Action.2 【 おばさんの修行 】

 創作を趣味とする四人の主婦が山寺で座禅をすることになった。

 メンバーは関西の気さくな奥様の琴美ことみさん、おっとりしているが芯の強い翡翠ひすいさん、一見平凡な主婦だが実は武術の達人ポポさん、そして天然おばさん蓮子れんここと私である。

 発案者のポポさんは、日頃、PCに向かって創作をしている私たちは雑念がたまりやすいので、座禅を組んで気分をスッキリさせようと誘ってくれた。


 ふもとに車を停めて、歩くこと二時間余り、まだ目的の山寺が見えてこない。

「ポポさん、この道で間違いないの?」

 私が訊くと、ポポさんは地図を見ながら唸っている。

 おばさんにはスマホのグーグルマットなどという便利な機能を使いこなせない。だから地図を縦にしたり、横にしたりして考えているのだ。

「お腹が空いたなぁー」

 琴美ことみさんがリュックの中からおにぎりを取り出してみんなに配った。いつも気が利く人である。

「あ……」

 小さくつぶやくと翡翠ひすいさんが突然立ち止まった。バッグから手帳を取り出すと何か書き始めた。

「どうしたの?」

「詩が浮かんだものだから……」

 詩人の翡翠さんはどんな時でも詩心しごころを忘れない。常に自分の世界を持っている。

「山寺って聴くと、声優の山寺宏一やまでら こういちを思い出すよねぇー」

 私こと簾子れんこは「オッハー♪」と楽し気に一人で盛り上がっていた。

「あ、あれ!」

 ポポさんが指差す方向に、お寺と思しきいおりを発見。


「たのもう!」

 ポポさんが寺の入口で声を掛けると「ハーイ」と中から返事が聴こえ、マルコメ味噌みたいな小坊主が出てきた。

「いらっしゃいませ」

「私たち座禅にきました」

「はい。では、お堂の方へどうぞ」

 小坊主に案内されて、私たちは寺の中に入った。かなり古いお寺で廊下を歩くとギシギシと床が鳴り、板の底が抜けないかと少し心配になった。

 お堂に入ると法衣ほういを着た僧侶がお経をあげている。

「和尚、お客さんです」

「おう、そうか」

 と、振り向いた顔が山寺宏一にソックリだったので、「オッハー♪」と思わず叫んてしまった私に、琴美さんが肘で突いた。テヘヘ……。


「ようこそ、我が混沌寺こんとんじへ。皆さんに、さっそく座禅を組んで貰いましょうか。その前に何か質問ありますか?」

 山ちゃん似の和尚が真面目な口調でそう言った。

「えーと、トイレどこですか?」

 恥も外聞もなくトイレの場所を訊けるのがおばさんの強みである。

 座禅の前にトイレに行ってスッキリしたい私は、一人だと心細いので琴美さんに付いてきて貰った。

「今頃、外便所なんて珍しいよね。ポットンだったらどうしよう」

「さっさっと済ませて戻ろう」

 それはトタン板で囲っただけの粗末なトイレだった。そして、ドアを開けて中を覗くと……。

「ぎゃあぁぁー!」

「簾子さん、どうしたん?」

「だ、だ、誰かいる!」

 そこには、おかっぱ頭の女の子がポケットティッシュを持って立っていたのだ。

「トイレの花子さんや、怖いよう!」

 二人は泡食あわくって逃げ出した。

 前方にほうきを持った小坊主が立っている。その後ろ姿に、あわてふためいてうったえる。

「た、た、大変でーす! お、お化けがでたー!!」

「お化けって、こんなん?」

 そういって、振り向いた小坊主はひとつ目小僧だった!

「ぎょえぇぇ―――!」

 このお寺はお化けだらけや。ポポさんと翡翠さんは大丈夫か?

 琴美さんと私がお堂に戻ったら、なんと、ポポさんと翡翠さんの身体に白い大蛇が巻きついていたのだ。

「ちょっと! うちらの仲間に何すんねん!?」

 琴美さんが怒気を含んだ声で抗議した。すると大蛇は、

「お前たちはネットの物書きだそうだな? 今年は巳年みどしだから【 へび 】に関する、ことわざ・慣用句・四文字熟語を四つ上げてみろ! 全部正解だったら離してやろう」

藪蛇やぶへび」琴美さん。

じゃの道はへび」ポポさん。

竜頭蛇尾りゅうとうだび」翡翠さん。

のもんた!」

 ブハッと噴き出して、大蛇はのけ反った。

炊飯蛇すいはんじゃーヘビスモーカー、クシーってSNSもあるよ」と私。

 慌てた翡翠さんが私を肘でつついた。ニャハ?

「バカもーん! それはダジャレだろうが、そんな天然でよく小説書いてるなぁ?」

「いーえ、はじ書いてます」

 ついに大蛇は笑い転げた。

 その隙に琴美さんが、お堂にあった警策けいさくをポポさんへ投げた。警策をキャッチしたポポさんは大蛇目掛けて振り下ろした。

かつ!!」

 忽ち、大蛇はたぬきに変わった。

「大蛇の正体は狸だったのか!」

「スミマセン……」

「こんなことをおばさんたちにやってタダで済むと思うなよぉー」

 思い切り悪人面あくにんずらで私はすごんでやった。

「これを差上げるので勘弁してください」

 小さな玉手箱を渡して、とっとと狸は山へ逃げていった。


 帰り道、玉手箱の中身が気になる私はこっそりと開けてみた。すると、白い煙が中からモクモク出てきて、あっという間に周りが煙に包まれた。

 気が付くと、なんと私たち四人のお尻には狸の尻尾しっぽが生えていたのだ。

「物書きと狸は同属どうぞくか? どっちも人をだますもんねぇー」

 ぎゃははっと自分で言ったギャグが受けて、大口開けて笑っていたら――。

「笑ってる場合かぁー?」と、三人に肘で突かれた。テヘペロw




  ※ この作品は2013年(巳年)に書かれたものです。

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