第12話 最終奥義! グリーンスラッシュファイナルだッ!!

 河原に来た。

 土手をくだり、橋のたもと。コンクリートで固められた広々とした空間に出る。

 ハクもグリーンもついてきている。


「空き缶でいいかな……」

 いや、ダメか。いくらなんでも小さすぎるよな。

 それに――グリーンの腰に下がった剣がオレの視界に入った。

 《ラトの剣》とかいっていたそれは、あたりまえだが本格的な西洋の剣だ。そんなものを振れば、空き缶などだれでも容易く粉砕できてしまう。


「それとも、オレが相手を……。かかってこいグリーン! ……なんてな」

 木の棒を拾い、そんなことを一瞬思うが、速攻で頭から消す。

 腕に覚えがあるのならまだしも、そんなスキルは生まれてこのかた、ひとっつも身につけてはいない。オレがここで、颯爽とグリーンの相手をしたりしたら、相当にカッコイイんだろうけど……。そして「おまえの力はそんなものか! ふはは」と、コテンパンにしてやるとさらに爽快感UP。


 妄想そんなことをすこし考えていると、視界の端にある草むらに、車の古タイヤが積まれているのが見えた。たぶん捨ててあるものだ。

「おっ、あれでいいかな……?」

 はたして、西洋剣でタイヤを斬れるのか疑問だったが、他によいものが見当たらない。……よし、決めた。


「ちょっと、ここで待っていてくれ」


 オレは二人にそう告げて、タイヤが置かれている場所に向かう。しばらく雨ざらしにされていたのだろう、そのタイヤはどれも汚かった。手が汚れるのが嫌だったが、気にせず運ぶことにする。ずっしりと重いので一本づつ運び、それを四本重ねて置いた。


「これでいいか?」オレは手を払い、土埃を落としながらグリーンに告げる。


「……これを? いいの本当に?」


「ああ、これを斬ってくれ、できるか?」オレはタイヤを指し示す。


「ふうん、……いいよ」


 グリーンが、その瞳にするどい光を宿す。

 ……やる気だ。

 お、さすがは勇者。そんな凜とした、戦いにおもむくような緊張感のある表情になる。今日はじめてみたグリーンの表情だ。こいつ、こういう表情もできるんだな……。


「……わかった。ハクト達はあぶないから、すこし離れていて」


 たしかに剣の届く範囲にいたら危険だ。オレはハクの手を引いて数メートル後ろに下がる。


「……もっと下がって」


 グリーンに言われるままに、さらに数メートル下がる。

 ……そんなに危険なのか。おもったよりも剣の間合いというのは、広いのかもしれない。


「もっともっと! 下がって!」おもいっきり手を払うしぐさをするグリーン。


 オレとハクは、さらに数メートル後ろに移動する。


「あーもう! そんなところじゃなくて! あっちの上で見て!」グリーンが土手の上を指す。


「え? ……そんなに離れなくても」


「はやくあっちにいって! そこにいたら邪魔! 本当にあぶないから!!」


「いや、べつに……ここでいいんじゃ?」すでに十メートル程度は離れている。剣なんかが届くとは思えない。


「……ここは、勇者のいうことを聞こう、シロ」そういって、オレの袖をひっぱるハク。意味がよくわからなかったが、しぶしぶ移動する。

 ……どうせなら、近くで見たかったんだけど。



「ここでいいかあグリーン!」土手の上に移動したオレは、グリーンに伝わるように大声をあげる。


 広々とした空間でタイヤと対峙しているグリーンは、タイヤに視線を合わせたまま、こちらを一切見ずに片手をあげて応えた。集中しているのが、ここまで伝わってくる。


 しばしの静寂。


 風が吹き、枯れ草玉タンブルウィードが転がる。

 西部劇のような、緊迫感を醸し出す。

 ……って、この演出いらないよね。どこから転がってきたんだよ。植生無視かよ。


 さらに、すこし間があって、グリーンが腰にあるラトの剣に右手をかけた。


 お、ついに始まるか。


 ――ゴクリ。オレの喉が鳴る。と、ほぼ同時――


 ――ダッ!


 積まれたタイヤに向かい、駆け出すグリーン。


「疾い!」


「はああああああああああ!!」


 叫びとともに、そのまま、一直線に駆け抜ける。


 ――タイヤの横を。


「……へっ?」


 グリーンの駆ける先には、巨大なコンクリートの壁。

 橋の橋脚にむかい、鞘から刃を抜き放つ。


 その刃はエメラルドの光を帯びて輝いている。



「グリーンスラッシュ! ファイナル!!!!」



 ――カッ。


 おおきく振るった剣から放たれた、エメラルド光が橋を一閃。

 その光はコンクリートを透過して、天にまで届き、雲を裂かんかという勢い。


 ――パキッ。


 ズズズ。

 コンクリートがずれていき……


 爆音。


 おくれて風圧が届く。オレはその強さに、じぶんの顔を腕で庇う。


 バシャバシャバシャ。

 川の水面を割るコンクリート片の音。

 橋は粉砕され、ガレキとなって厚く積もる。


「みたかハクト! これぞ魔王を倒したあたしの最終奥義! グリーンスラッシュファイナルだ!!」


 ドン! ドドン!!

というグリーンへの集中線が、オレ脳内で再生される。

 

 グリーンスラッシュファイナル。技名にたがわぬファイナル感満載のすさまじい威力だった。

 

 ……さっき一瞬でも「オレが相手を~」などと考えた、オレのバカ。

 こんなの喰らったら即死どころか、髪の毛一本この世に残らない。

 オレが軽い気持ちで相手をしていたら、グリーンのことだ……。こちらの実力なんていっさい考えることなく、全力で剣を振るってきたにちがいない。

 ……うっわ、あっぶねー。華麗に自殺するところだったよオレ。

 死因にグリーンスラッシュファイナル。て書かれるの、いやすぎる。


 うん……。オレは完全に舐めていました。……勇者の力。   

 

 それにしても、グリーンスラッシュファイナル。これなら魔王といえども、ひとたまりも――って、



「そっちじゃねええええええええええええええ!!」

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