうとしてくる。


「いやいや、面倒臭いから遠慮しとくわ」

「ふん!逃げるのですか!そうでしょう、そうでしょう。ニートですからね」

「そうじゃねえよ!……そうだなぁ、もし俺が外せたら何か良いことでもあればやるけどな」

「ほう、報酬を求めるとはセコイ奴ですが良いでしょう。もしニートが外せたら何でも一つ言うことを聞いてやろうじゃないですか!私に外せなかった物をニートに外せる訳がありませんからね」


なるほど。琴美は3日掛けて外せなかったことがかなり悔しいのか、この悔しさを他の奴にも味わわせたいようだ。

しかしそれは琴美にとって残念な申し出で俺にとっては願ってもない申し出と言っても良い。

何故なら俺が外せれば、琴美の暴言や狂暴さを止めさせることだって可能ってことだからな。


「よし、そこまで言うんならその挑発受けて立ってやろうじゃないか」

「いいでしょう!ただし期限は明日の昼までです!」

「ああ、いいぞ。それまでに外れなければそれ以上やっても外れないだろうしな」


琴美は俺が外せないことを期待しているのだろう。心底嬉しそうにその高難易度の知恵の輪を俺に手渡した。


が………、


それから30分後、俺はいとも簡単に知恵の輪を外してしまっていた。

まぁ、外れたのは偶然の要素も多いのだが、この手の知恵の輪は空間認識力が高ければ高い程外すのに向いているみたいだ。


「な……、何故ですか………?」


琴美は先程までとは打って変わってかなりショックを受けたような顔付きで狼狽えている。


「う〜ん。琴平、お前、この紙屑をあのゴミ箱に入れてみ?」


俺はその辺に散らばっている不要な紙を丸めると琴美に手渡してゴミ箱に入れてみるよう促してみる。


「これが知恵の輪とどういう関係があるんですか?!」


どうも琴美は俺の言っている意味が理解できていないらしい。

まぁ、琴美にはその辺の説明をすっ飛ばしてるからそれも当然だが。

それに関係性を説明してもしゴミ箱に入らなければ泣き叫びならが襲ってきそうなので、ここは触れずに確認だけするのが良いだろう。


「なるほど。空間認識力ですね」


横合いから何かを察した愛澤が言葉を挟んでくる。

あっ、言っちゃいましたか!?ホント、誰も空気読まないよね?!


「ああ、まぁ、そういうことだ。ほれ、いいから入れてみろって」

「うっ、うぅ、……い、意味が分かりませんがいいでしょう!」


愛澤が音葉を挟んだことで何か関係があるということ理解したのか、琴美は紙屑を受け取ると、それをゴミ箱目掛けて放り投げた。


………


やはり琴美は空間認識力が弱いのか、琴美が投げた紙屑は方向も距離も描いた放物線までもが無茶苦茶でゴミ箱とは程遠い位置に飛んでいった。

どおりで此奴は俺との身長差を見間違えて胸倉を掴んでくる訳だ。

これが少しでも良くなれば琴美の狂暴さも治るかもしれないな。よしっ!琴美の空間認識力向上トレーニングを考えてみよう。


「う、うぅ………、こ、これは、か、紙が軽すぎるのです!こ、こんなものは関係ありません!」


琴美は目に涙を薄っすらと浮かべて、悔しそうに俺に向かって強がっている。

本当に此奴は負けず嫌いな奴だな。

まぁ、こういったところは可愛気があったりもするので愛嬌と言えば愛嬌なんだけど。

これ以上追い込むのも琴美が可哀想だろう。


「まぁ、そうだな。俺が外せたのも偶然の要素が大きいからな」

「そ、そうです!偶然に決まっています!」

「ああ、そうだな」


と、これにてフォロー終了!しかし琴美よ、お前は何か忘れてはいやしないか?


「でも、約束は守れよ」

「や、約束………」

「そうだよ。お前、何でも一つ言うことを聞くって言っただろうが」

「はっ!ひょ、ひょっとしてあなたは……わ、私の乙女の純情を………」

「ば、バッカ、お前!変な妄想してんじゃねえ!」


科(しな)を作って赤い顔をしたと思ったら、突然、お前は何を訳の分からないことをほざき始めるんだよ。

それは幼女にはまだ早過ぎます!オマセにも程があります!保護者として心配になってくるからやめろーーー!


「うんうん、ニート君はことみんにはそんなことしないよ」


うん?ことみん『には』ってどういう意味だ?他の奴にならするのか?

俺ってそんなに犯罪臭漂ってます?軽く谷底に落とさないで!


「ええ、そうですね。琴美ちゃん、それは許されませんね!」


って、それみろ!高貴な上流階級の宮廷マナー娘の琴線にまで触れたじゃねえか!

背筋が寒い!視線が痛い!空気が怖い!恐怖3大要素のフル活用だ。

ねえ、これどうするの?この冷たい空気どうするの?

こういう時に限って頼みの綱の伊織先輩は不在だったりするんですが………

って、そこっ!机の下に隠れるんじゃねえ!俺を置いていくな!


それにしても琴美は最近愛澤の琴線への刺激率が高過ぎるぞ。

頼むからそんなところをレベルアップしないでくれ。

愛澤も愛澤でもう少し一般的なマナールールに近付けて貰えないでしょうか?

このままだと琴美と絡む度に恐怖を味わうことになってしまうので………


◇◇◇


一方その頃、職員室では、


「夏川先生、お忙しいところ申し訳有りませんが、少しお時間を頂けないでしょうか?」


伊織が夏川先生の所に訪問し、先生との対談を申し出ていた。


「ああ、伊藤か。どうした?改まって」

「すみません。先生にご相談というかお聞きしたいことがありまして………」


どうもかなり重要な内容について話したいのか、伊織は深刻そうな面持ちで先生と向かい合い、時間を取ってもらえるようにお願いしている。


「ふむ。此処では話し辛そうだな。それじゃあ、隣の生徒相談室にでも行くか」

「申し訳有りません。ありがとうございます」


夏川先生も伊織の雰囲気から只ならぬものを感じたのか神妙な面持ちで立ち上がると、伊織を引き連れて二人揃って生徒相談室へと移動してゆく………

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