第9話 病院

 近づき過ぎて機体を大きく揺らしてしまったからか、南のセイヴァーは沈んでいった。良かった。無事で。

 と、目の前に南が乗ってきた。そ、そうなんだよ。こうするしかないんだけど……。セイヴァーは一人乗りだから。南をセイヴァーの肩に乗せたまま飛行っていうのも危ないし。でも、もう少し躊躇はないのか。ってそんな事言ってる場合じゃない。南は怪我してるんだから早く病院に運ばないと。

「ごめん。重い? 操縦もしづらいね」

南はヘルメットを脱いだ。

「全然大丈夫。気にしないで。それより傷あるし軍の病院に行くね」

「うん。ありがとう」


 操縦しようとするけれど、あーやっぱり操縦しにくい。ってか出来ない。

「あの、もう少しっていうか、かなりその、前のスペース空けてくれない?」

「あ、そうだよね。うん。じゃあ」

 さっき膝に乗ってたのとは格段に違う密着度。俺の胸の中に完全に南がいる。……操縦に集中しよう。

「怪我、大丈夫か?」

 さすがにずっと無言は気まずい。

「うん。多分。あ、でも」

「うん?」

「東出君の無線の声で気がついたの。ちょっと意識なかったみたい」

「それって危ないんじゃないのか? ちゃんと診てもらえよ」

「うん」

 だから、しばらくしてからの救助要請だったんだな。あんなに危ない状態なのになんでもっと早くに要請しなかったんだって不思議だったんだよな。



 軍の病院に着陸する。

 ヘルメットを脱ぐだけでそのまま中へと入る。症状と状態を伝えると南はすぐに診察室の中へと入っていった。何もなければいいけど。

「よお! 色男! すぐに助けに行って、やるなあ。お前って本当、戦闘時は強気だよな」

「健太郎! お前無事じゃないだろ。どうしたんだよ! その腕!」

 健太郎の腕には包帯が巻かれていて、その腕は首から下げて固定されている。

「いや、衝撃がきた時に腕を打ったみたいでさ。痛いからそのままここに来たんだよ。あ、でも折れてはないよ。ヒビ入っただけ。お前は?」

「ああ、南をここに送りに来ただけだよ。俺はなんともない」

「お前送ったって、一人乗りじゃああああ! そうか、お前がそこまでやるとはな」

 健太郎は自由な腕を俺の首に引っ掛ける。

「怪我してんだろ、外せ! そこまでもってな! 行ったら機体が沈みかけてるんだぞ。乗せる以外の選択肢あるかよ!」

 健太郎さすがに腕が痛いのかすぐに俺の首にかけていた腕を外す。

「南、大丈夫なのか?」

「さあ、順番繰り上げられて入って行ったからな」

南の消えて行ったドアを見つめる。

「そっか」

 沈みかけた機体を想像して南が病院にいる事を思い出したんだろう、さっきとは打って変わって健太郎は真剣な表情になっている。


「おお! いたいた」

 青山先生の声だ。声のした方を見ると先生は無事のようだ。こちらに向かってくる。さっきの爆発の怪我人は皆ここに来たらしい。一番近くの軍の病院だからだろう。他の部隊の人間も沢山いるんだろう、見たことない顔が多い。俺と同じ戦闘服には違う部隊が記してある。その間をぬって青山先生はここまで来た。

「無線で無事だと言ってたが、東出怪我か?」

「いえ、南を運んで来て」

「ああ、そうか。そうだったな」

 無線では各部隊が報告していたが、司令部なら把握できるが機体に乗ってた先生には難しい。

「部隊の確認ですか?」

「ああ。南は大丈夫なのか?」

「診察中です。頭打って気絶していたようなんで、どうかは。元気にはしてましたが」

「そうか。持田、お前は無事じゃないだろうが。治るまでどれくらいだ?」

「一ヶ月です。すみません」

「いや、それはいい。それくらいでよかった」

 青山先生の手元の書類に何か記入した。安否と状態確認だろう。

「部隊は? 全員無事ですか?」

「まだ、全員は確認出来てないんだ。じゃあ、他も確認してくるから」

「あ、はい」

 全員無事ならいいんだけど。

「お前でもよく見えたな。俺は目の前のマウスばっかり見てたよ」

「いや、たまたまだよ。でも、見えて良かったよ」

「だな。じゃなきゃ被害もっと凄かっただろうな」



 ここで館内に放送が流れる。


『正規戦闘員、並びに戦闘員。今回の襲撃について司令部で得た情報と世界各国の報告をもとに、明日朝十時に今回の事態の報告をする。場所はそれぞれの待機場所。医者から戦闘を停止された者は、次回からの正規戦闘員ではなくなり医者の許可が出るまで戦闘停止とする。正規戦闘員の欠員はそれぞれの部隊の戦闘員から繰り上がるので、繰り上がった戦闘員は次回からの戦闘に備えておくように。今日はよくやってくれた。以上』


 放送は終わった。皆が聞き入っていた。世界各国? どういうことだ? 世界中にもちろんマウスは襲撃している。同じ日に全く別の場所の襲撃という事ももちろんある。ただ今回のように同じ都市に三度続けてマウスの攻撃があったことはなかった。だが、毎日のように国のどこかは襲撃を受けている。だから他の国と同時に攻撃なんてザラにあるが、今日の襲撃は変わっていた。そしてそれと世界各国の報告をって、マウスの爆発はここだけで起こった事じゃないのか?


「健太郎外されてるんだろ?」

「ああ。まあ、当分はマウス来ないから、次の戦闘までには治ってるだろ!」

「怪我人はしっかり休んどけ!」

「ああ。でも、トレーニングも禁止なんて、何して過ごせばいいのか」

「筋肉バカかお前は、勉強しろ! 受験生!」

 さっきの襲撃の後で聞く受験生って言葉……俺が言ったんだけど、なんか空に浮いてる感じだな。戦闘と学園生活を過ごして来たけど、ここにある惨状はなかった。そして、街もどうなっているか。上から見ても破壊されて煙があがってる建物が見えた。学校は家は大丈夫なのか。

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