第6話 勇者あああああの猛特訓

翌朝。


「とりあえず、モンスターを倒して修行しようぜ。」


俺の提案に皆が賛同する。


「そうだな!序盤と言えば拠点の周りでレベル上げって相場が決まってるしな!」


ガリアンがいつも通り意味不明なことを言う。どうでもいいや。


「はい。あのヒミコに勝つためには今のままだとだめですよね!頑張りましょう!」


アリゼが健気なことを言う。かわいい。


そうだな。とんでもない強さだったぜ。椅子から立ち上がりもせずに俺たちを圧倒してたもんなあ。


俺たちは、村の外れでモンスターを探す。


「いたぞっ!スラーイムだ!」


「ぴぎいっ」


スラーイムがこちらに向かって跳ねてくる。


「くらいやがれっ!」


ガリアンがスラーイムの顔面に向かって斧を振り下ろした。


ぐちゃっ。


スラーイムの肉片が辺りに飛び散った。


盗賊団との戦闘といい、いちいちグロいなあ。


「大丈夫、『暴力描写あり』のレーティングがかかってる!」


最近は規制が厳しくて困るぜ、などと言ってるガリアンを無視して、俺たちは次のモンスターを探す。


がさがさっ。


茂みが揺れて、大量のスラーイムが飛び出してきた!!


うわあ!!


10、20、いやもっといる!!


俺たちは、数十匹のスラーイムに囲まれてしまった!


いくらスラーイムでもこの数はやばい!!


「どうしましょう!?あああああさん!!」


ほんとどうしよう。スライムに土下座しても意味ないよね。


いやまてよ。


ほんとに意味ないだろうか。


誰も試したこと無いんじゃないだろうか。


「ダメかどうかは、やってみないと分からないぜ!!」


俺の言葉に、アリゼがハッとした顔をする。


「そうですね!私弱気になってました!!全力を尽くしましょう!!」


ああ。全力で土下座だ!!


俺が土下座のモーションに入ろうとした時、ガリアンが叫び声を上げた。


「何だ!?こいつら変な動きしてやがる!?」


うん?見るとスラーイム達はユラユラと左右に揺れるだけで攻撃してこない。


ゆーらゆーら。


「あ、あれは!」


「知っているのかアリゼ!?」


「はい。あれはスラーイムの求愛行動です!」


求愛行動!?


一体なぜ!?


俺たちはスラーイムじゃねえぞ!?


あんなブヨッとしたゲルの塊と人間を間違える訳ないだろ!


間違える訳・・・・


「なあ、ガリアン君。」


「何だ。」


「ちょっと左右に揺れてみて。」


「はあ?何言ってんだ?」


「いいから」


「・・・こうか?」


ガリアンが左右に揺れた途端、周囲のスライムが一斉にガリアンに殺到する。


その勢いたるやセール品に群がるおばちゃんの如し。


いつもはとぼけた顔してるスラーイムの目が血走っている。


「ぐおうっ」


汚い悲鳴と共にガリアンはスラーイムの海に沈んだ。


「ガリアンは犠牲になったのだ・・・」


ガリアンの犠牲は悲しいことだ。


だけど俺たちにはガリアンの分まで生きる義務がある。


今のうちに逃げよう!


向きを変えようとした俺の脇を火球が飛んで行った。


じゅう。


ガリアンにくっついていたスラーイムが一匹火球に焼かれぽとりと落ちた。


他のスラーイムはガリアンに夢中だ。


「とりあえず・・・焼き殺しておきました。」


笑顔で言うアリゼ。


史郎・・・じゃない。アリゼさん!?


「大丈夫です。スラーイムは、生殖行動中ですから攻撃してきません。ガリアンさんも無事ですよ。」


なーんだ。ビビッて損しちまったぜ。


「ガリアン君!今助けてあげよう!」


俺はヒノキの棒でスライムを思いっきり叩く。


「いてえっ」


あっガリアン叩いちまった。まあいいか。




結局その日は一日中、スラーイムを倒してすごした。


後から後から、スラーイムがガリアンに吸い寄せられてきたのだ。


俺とアリゼにはいい特訓になった。


アリゼが新しい魔法を習得できたみたいだったし上々だ。



俺たちは疲れ果てて帰路につく。


「はあ。今日の宿代を払うと残り90Gか・・・。」


俺は財布の中身を考えため息をつく。


金か・・・。


ん?まてよ。


「そういえば、モンスターを倒したのにお金が増えてないぞ!?」


「何言ってやがる。モンスターが金なんて持ってるわけないだろ。使えもしないものをなんで持ってるんだよ。てかスラーイムのぶよぶよの体でモノが持てるわけないだろ?」


一日中スラーイムにまとわりつかれていたガリアンが不機嫌そうに答えた。


なるほど。言われてみれば確かにそうだ。


スラーイム倒すだけで金が手に入るなら、スラーイムはとっくに絶滅してるよな。


もっとも、この辺り一帯のスラーイムは絶滅しちゃったけど。


「あああああさん。きっと疲れてるんですよ。私もくたくたです。」


ふわあとあくびをするアリゼ。かわいい。


確かに疲れた。だけどこんな調子で大丈夫だろうか。


訓練にはなったものの、結局スラーイム狩りは、無抵抗の相手を殴るだけだった。


こんな修業であのヒミコに勝てるんだろうか。


あのヒミコに。


あのヤマタノオロチに。


あの魔王四天王の一角に。


「とりあえず、今日の宿代を払いに行くか。」


俺たちは、宿屋に向かった。


うん?何か宿の中が騒がしいな。


おばちゃんの怒鳴り声が聞こえる。


「何だ!?何かあったのか!?」


俺たちは、恐る恐るドアを開ける。


するとそこには、魔王四天王ヒミコが居た。

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